第62話 父の帰還

ミロアが目覚めてから二十日目、父バーグがついに屋敷に帰還した。エイルの言った通り正午を過ぎた頃にバーグ達の馬車が屋敷に到着したのだ。屋敷の門にはミロアがすでに待っていた。



「お父様! ご無事で何よりです!」


「ああ、ミロアこそ元気そうで何よりだよ」



ミロアはバーグの姿を見つけるとすぐに抱きついてきた。そんなミロアを抱きしめ返すバーグはとても嬉しく思う。しかし、抱きしめ返された直後からミロアは質問攻めを始めた。



「お父様! 婚約破棄の話はどうなりましたか!? 殿下の側近が襲撃したと聞いたのですが大丈夫なのですか!? 義母様と妹とはいつ会えますか!?」


「ははは。ミロア、一度にたくさん聞かれても困るよ。婚約破棄は王家の有責で成立したし私は無傷ですんだから大丈夫だよ」



無傷で済むどころか、自分の手で首謀者と戦ったバーグは穏やかに笑う。その笑顔は、襲撃者と対峙した時の獰猛な笑みとは全く別物だった。バーグを見ていた周りの従者たちは誰もがそう思った。



「本当ですか! 良かった~、これでやっとあの忌まわしい王子と結婚しなくて済むのですね!」


「ああ、しかもガンマ殿下は学園を卒業した後に王籍から除籍されて男爵となることも決まった。ここまですればガンマ殿下も反省してくれるだろうしだれも着いてくることもあるまい」


「そうなのですか! ありがとうございますお父様!」



婚約破棄だけでなくガンマの卒業後の将来まで決まったとは予想していなかったミロアはその場で飛び跳ねるほど喜んだ。婚約破棄できたこともそうだが、バーグがここまでしてくれたことが嬉しかったのだ。



(やったわ! あの馬鹿王子が上級貴族になれないということは、私達が大人になったら容易に迫ってこれなくなるってことね! 学園を卒業するまでの辛抱だわ!)



「ところで、どうして私が襲撃されたと知っているんだい? しかも殿下の側近だということまで」


「あ! え〜と……それはその……」


「まあいいさ、そういうことは後で聞くとしよう。今、ミロアの気になっているのはイマジーナとスマーシュだね。この二人に会う日なのだが……」



バーグは馬車を振り返り、護衛していた騎士たちに目配せする。すると、騎士たちは慌ただしく動き始める。



「お父様?」


「ミロアよ。私からのサプライズだ。お前の義理の母と妹に会える日はな……」



バーグの『サプライズ』という言葉を聞いてミロアは何かを察して馬車の方に目を向けた。すると、馬車の中から美しい大人の女性と可愛らしい少女が現れた。そして二人共薄い赤髪を長く伸ばした黒眼の女性という全く同じ特徴をしていた。顔つきもよく似ているから一目で親子とわかる。



「…………っ!」


「もう分かってしまったようだが、約束の日は今日だ」



ミロアは目を見開いて口を手で覆う。彼女たちこそ、義母のイマジーナと義妹のスマーシュだったのだ。

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