本編

私は純人間だ。

他の子は混血。

皆私の血を試しに飲んでみたいと半分冗談、半分本気で詰め寄ってくる。

いつかねーと誤魔化しながら笑い合う。


でもある人が来るとしんと静まり返る。

コツ、コツ、コツ。

その人の足音だけか嫌に響く。

その通った後を追うように静かな黄色い歓声があがる。


この学校唯一の真祖である赤誉あかほまれはく


綺麗な姿勢で椅子に座り静かに教科書やノートを取り出している。

耳には特注の耳栓。

こうでもしないと音がうるさすぎるんだろうなぁ……。


静かになるのはその時まで。

また話が始まる。


「ほんとキレイだよねー。付き合いたいわ。」


真祖は誰しもが憧れる。

主に見た目だけど……。

私はキレイには見えないかなぁ。



真奈まなはさーどう思う?」


聞いてくると思ったよ。


「キレイとは思うけど……そこまでじゃないかな……。」


「「「「えーーー!!!!」」」」


と一同が湧く。

まぁ、うん、混血の子からしたら真祖なんて憧れで本能レベルで付き合いたいんだろうなぁ……。

でも私人間だし……。


1日が終わり、日直なので黒板を消したり、先生から頼まれたプリントを枚数数えてホッチキスで留める。

みんなが帰った中、赤誉さんが帰ろうとしない。

じーっと私のことを見つめてくる。

背中に視線が刺さって集中できない。


「な……」


なんで見てるくるの!!

と言おうと思ったら既に隣にいた。

音もないし速いし急に来るしでびっくりしてしまった。


「貴女とお話したくて。」


低めの妖艶な声。

でもなんだか私は惹かれない。


「私のことキレイじゃないってほんと?」


切れ長の赤い目でじっと睨んでくる。

蛇に睨まれたカエルになった気分……。

私の性格的に嘘はつけない。


「皆が言うほどじゃないかなってくらいだよ?」


「ふーん。ふふっ。」


嬉しそうに笑う赤誉さん。

笑顔なんて初めて見たかも……。


「嬉しいわ。またね。」


混乱して返事が出来ないまま、気がついらもういない。


これだから真祖は!!!!!


何!?

あの得意げな笑顔は!?

ムカつく!!!!

さすが真祖様!!

お高くとまりやがってぇ!!!!


「あーー!!もう!!!」


むしゃくしゃして空を見上げると月が綺麗に見える。

満月?

いや、まだっぽい?


