第58.3話 実るかもしれない

(元側近視点)



男爵令嬢のミーヤ・ウォーム。肩までかかる緑色の髪に大きな花飾り、緑色の瞳を持つ可愛らしい顔立ちの少女。彼女こそがガンマ殿下とその周囲の関係に大きな変化を与えたのです。



僕の目を離したすきにガンマ殿下は何かしらのきっかけでミーヤ嬢と仲良くなってしまいました。それも目に見えて執心していると分かるほどに。しかも、殿下だけでなく僕と同じ側近の二人までもミーヤ嬢に執心するようになったのです。



……こんなことは本来あってはならない。ガンマ殿下にはミロア様という婚約者がいるのです。それなのに他の令嬢に、それも男爵令嬢に執心するというのは自由恋愛を許されない王族にあるまじきこと、何よりもミロア様に対して無礼きわまりないことです。それを諌めるべき立場にある他の側近もそんな殿下と同じようになるのも呆れ果てます。



確かにミーヤ嬢は可愛らしくて他の貴族令嬢にない印象をいだきますが、逆に言えばそれだけです。成績は中の下で大した取り柄もないし、彼女の家も取り立てて目立つものもない。言い方は悪いのですがミーヤ嬢には王族が構う価値はないに等しいのです。



そんな相手に構う暇があるのならばミロア様と向き合ってほしいと僕は思いました。確かにミロア様は過剰な行動が多い女性ですが、それはガンマ殿下が向き合っていれば解決することなのです。幼い頃に政略結婚で婚約した相手なのだから向き合う時間はいくらでもあったはずなのに……。



その思いを殿下に何度も伝えても殿下は聞く耳を持ってくれず、僕はあからさまに邪険に扱われるようになりました。そして、ついに我慢できなくなって自らの意思で側近を辞めました。その直後にミロア様とすれ違ったので、その際にガンマ殿下に見切りをつけるように忠告させていただきました。



……今思えば、もう一日遅くても良かったと思います。その翌日にミロア様に不幸が起こってしまったのですから。



僕が側近を辞めた翌日、ミロア様とガンマ殿下が口論をなさってミロア様が深く傷ついて屋敷に戻ってしまわれたと友人から聞かされました。何が起こったのかと困惑しましたが、後になってその時の状況を詳しく知って僕はその場にいなかったことをひどく後悔してしまったのです。……後一日辞めるのが遅ければ、あの愚かな王子を体を張ってでも止めたのに。



それからミロア様は学園を休学、理由は体調不良と教師から聞かされましたがおそらくはガンマ殿下のせいでしょう。それからまもなく、殿下とミロア様の婚約が破棄され、ミロア様の幼馴染だというオルフェ殿が不審な動きを見せるように……そんな状況になってしまったせいで僕は、己の想いが実るかもしれないと思い始めました。



邪魔なものさえいなくなれば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る