第71話 王家の家庭

和やかな茶会がレトスノム家の屋敷で行われている一方で、同じ頃に王家の家庭でも大きな変化があった。





王宮の国王の私室で、国王ファンタム・ドープアントと第一王子ガンマ・ドープアントが話し合っていた。最も、話し合いというよりもガンマが一方的に訴えているという方が正しいだろう。非常に無茶なことを訴えているから聞いている国王の方は呆れるばかりだ。



「……本気で言っているのか?」


「はい! 近いうちに学園に復帰するであろうミロアともう一度婚約が可能となったあかつきに僕をもう一度王太子にしてほしいのです!」


「……」



やっと精神的に落ち着いてきたガンマは自室からの軟禁を解かれた。ただ、落ち着いたのはいいのだが、ガンマは自室で考えた末に偏った決意を固めてしまったのだ。



(どんな手段を使ってもミロアとも言う一度婚約してやる! 今のミロアがあんなに印象が変わったのならば僕は我慢できるどころか僕は満足できる。ミーヤに愛人になってもらうが僕が王太子に戻るためだ!)


(ここまで馬鹿だったとは……)



国王には見透かされていた。ガンマが自分のことだけしか考えていないことに。



「ガンマよ。いくら何でもそんなことは、ミロア嬢ともう一度婚約を結ぶなど不可能だ。彼女は精神的に大きく変化したそうじゃないか。それもお前を受け付けないくらいには」


「それなら、今のミロアに僕のことを受け入れてもらえればいいだけなのですよ! 反省した僕ならきっとミロアとの関係を新しく構築できるはずですから!」


(……此奴、もう駄目かもしれん)



国王は言葉が思いつかなくなるくらい頭を抱えた。





王妃の私室では、王妃マーギア・ドープアントが第二王子アナーザ・ドープアントに言い聞かせていた。



「いいですか? 貴方はこれから国王になるための教育を受けなければなりません。とても過酷な教育ですが我が国のためにも貴方が王太子になった後にも重要なことなのです。しっかり頑張るのですよ」


「はい。お母様」



アナーザは十歳にもならないが非常にしっかりした王子、それが周りの認識だった。この子なら、この子こそ王太子にふさわしい。母親である王妃も、ここにいない国王も家臣の皆もそう思っている。実の兄を除いては。



(今度こそ間違えないわ。ガンマは残念な結果になるでしょうから、その反省を踏まえてアナーザを立派な王太子に……)



以前から王妃はアナーザには期待していた。子供の頃のガンマは我儘が目立ち、傲慢で少し歪んでいた。それに比べると、アナーザは物静かで頭が良くて大人しい子だった。ガンマとアナーザ、この兄弟を比べるとどうしてもアナーザのほうが国王に向くと二人のことを知る多くの者がそんな風に思うのだ。年齢差という壁がなければだが。



(ガンマには悪いけどこれからはアナーザに時間を費やしていかなければならない。我が国を率いる次代の王が無能なのは御免だからね)



王妃はすでにガンマに見切りをつけていた。王家としても家族としても。

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