第75話 同じ部屋で同じベッドで

ミロアが目覚めてから二十一日目になるその日の朝、ミロアは目覚めた後すぐに自分に抱きついた形で眠る少女の存在に気づいた。



「……………………え?」



薄い赤髪を長く延した少女が、子供特有のあどけない可愛らしい小顔で、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。それだけでミロアの思考が一瞬停止した。



(なにこれ? 天使?)



思考が動くと天使という言葉が自然に出てくる。そして、その言葉が頭に浮かぶと同時にミロアは昨日のことを思い出した。昨日、天使の如き義妹と女神のような義母と対面したことを。



(あ~思い出した。昨日、私から一緒に寝ようって言ったんだっけ……)



昨日の夜、ミロアの方からスマーシュと一緒に寝ると言い出したのだ。家族には驚かれたがスマーシュ自身もいいと言ったので、今の現状になったわけだ。



(ふふふ、こんな展開になると私は『女主人公』になった気分だわ。というか、この子が主人公で私がモブ的な存在とか? あら、悪役令嬢でなくてすむのかしらね?)



寝ぼけながらも自分とスマーシュを前世の知識からちょっとわかりにくい表現をするミロア。もはやミロアにとって義妹スマーシュは愛すべき妹のようだ。



「うふふふ……」


「ううん……」


「! 可愛い……」



スマーシュの寝顔をうっとりと眺めるミロアは、スマーシュが目覚めるまでこの態勢でいることにした。勿論、自らの手でスマーシュを起こすこともしないつもりだ。



(この子はまだ子供だから、今日くらいはちょっと寝すぎても大目に見てもいいわよね?)



今日くらいは寝坊してもいい。そんなふうに思って自らもベッドから出るつもりもないミロアだったが、寝ぼけていて肝心なことを忘れていた。子供とは言えスマーシュは一応貴族令嬢。病気でもない限り寝坊することを許容される立場ではないことも。



案の定、ノックの音と起こしに来たであろう侍女の声が聞こえてくるのであった。



「ミロアお嬢様、スマーシュお嬢様、おはようございます。もう旦那様も奥様も起床なさっておられますのでお嬢様方もどうかお寝覚めになられてください」


「う? もう、朝……」


「あら残念……」


「え?」



侍女エイルの声に反応してスマーシュが起きる。それと同時にミロアにしがみついていた手も離れていく。本当にミロアは残念そうにしていたが、起きたばかりのスマーシュのあどけない顔を凝視してまた可愛いと思うのだ。



(ああもう、起きたばかりの天使も可愛い!)



ミロアはスマーシュに気を取られて気づいていなかった。スマーシュを見る目がヤバいとエイルに思われていたことを。



(これは、お二人を一緒のベッドで寝かせるのは控えたほうがいい。旦那様にも報告しないと)



そういう事があって、この日を境にミロアとスマーシュが姉妹で同じ部屋で同じベッドで寝ることはなかった。

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