第181話 空気を読む

ミロアたちを乗せた馬車が学園にたどり着いた。そして窓の外から学園を眺めていたミロアがあることに気づいた。



「……あら? 出迎えが来ているわね」


「ミロアの言っていた伯爵令嬢の二人か?」


「うん。間違いないわ、嬉しいわね」



レトスノム家の馬車に反応した二人の令嬢がいたのだ。それは紛れもなくミロアの友人であるレイダ・ブラッドとアギア・ファングであった。



「「ミロア様!」」



ミロアが馬車から出てくるなり、レイダもアギアも笑顔で駆け寄ってきた。ミロアも嬉しそうに二人の方に向かっていく。



「レイダ様、アギア様。お久しぶりですわ」


「ミロア様! お会いしたかったです! 私達はこの日を楽しみにしておりました!」


「友達としてこれから一緒に楽しく過ごしていきましょう! 何があっても私達は味方ですから!」


「ふふふ、ありがとう。嬉しいし心強いわ」



いきなり女子三人でおしゃべりタイムになった。それを馬車の手前で眺めるオルフェは和やかにミロアを見守っていた。



「オルフェ様、よろしいのですか? 話に入っていかないで」


「女性三人、それも友人同士の会話に男が割り込むなんて無粋じゃないか。ミロアは一ヶ月も学友と会話できなかったんだろう? いい機会じゃないか。ここは空気を読むべきさ」


「流石はイーノック侯爵令息です。ゴウル殿、男女の間には空気を読んで慎むことも重要なのです」


「なるほど。……では、あの学園長は空気を読まぬつもりでしょうか?」


「「!」」



ゴウルが険しい顔で睨む視線の先にハゲ頭の老人がいた。しかも、ミロア達三人に近づいていってる。身なりからして学園の教師のようだが、只者ではない雰囲気を見せていた。



「むっ!? 怪しげな男がお嬢様たちに!?」


「ソティー。落ち着け。あれはこの学園の学園長だ」


「え!? 学園長!?」



ハゲの老人の雰囲気に殺気立つソティーだが、オルフェが制した。更に、ハゲの老人の表向きの素性をゴウルが説明する。



「……あの老人の名はヤミズーク・マスカレード……スマートブレイブ学園の学園長ですな」


「ああ、そうだがよく知ってるな」


「以前、お嬢様の専属騎士としてお目にかかることがあったので……」



ゴウルの脳裏には、とある情報を手に入れるために『陰』として仕事をこなした時の思い出が蘇る。その時にの意外思い出も出来たため、あの学園長にはいい印象がない。



「オルフェ様。学園長がお嬢様に用があるようですが、お嬢様のご機嫌のためにもここは空気を読んで、オルフェ様が学園長と必要な会話をされてはいかがでしょうか?」


「ん? ああ、そうだな。ミロアの楽しいおしゃべりタイムを邪魔したくないしな」



ゴウルに促されて、オルフェは早足で学園長の方に向かう。幸い、オルフェたちのほうが学園長に近い位置にいたため、ミロアと学園長が接触せずに済んだ。



「ゴウル殿、見直しました。なかなか空気を読めるではないですか」


「……まあ、見様見真似ですよ」



軽口叩きながらも専属騎士二人はミロアたちを見守ることだけは続ける。空気を読む読まない関係なく。

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