「キレイだなぁ……。」


はぁとため息とともに明日学校に行きたくないとぼんやり思う。



真奈さん……。

ふふふ……。

私のことをキレイじゃないって言ってくれた。

家族も親族も周りもいつもいつもいつもかっこいいだのキレイだの喚き立てる。

その度にありがとうと笑顔を作るのはうんざりだ。


でも真奈さんは違った。

友達になれたらいいのに……。

こんなに気分が高揚するのは明日がいよいよ満月だからだろうか。


明日は学校には行かない。

吸血衝動を抑えられないからだ。

私の家には代々伝わる祠がある。

そこで一夜を過ごす。

誰も傷付けないように。



学校に来ると赤誉さんはいなかった。

そのせいか学校は活気がないかと思いきやそうでも無い。

満月の日だから皆いつもより私を見る目が怖い。

衝動が重い子も学校には来てないようだ。


「血ぃ吸いてぇなぁ……。」


普段言葉使いが丁寧な子でさえこの始末だもんなぁ……。

皆イライラしながら片手には人工血液を持っている。


「ねえ、ちょーーーっといいかな?」


複数人の混血のグループがいきなり現れ、私の返事を待たずに強引に連れていかれる。


目隠しされ、猿轡も噛まされ一切の抵抗が出来ない。


椅子に縛りつけられ、やっと目隠しをはずされる。


どこかの薄暗い倉庫だ。

恐らく使われていない旧校舎にある倉庫だろう。


1人の混血の子が私の背後に周り首から頭にかけてスーッと息を吸い込む。


気持ち悪い。


「はぁぁぁぁぁ……純人間ってこんなに美味しそうな匂いするんだね……食べていい?」


リーダーらしき子に懇願するが、どけと手振りで一蹴されてしまう。


そして私に養豚場の豚を見る目で怒りの籠った声で語りかけてくる。


「家畜以下の人間が赤誉様と話してんじゃないわよ。」


おおう……こういう組織でしたか……。

これから何されるか分かったもんじゃなく、震えることしか出来なかった。



まだ日は落ちてない。

だが、既にいつもの感覚がさらに数百倍くらいまで高まってる気がする。

うるさいし、臭いし、細かいところも見えすぎてしまう。

そんな日だからかなのか、私の第六感が告げる。


学校に行けと。

なぜかなんて分からない。

今は理性より本能で動いてしまう。

服を着てメイドや家政婦に止められそうになっても無視して学校に向かう。


純人間の匂いが強くなル。

あっという間に匂イの元に辿りつく。

混血が4〜5人。

そしてイスには真奈ちゃん。


「赤誉様!!!」


急に大きな声を出されて頭が割れそうになる。


「うるさい!!」


流石の剣幕に混血達がたじろぐ。


「失せろ……。」


リーダーの子以外は蜘蛛の子を散らすように逃げてった。

リーダーの子は丁寧なお辞儀をして恍惚な表情を浮かべて優雅に去っていった。


2人きり。

匂いが……強イ。

血……すう……。

すいたい。


なんとか必死に抑えながら真奈ちゃんを縛っているロープを解く。

その間にもこの世のものとは思えないほど食欲をそそる匂いがするわけで。


本能が食えと声高に叫ぶ。



助けられてる手前なんだけど、すごい辛そうな顔をしている。

汗はダラダラで口をずっと噛み続けてるせいで出血もしてる。

解いてるでも震えている。

時たま口を開けそうになるけど首をブンブンと振って本能に対抗している。

時間にしたら数分もしなかっただろう。

でも、私を食べまいとするその表情に私は虜になった。


あぁ、ドSなんだなぁと理解する。


「お願いだから……早く……逃げて……。」


解き終わるとその場にうずくまり両耳も手で塞いでいる。

私を意識の外に出そうと必死なのが伝わる。


「分かった、ありがとう。」


そのうずくまっている様子を見て、私はとあるところに向かった。



食え、間に合う、逃がすな、血を吸え、襲え、飲め、貪れ。


本能が暴れている。

動けない。

1歩でも動いたら人間をすぐにでも探し出して襲ってしまいそうだ。


真奈ちゃんの匂いが脳裏から離れない。

気が狂いそうになる。

これが真祖としての代償。

こんなのに憧れるなんて皆どうかしてる……。


はやく石の祠に行かないと……でも動いたら間違いなく人間を襲ってしまう。


そんな問答をぐるぐるしていると真奈ちゃんの匂いがまた強くなる。


「こっちです!!」


複数人の足音も確認できる。


「赤誉さん、こらから吸血衝動対策の人達が触るからね?」


わずかに頷く。


「よく耐えたね。こらから君に丸いドーム状の装置を被せる。匂いや音が軽減されるはずだ、いいね?」


「は……やく……。」


楽になるんだったらなんだっていい。

すぐ後に頭上から何かがすっぽりと私を覆った。


音と匂いがほぼしなくなる。

ふぅと一息つく。

だが、油断すればすぐに人間を襲いそうだが。


私の目に眩しくないモニターが付き、自動音声が流れる。


「これは緊急用吸血衝動対策ポッドです。吸血衝動拘束施設に移動しますのでジャンプしてください。3,2,1,今です。」


