第68話 責められる
「あれぇ? お父様は?」
茶会の場に父バーグがまだ来ていなかったのだ。
「お父様はね、仕事で大事な話があるということであとから来るの。今はお姉様とお母様と一緒にいましょうね」
「えー……わかりました」
(まだ子供だから拗ねるわよね。でも、そんな姿も本当に可愛いわ!)
父親があとから来ると聞いて不機嫌な顔になるスマーシュだが、それでも我慢できるようだ。父バーグが大きな立場で今も大変忙しい身でありながらも時間を作ってくれたのだとなんとなくだが分かっているのかもしれない。
(……忙しい人ほど家族との時間を作れない。それは前世の日本人でもこの世界の貴族でも同じなのね。そういう意味ではお父様も可哀想な立場なのよね。こんな時でも仕事のことで重要な話があるだなんて……)
父バーグのことを憐れむミロア。だが、バーグ本人は今、信頼する家臣たちに責められている最中だったのだ。
◇
屋敷の奥の会議室にバーグと信頼される家臣たちが集まっていた。老兵ダスター・ドウとスタード・アスト、侍女エイル・ロウド、女性騎士ソティー・アーツノウン、執事長と侍女長、その他に信頼の厚い家臣たちが揃って主であるバーグを冷たい目やジト目で眺めていた。
「……み、皆、そんな目で見ないでくれないか? 確かにサプライズのことは不味かったなと反省しているんだ。ははは……」
「不味いどころではありますまい。無礼を承知で言わせていただきますが愚行と存じまする。ミロアお嬢様とイマジーナ様、スマーシュお嬢様の関係を考えれば事前に伝えて覚悟を決めてから会わせるべきでしょう」
「その真逆にサプライズと言って突然対面させるというのは、流石に考えなしどころか趣味が悪いと言われかねませんぞ」
「そ、それは……」
ダスターとスタードが呆れ混じりに意見を述べる。老兵故に主に対して容赦なく厳しいことを口にするが、バーグのことを思って言っているのだ。
「本当にそうですよ! そもそも、私達のような屋敷に残っていた者はあんなサプライズなんて聞かされていませんでした! しかも、旦那様たちを乗せた馬車が屋敷から見える頃に『大掛かりな茶会の準備を用意せよ』だなんて指示だけが伝わるんですから大変だったんですよ!」
「無礼を承知で口出しさせていただきますが、エイル殿や執事長殿、侍女長殿のような優秀な使用人の方々がいなければ茶会など開けませんでした。手伝った私が保証します」
「……すまん、今度ばかりは配慮が足りなかった」
エイルが怒りを交えて抗議を始め、それに続いてソティーまでも抗議する。この二人はバーグのためではなく、どちらかと言うとミロアのために抗議している感じだ。
「旦那様、『今度ばかり』ではありますまい。以前も似たような事があったと記憶しておりますぞ」
「本当に戦が絡まないことにおいては残念なお方ですね。英雄なのはもう昔のことのように思えて悲しくなります」
若い頃のバーグをよく知る執事長と侍女長も主であるバーグを責める。流石のバーグでも彼らに言われると反論もできない。
「……反論の余地もない」
嘗て、騎士として、剣士として高い功績を挙げ、英雄とまで言われた公爵はぐうの音もなかった。
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