第183話 まだ子供

その言葉はミロアにとってはいい気がしないからだ。





(命を懸ける……悪い方に考えると、命を捨てるとか命を粗末にすると受け取れるのよね。少なくとも私はそう思えて仕方がない……)



嘗てのミロア、前世の記憶を取り戻す直前の彼女は、ガンマに罵詈雑言を吐かれて絶望して窓から飛び降りて自殺を図った。命を粗末にした行為であり、今では激しく後悔しているのだ。どれだけ多くの人たちを悲しませたのか思い知ったのだから。



(あの二人には、無茶をしないでほしいわね。少なくとも元の家臣の人たちには慕われていたみたいだし……)



ミロアは、正確にはミロアに頼まれた父バーグは、元男爵の家臣たちにも新しい職場を提供した。その多くの人が元男爵と同じ職場だったり近い場所がいいという希望があったのだ。これにはバーグは少し悩んだという。



(まあ悩むよね。元男爵が新人執事でその娘が新人侍女になるわけだから、その元家臣の人をうちの屋敷で雇えば上下関係とか仕事の質とか複雑な問題だもんね……)



元家臣たちのほうが新人よりも有能になるのは間違いない。つまり、同じ職場で雇うだけで気まずい状況になるというわけだ。



(その解決策として、元家臣の人たちの大半はうちの家の親戚だったり、傘下の問題のない家を紹介したわけだけど……お父様も大変だったかも……)



ウォーム家の家臣は男爵家ゆえにそこまで多くはない。ただ、やはり人であるから選択肢があると迷うこともあるのだ。ミロアの脳裏には、どこに誰を紹介するべきかと悩むバーグの姿が浮かぶ。



(お父様には面倒事を頼んじゃったけど、今の私では頼ることしか出来ない。不憫だわ)



おそらくはミロアが頼まなくてもバーグならば彼らの面倒を見てしまうだろう。そう思えても、ミロアは自分の無力さを嘆かずにはいられない。



「どうしたんだミロア? 悩ましい顔をしてるじゃないか?」


「うん、ちょっと……お父様に男爵の家臣たちの面倒を見てもらったのは良かったのかなって……」


「いいことじゃないか……ああ、公爵に面倒事を押し付けちゃったと思ったのか? それなら仕方ないじゃないか。面倒事はたいてい大人の仕事なんだし」


「それは……そうかも知れないけど……」


「まあ、悪いことじゃないから公爵もミロアの頼み事を聞いてくれたんだ。それでも悩むなら学園生活で思う存分学ぼうじゃないか。学園は勉学だけじゃなから俺たちはここに来たんだろ? 俺たちは公爵に比べたらまだ子供なんだしさ」


「っ! ……ふふっ、そうなのかもしれないわね」



なんだか無理やり話を学園に繋げたような気がするが、『まだ子供』と聞いてミロアは気分が良くなった。



(まだ子供か。確かに前世の記憶を持っていたって私はこの世界ではただの公爵令嬢に過ぎないわ。私の思いに答えてくださったお父様のためにも私も学園で学んで応えないと!)



ミロアはオルフェと専属騎士達とともに学園の校舎へと足を進めていく。

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