オナホ学園の劣等生(原作での主人公の仲間の匿名掲示板での通称)

 中村は非常に優秀である。

 裏切った一人を除けば、召喚された六人で最後まで残った地球人だ。

 女神は彼に感謝しつつ、その労をいたわろうとしているが、相応の恩賞を与えることさえできないでいるため、「いつもありがとう」と無報酬に言うしかない。


 私は、それが申し訳ない。


 一年前までは彼自身が、それ以後は彼が生前に残した仕込みが、魔族側の手を防いでいる。

 侵攻先の土地の多角的罠。

 原作キャラ達へのテコ入れ。

 原作で厄介だった魔族複数体への同士討ち工作。

 魔族にぶっかけると全身から永遠に射精しながら死ぬ媚薬の開発。

 その他諸々。

 ここ一年、イリスの村に魔族側の最強格戦力が来ていないのは、間違いなく彼の功績だ。


『おう、もっと褒めろ。つっても、実際どのくらい魔族の妨害できてるのかは知らんがな。どうしたって限界はある』


「魔族……かあ」


『耳慣れねえか? ま、お前が戦って来たのは大地の悪意とかだったしな』


「ん、まあね。俺にとっては知らない怪物ってやつさ」


『強い奴はマジで強いぞ。光速のやつとかいるしな』


「まいったな。光速戦闘を行う怪人とは二回しか戦ったことがないんだ」


『なんで特撮ヒーローは光速の敵が複数挙がる上に定期的に光速の敵に勝ってんだ……狂ってんだろ……』


 ファンタスティックVですからね。


「だけど、分かり合うことが不可能な敵というのは分かりやすくていい」


 魔族。

 異世界ファンタジーの代名詞。


 人外。

 化物。

 人に似て非なる者。

 人類種の敵対種。


 この世界に存在する魔族は、諸事情あって人間との共存は不可能で、人間の倫理基準で見て品性下劣な者が大半を占めます。

 ファンタスティックVの敵、大地の悪意の化身ガイアデビルよりずっと人間から遠いものです。


『ゲーム実況者が投稿した動画に"なんで実況中にイベント全部回収していかないんですか?半端で気持ち悪いです"ってコメントするカス視聴者より民度が低い種族。それが魔族だ。あいつらゲーム買う気がねえから全イベント実況で見れないとキレんだよ、鬱陶しいぜ』


「急に分かりにくくなった」


『分かりやすいだろ!?』


 あ、イリスちゃんだ。


 村を歩いて見回っていた紫山は、イリスを発見する。

 イリスはいつものように、13歳の身で……あれ?

 このゲームには18歳以上の登場人物しか出てないんでしたっけ?

 じゃあイリスちゃんも18歳?

 あれ、でもイリスクロニクル2からちっちゃい女の子のえっちなシーンがあるとか聞いてたような……あれ……?


『そこは考えなくていいぞ』


 あ、はい。


 イリスはいつものように、13歳の身で色んな人を助けて回っていた。

 村の真ん中を流れる川に行っては、婦人らの洗濯の手伝い。

 北に走って、若い木こりが皆のためにしている薪割りの手伝い。

 かと思えば南に駆けつけ、お爺さん達がしている種まきの手伝い。

 東に行っては生まれたばかりの赤ん坊のお守りを代わって、西に飛んでは紫山が借りている空き家の掃除をこなしている。


 いつも誰かを助けているイリスは、まだ顔つきも幼気で、でも体はだいぶ女性らしく……胸尻10cmくらいずつ私に分けてくれないかな……女神アルナが羨ましいと思うくらいの発育で……紫山と中村に守られ、すくすくと育っていた。