言われるがままジャンプするとコンクリだった床が瞬時に清潔な板に変わる。


「重量検知、これから施設まで移動します。揺れには気をつけてください。」


移動しているのだろうが、振動や揺れはほぼ感じなかった。


プシューという音ともに目をきつく閉じているのにも関わらず眩しい光が目に突き刺さる。

それと同時に人間の香りがぐわっと脳内に駆け巡り思わずキッと睨んでしまう。


「赤誉……さん?」


「どっか行け!!!!!!」


襲いたい、飲みたい、かぶりつきたい、手が自然と伸びるが我に返って抑える。


「……拘束している間彼女に見守ってもらいますか?」


吸血衝動拘束施設だと、拘束されている姿を見せたくないという理由が多いことから配慮し、完全防音使用で外からも絶対に見れないような部屋になっている。

だが、拘束される本人と付き添いの同意があれば1人だけ拘束される本人と一緒にいてもいいという決まりがある。


「いさせてください!!」


真奈ちゃんが大きな声で立ち上がる。


「やめろ!!誰のせいで狂うと思ってんだ!!あああぁあぁあ!!!!」


「限界です。とりあえずこちらに!!」


爪を壁や床に引っ掻きながら拘束具へと向かう。

恐らく自分の爪が触れたところはひび割れていたりしているだろう。

だが、そんなこと考えてられない。

とにかく今の内にしっかりと固定しよう。


やっとの事で拘束が終わる。

あとは耐えるだけだ。

ようやっと安心感が生まれいつもこの時は1人なのを思い出し、思わず言葉が漏れる。


「一緒にいて。」


真奈ちゃんを見据えてしまった。

何故かいて欲しくなった。


「うん。」


二つ返事で快諾してくれる。


「ではごゆっくり。もし何かあればこれを。」


真奈ちゃんがボタンを受け取る。

真祖が万が一拘束を抜け出した場合の緊急用のボタンだ。

このボタンを押せば対真祖組織へと繋がり無力化してくれる算段だ。


「私、ちゃんと見てるね。」


真奈ちゃんにそう言われて全てを受け入れてくれるという安心感に包まれる。

さらけ出そう。

私を。

真祖を。


「よこせぇぇぇぇ!!!!!飲ませろぉぉぉぉあぁぁあ!!!!!」


フーフー……血……血血血血血!!!!!


「血ぃぃぃい!!!!!!!」



19時丁度になって急変した赤誉さんを正面に見る。

普通の混血とかにんげんだったら逃げちゃうんだろうな。

でも、あぁ、なんて美しいんだろう……。

そんな目で私を見て……そんなに欲して……。

私、赤誉さんが大好きになっちゃう……。


元から怪物に憧れを抱いていた。


よくある可愛い怪物の人外ではなく、こういう本当に命を狙ってくるタイプの人外に。

それが今私を求めて暴れている。

ガチャガチャというかガキンガキンという太い金属が悲鳴をあげている。


あんなのに捕まったら瞬殺だろう。

でもそれがいい。


あっという間に時間がたち、ふと糸が切れたように赤誉さんがぱったりと動かなくなる。


その疲れきって寝ている顔に静かに「お疲れ様」とキスをして、起きるのを待つ。



目を開く。

視界がぼんやりする。

暴れた反動で体中が痛い。

記憶はほぼない。

ぼんやりと覚えているのは真奈ちゃんが私をただ真っ直ぐに見つめてきている事だった。


「あ、起きた?」


なんでもない日常のように挨拶をしてくれる。


「うん、おはよう。」


「おはよう。吸血衝動は収まった?」


「お陰様で。」


「……私の血飲んでみる?」


反射的にヨダレが口の中に溢れる。

しかしそれを出さないと飲み込む。


「飲んでみたいけど飲んだら収拾つかなくなりそう……。」


「そっかぁ……。」


ちょっと残念そうにする真奈ちゃん。


「ねぇ、真奈ちゃん。」


「何?赤穂さん?」


「付き合って。」


私なんでこんなこと言ってんだろうな。

でも真奈ちゃんなら私を受け入れてくれる。

普段の私をキレイじゃないって思ってくれる。

それだけでいい。


「いいよ。」


そう言うとまだ拘束されている私に近付き、口に軽くキスをしてくれる。


「あ、真祖でも耳赤くなるんだねぇ。」


イタズラな笑みを浮かべる真奈ちゃん。

そんな彼女が好きだ。


Fin.


あとがき


オチは無い!!

以上!!


ていうかここまで書くと短編って言っても大丈夫なんですかね?


最近気がついたんですけどシチュエーションが浮かばないとそもそも小説書けないもんですね。

シチュエーション浮かばない→書くモチベが上がらない→シチュエーション考えなくなる

っていう負の連鎖ですね。


なのでシチュエーション浮かぶまでは書けない日々が続くので悪しからず。


誰か私の小説を漫画にしてください(懇願)。

私絵が描けないもんで……。

小説のリンクさえ貼ってもらえれば全然自由に描いてもらっていいのでお願いしますとか言ってみたりしておきますね。


また次の話でお会いしましょう👋

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