第162話 卑怯
銀髪灰眼の美形……それはオルフェ・イーノックの特徴と一致する。そもそも、銀髪も灰眼もドープアント王国では極めて珍しい特徴なのだ。そして、その二つを備えた貴族と言えばイーノック家にしかいない。
「ま、まさか、この男がオルフェ・イーノック!?」
「その通りです。私こそがミロア・レトスノムの今の婚約者であるオルフェ・イーノックです。一応、初めてあったわけではないのですよ。ミロアの元婚約者のガンマ殿下」
「……っ!?」
従者の恰好ながらも貴族にふさわしい礼を見せるオルフェ。気品と高潔さを併せ持つ性格がうかがえる。ガンマとは全く対照的と思わせるほどに。
(ガンマ殿下にも見習ってほしいと思うけど、多分無理ね。それ以前に頭が手遅れだし)
「な、何故従者の格好……はっ! 僕達のように変装していたのか!」
「その通りです。私の姿をしてくださっている人の正体がバレぬように私も従者の格好をさせていただきました」
「ふざけんな卑怯者め! よくも騙しやがったな!」
ついに自分達がオルフェに偽物を追わされていたことに気づいたガンマは、ミロアやオルフェに対して怒鳴りだした。
「公爵令嬢や侯爵令息の分際でよくも王族であるこの僕を謀ったな! こっちの計画を事前に知って逆手に取ったり、偽物を用意するなんて陰気陰湿陰鬱! 不敬で卑怯で悪趣味極まりない!」
ミロアたちのやり方を卑怯だと言って激しく罵りだすガンマだったが、周りの誰もがガンマに同情しないどころか冷たい目で眺めるだけだった。
(((((女を使って不貞の証拠と作ろうとしてくせに……)))))
ガンマたちを取り囲む誰もがすでにガンマたちの計画を知っているのだ。少し前に執心した女性を使って男を誘惑させて不貞の証拠写真を作ろうとするほうがよっぽど卑怯で卑劣で下劣だと誰もが思わずにはいられない。ガンマはそういう心情が未だに分からなかった。
「クソクソクソクソクソクソクソ! なんでだよ! なんで僕の思い通りにならないんだよ! 子供の頃からずっとそうだ! ミロアとの婚約といい、勉学といい、稽古といい、女といい、両親といい、なんで周りが僕の思い通りにならないんだよ! 僕は王子なのに! 王太子だったのに!」
地団駄を踏んで悔しがるガンマの姿はまさに大きな子供と言った印象しか与えない。王族に生まれながら何故このような性格になってしまったのかと誰もが思うことだろう。
その中で違った考え方ができるのはミロアくらいだ。
(……ここまで精神面で幼いのは、王族の教育方針の偏り? もしくは元々王族としての適性がなかった? ……いやどれも違うわね。嘗ての私の行き過ぎた行動が原因よね……)
嘗てのミロアは本当にガンマに執心していた。その事実は変わらない。その事実が今のガンマの人格形成に大きく関わっている。ミロアはすでに気づいていた。
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