 誰にも輝かんばかりの笑顔を向けていたイリスは、近付いてくる紫山を見て、明らかに他の人に向けるものとは違う笑顔を浮かべて、ぶんぶんと手を振る。


「あ、おにーちゃーん!」


「おはよう、イリス。朝早くからみんなのお手伝いしてて偉いね」


「えへへ。わたし、将来なんでも屋になるのが夢なんだ!」


「なんでも屋……」


 紫山は、元居た世界で自分達戦隊を自宅兼事務所に住まわせてくれていた、丸山丸尾という一般人のことを思い出していた。


 ファンタスティックV、第一話。

 いきなり拠点と先代が残してくれていた巨大ロボを悪の組織に完全破壊されてしまい、なんとか勝利を収めたものの、ファンタスティックVは行き場所を無くしてしまった。

 そんな彼らを自宅であり事務所である所に住まわせてくれたのが、第一話でファンタスティックVが命がけで助けた一般人のなんでも屋、丸山丸尾だった。

 鍛錬と戦闘しか知らなかった紫山に、ゲームや友情を教えてくれた、かけがえのない親友……紫山が掛け値なしに称賛する一般人である。

 好き。


 ファンタスティックVの面々は、第一話以降、世界を守りながらなんでも屋を手伝うことになる。

 時には、なんでも屋の依頼を受けて行った先で、怪人に出会い。

 時には、怪人の出現に駆けつけ、なんでも屋の依頼をヒントにして勝利し。

 怪人をついでのように倒し、30分全てなんでも屋の奮闘で終わらせる異色回まであった。

 そういう形式の特撮番組だったのが、ファンタスティックVであった。

 好き。


 "なんでも屋"というものは、紫山にとって特別な意味と響きを持つ言葉だった。


『オタク、すぐ長文語りする』


 うるさいですね。


「おにーちゃんも一緒にやらない? 世界中の困ってる人を助けるんだよ!」


「素敵だね。大きくて素敵な目標だ。いつまで一緒に居られるかは分からないけど、それまでなら手伝えるよ、イリス」


「一緒は、いつまでも! どこにも行かないでよ、おにーちゃん!」


「……困ったなぁ」


「ねー、ねー、どこにも行かないでよ。おにーちゃんと結婚してあげるからぁー」


 は?


「こら、イリス。よく分かってないんだろうけど、結婚はそんな軽いものじゃないんだよ。女の子には特にね」


「んむー、子供扱いしてー。いいもん。おにーちゃんをメロメロにしてみせるもん」


「いいかい、イリス。結婚とは不滅の契約。愛とは宇宙の理をも凌駕する強靭なる感情だ。そして、戦隊はそれを守る者であって、それを享受するものではない。俺はともかく、君には人を愛し、人に愛される資格があるんだ。幼い頃は愛や恋と勘違いすることもあるけど、それは未発達の感情の勘違いで……」


「……なんかもう、下手すると一生結婚できなそうで、本当に放っておけない……」


 うん、ちょっと私もそう思う。

 あ、紫山さんの腕抱いた。

 イリスちゃん?


「俺そんなに君に好かれることしてないと思うけど」


「うーん、恋愛レベル1! そんなんじゃ駄目だよ、おにーちゃん」


「……むぅ」


「ちなみにー。おにーちゃんには最低一日一個好きになれるとこ生えて来るけどー。昨日のおにーちゃんで一番好きになれたとこ、発表、じゃじゃん。はえある一位は、昨日皆が避ける糞の肥料化処理まぜまぜを進んでしてたおにーちゃんです!」


