第73話 豹変ぶりも知らずに

(宰相の息子視点)



グロンの暴走のおかげで、責任を取る形でギンベス伯爵が騎士団長を辞した。つまり、王家を支持する騎士団長が変わることを意味する。



「次の騎士団長は王家に忠誠を誓っている者に決まるとは限らない。そもそも、代わりになれる者がいるかも分からない。……これで王家を支える柱が揺らいだも同然」



長く騎士団長を努めた男がこんな形でその立場を降りるとすれば、少なからず王家の支持率も下がる要因になる。ただでさえ馬鹿な王子で問題となっている今の王家にとっては痛手だろう。



「これで、また一歩近づいたわけだ。私がこの国を支配する立場に……!」



王家の求心力が低下することは、将来的に支配者の座を奪われやすくなることを意味する。王家に近い有力貴族が反逆・もしくは近縁者として政を行う立場を奪うなど……ああ、こうしている今も私の夢が膨らんでしまう。



「私は有能な人間だ。決して父のように無欲な宰相止まりで終わることはない」



私の父、マッカー・アモウは今でこそ宰相の立場にいるが、もっと欲を持つべきだったと私は思っていた。優秀な人間なのは認めるところだが、今の王家に取って代わろうという野心がないことに私は不満があった。その思いをぶつけてみたのだが、身に余る野心を持つなと言われるだけ。言っても無駄だと分かった私は慎重かつ効果的に行動することにしたのだ。



「慎重に行動したつもりだったがどうだ? ガンマ殿下は失墜、グロンも追放処分。目障りなローイも勝手に離れたわけだ。私は上手くいったのだ。この調子であの公爵令嬢を上手く利用して、いずれは王位も……やはり私は伯爵や宰相では収まらない男なんだ」



この時の私はそんなことを確信していた。鍵となる公爵令嬢の豹変ぶりも知らずに。





(元側近視点)



「ミロア様、もうすぐ学園に復帰するのですね……」



学園ではミロア様がいつ復帰するかという情報が入ってこないです。だからこそ、父に頼んで王宮から情報が入るようにしてみれば、王宮にやってきた公爵が『娘が元気』という言葉を発したとか。その言葉だけでも僕は数日くらいすればミロア様が学園に復帰すると確信しました。



「ミロア様、学園では僕が味方して差し上げます。もうガンマ殿下に脅かされぬように守って差し上げます」



僕の脳裏に浮かぶのは、血のように赤い髪を腰まで長く伸ばし、切れ長の黒目、整った顔立ち、派手な装飾の美少女の姿。ミロア・レトスノム様。そのお美しい姿をもう一度……。



この時の僕はそんなことを思い描いていました。ミロア様のお姿とお心の豹変ぶりも知らずに。

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