第58.4話 以前のお嬢様は
(侍女視点)
突然、ろくに接点のなかったローイ・ミュド侯爵令息からミロアお嬢様に手紙が届き、何事かと一時間近く考え込んだお嬢様は手紙の内容を確認して絶句された。読んでみれば予想もしなかった内容だったのだから仕方がない。
この手紙は遠回しな形になっているが、所謂ラブレターのようなものだ。
「お嬢様……私の意見、間違っているのかもしれませんが最後の方を見ると……お嬢様とお近づきになりたいような内容に見えます。もしかしたら……」
「もしかしたら?」
顔を引き攣らせるお嬢様、その様子だとすでに手紙の真意について気づかれているようだ。少し前に変わったのもあるが、だてに公爵令嬢ではない。
「お嬢様と……婚姻を結ぼうという目的があるのでは?」
「……やっぱりそう思うよね」
ゆっくり頭を抱え込むミロアお嬢様。それも当然だ。忌々しいガンマ王子との婚約を破棄できることを望んでいるのに、何故その元とはいえすぐ近くで側近だった男と婚約などしたいと思えるのだろうか。そもそも、長い恋心から解放されたばかりだというのに、すぐに他の相手と婚約したいなどと思えるはずもない。
「はぁ〜、どうしてこういう展開になるのかな?」
「確かに……それほどまでに殿下との婚約が破棄されるかもしれないという噂が学園に広まり、それを好機とみなした令息が動き出した。そういうことでしょうかね? 公爵家との縁を繋げられるなら殿下との婚約破棄は絶好の機会でしょうから」
「ああ、そういうこと……それでオルフェを信用できないみたいに書いてるのね。まさか、私なんかの婚約者になりたがる人がいるとは……」
「?」
お嬢様が落ち着いて考えられるように、恋愛面でなく貴族らしい目的があるようにいい含めてみたのだが、お嬢様のご様子だと恋愛面での考えはない? それはそれで不味いな。お嬢様にはいい殿方と結婚して幸せになってほしいのに。
「お嬢様、もしかすると恋愛感情から、」
「というのはないわ」
「くるので……え?」
……遮られた。何故?
「多分、恋愛感情なんて抱かれているとは到底思えないわ。学園での私は殿下を追いかけ回してその他は無視してるんだもの。しかも、服も化粧も派手で無駄にニコニコしてたから気味が悪いと思われているに違いないわ。そもそも、殿下の側近だった人ならそういうことをよく分かっているはず……公爵家との繋がりが欲しいだけよ」
「……お嬢様は、もとから魅力的な女性ですよ?」
「それは見た目と中身、どっちの意味? 以前の私は中身だけなら残念な方よ」
な、なんてことだ。お嬢様の自己評価が低すぎる! いや、確かに以前のお嬢様は行き過ぎた行動が多少あったけども、それをよく言えば前向きで行動力があるというか……あれ? あまり否定できない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます