第161.3話 影武者
(侯爵令息視点)
俺の影武者……そんなものを用意するなんて……そこまですることなのか?
「お、オルフェの影武者……本当にオルフェとそっくりではないか……」
父上ですら驚きを禁じ得ない。当然だ。本物である俺自身もそっくりだと思っているんだから。
「当日は、ガンマ殿下たちにはこの者をオルフェ様と認識させて、じっくりと裏を取るつもりです。それ故、オルフェ様には是非とも普段と違う姿……正体が分かりにくい姿でミロアお嬢様のおそばにいていただきたいのです」
「な、なるほど……それで従者に……」
理解できた。確かに従者の姿ならば正体がバレにくいだろう。言い方が悪いけど、他の貴族の従者の顔を覚えようとする貴族は多くはない。気にするほうがおかしいくらいだ。そんな立場になりすませば俺の銀髪の髪が目立とうとも顔までジロジロ見られないだろう。
「ミロアもその話は……」
「承知しています。だからこそ当日は本物のオルフェ様と一緒にいたいとのこと」
「そうですよね……」
本物の俺といたい。そういうことか。正直嬉しい。それに、確かに偽物と分かっていても俺と同じ姿の男が他の女と一緒にいるのなんて見ていい気はしないよな。そんな嫌な気持ちを抱きたくなくて本物の俺と一緒に……。
「分かりました。すぐに従者の服を準備します」
「それならこちらで手配できておりますゆえ、是非オルフェ様にご試着していただきます」
あ、準備が早いな。流石はレトスノム公爵家だ。
◇
――という経緯があって今の俺はミロアの従者という立場にいる。
「オルフェの従者の格好もそこそこ格好がいいわね」
「そうかな? ミロアの家がいい服を選んでくれたからじゃないのかな?」
「あ、そうよね」
「えー、そこはもっと俺を褒めてくれよ」
「ふふふ、そうね。オルフェはいつも格好いいものね」
貴族街をミロアと二人きりでイチャイチャしながら歩く……夢のようだ。俺が従者の格好をしていることも、後ろで公爵家の家臣たちがたくさん控えていることも、隣でミロアの専属騎士の女性が見張っていることも気にしないでいられるくらいに。……この時間がずっと続いていけばいいのに。
だが、そういうわけにもいかない。
「どうやら、もうそろそろ頃合いかと思われます。流石にローイ・ミュドあたりが感づいたようなので」
後ろに控えていた家臣の一人がそんな報告をしてきた。どうやら楽しい時間は中断ときたわけだ。
「そうですか。ではいよいよガンマ殿下たちにとどめを刺しにいきましょう!」
ミロアが悪そうな笑顔を……悪意を込めた笑顔もまた、美しい。
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