「そこ好きになるとこかい?」


「おにーちゃんは分かってないなー」


「ごめん、分かんない……」


 ひぇっ。

 距離が近い。

 この……クッ……私の推しにベタベタと……いや……でも見る目がありますねイリスエイル・プラネッタ……紫山水明は間違いない選択ですよ。


 原作で名もなきおじさんやチャラついた男と結婚してた子だとは思えません……だいぶイリスちゃんの男を見る目評価を上方修正したくなります。

 うう、おなかが痛い。

 メンタル弱い自分がいや。

 個別エンドがシリーズ通算で三割が脂ぎったおじさん、三割が魔族か魔物、二割が性格カス男だったイリスちゃんが……こんな……なんて変則的な救い。


『お前言い方考えろ』


 すみません。


「ね、ね、おにーちゃん、手を繋いで行こ! 村のおねーさん達牽制したい!」


「イリスは賢いなあ。でもね、あんまり牽制にはならないと思うよ」


『イリスエイル・プラネッタ、こんなに卑しい女だったか?』


「おじちゃん、人間は成長するんだよ」


『おじちゃんじゃねえつってんだよ!!!!!!!!!!!!!!!』


 二人と一個でわちゃわちゃと騒いで半日が過ぎる頃、村に定期便がやってきた。

 村と街の間を安全に行き来するため、人が集まって移動する商旅団のようなものである。

 村の特産品を商人が買い、護衛の傭兵が村人と楽しそうに談笑し、学者が植生調査の事前準備を始め、工芸士が村人にアクセサリーを売っている。

 にわかに、村がにぎやかになっていた。


『あの新聞っぽい羊皮紙のやつ買ってくれ。世界情勢を再確認してえ』


「分かった。すみませーん、一枚くださーい」


 紫山が新聞もどきを一枚買い、中村はそれをじっと見て、唸る。


『……ぼちぼちそういう時期か』


「そういう時期?」


『年表は頭に入ってるからな。大まか次に何が起こるか分かる。覚悟しとけ、水明。今月はだいぶ最悪だ』


「なるほど。分からないが分かった。それまで鍛え直しておこう」


『頼もしさがすぎる』


 わかりみがすぎますね。


 二人が新聞を読んでいる間に、学者らしき人物が、イリスに話しかけていた。


「おお、君が。噂はかねがね聞いているよ。最近この村でも特に勉学の意志がある子だとか、期待されてる子供だとか」


「? そーですね。おにーちゃん、たぶん賢い女の子が好きなので」


「ふむ、恋愛感情が動機か。まあ構わない。勉学はどんな動機でも始めることが大事だからね。ここの村長に打診されているのだけれど、君は王立学園に通ってみる気はないかね?」


「おーりつがくえん、ほほー、頭良さそう」


「最初は分校からになるだろうがね。成績が良ければ本校にも移れるだろう」


「えーどうしよっかなー、おにーちゃんも一緒ならいいかなー」


 学校にイリスを誘う学者を見て、腕輪が鈍く光った。


『おいヒーロー、オレをあいつの近くまで持っていけ』


「? 分かった」


 よく分からないまま腕輪の彼を学者に近付けた紫山だが、次の瞬間びっくりする。


『あんな多国籍オナホ学園にプラネッタを通わせられるか! 帰れ帰れ!』


「多国籍オナホ学園!?」


「!?」


 八割事実なのが、あまりにも酷い。


 アマリリス王立学園は、シリーズを通して何度も何度もエロシーンの題材に使われ、シリーズを通して四回ほど学園女子総肉便器展開がIF√として存在する、処女輪姦喪失のメッカである。

 催眠で学園が支配されたりオークに占拠されたり女に飢えた傭兵軍団に襲撃されたり、その危険度はSランク。

 "異世界ファンタジーでエロ無双するこの学校の体育教師ヤバい"とユーザーに絶賛された……とか、なんとか、前任の女神ケツアルコアトルが熱弁していたことを、女神アルナは覚えている。


 が、今のところは清廉潔白で何も起きていない学園なので、学者は腕輪の暴言にキレた。そりゃそうだ。


「学園創設以来最大の暴言吐いたぞテメーッ! クソ腕輪が! 便槽に沈めてやる! 覚悟しろ!」


『事実陳列罪は存在しません~~~。迎え撃て水明! ぶち転がしてやれ!』


「ええ……」


『そして言ってやれ! 学園では何を教えてたんですか? 快楽屈服した時の情けないチンコに媚びた口上の語彙なんですか? ってな』


「こ、この口調と暴言……まさか学園史上最大問題児のナカムラ!? 死んでなかったのか!?」


「おい」


『知らん名前だ』


 女神は中村ほどではないが色々知っているため、悲しいことに中村の暴言を否定できない。


 学者が帰路につくまで、紫山水明は学者と腕輪の間に立ち、ずっと仲裁していた。


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