第52.4話 後悔しても時は戻らない

(騎士団長の息子視点)



「そんな……そんな……」


「……今更後悔しても遅いぞグロン。時は戻らん」



……俺の心の内を見透かしたように国王陛下が言葉をかける。確かに後悔しても時は戻らない。



「いえ、後悔はしてもらいましょう陛下。後悔することで人は反省し、それを踏み台にして成長するものです。たとえ恐るべき死地の中でもね」



ただ、公爵は後悔するべきだと言う。反省を踏み台にして成長……え? 今なんて言った? 死地の中ってどういうことだ?



「公爵、何を言い出すのだ? グロンの処遇はまだ決まってはおらんだろう」


「ですが、我が身は公爵。自分で言うのもなんですが、大貴族を害そうとした罪に対する罰は大変重いものでなければならないでしょう。その中には死罪・終身刑などが妥当ですが、未開の地を開拓するために送りつけるというものがあります」


「強制就労所に送る……いや、それよりも残酷な罰を与えるものではないのか?」



国王陛下も公爵の言おうとしていることを察したようだけど、どういう意味かは俺はまだ分からない。ただ、死罪や終身刑とは違う罰を与えるみたいなことを……?



「よいではないですか陛下。グロン・ギンベスは相当武芸の立つ者です。仮に、ハンガイアの森の開拓団に使ってもらっても生き残れる可能性は高いと思いますよ?」


「はぁっ!?」



ハンガイアの森だって!? 我が国がいまだ半分も踏み込めていない前人未踏の危険地帯じゃないか! あの森を開拓するために俺を戦力として送りつけるっていうのかよ!?



「ま、待ってくれ! いや、待ってください! ハンガイアの森の開拓団に入れるなんておかしいでしょう!? 俺の処遇があの森を開拓するなんて馬鹿げた話じゃないですか! しかも、その開拓団は毎年半分以上死んでるって噂もあるのに若い俺をそんなところで働かせるなんて罰が重すぎる!」


「ほう、知っていたか。その通り重い罰だ。君にはふさわしいだろう? あの森の獣は凶暴で人を食べてしまうんだ。人食い熊や人食い狼、殺人鹿に殺人蜘蛛という危険な生物がたくさんいるんだ。我が国はそんな危険生物がいる森と隣接している。その脅威から人を守るための開拓団に働くことになるんだから君は罰を受けるとともに誇ってもいいんだぞ?」



何が誇りだ! 森の資源が欲しくて生贄を送りたいだけじゃないか! だが、拘束されている今の俺では何もできない……もう終わりだ。



「公爵はそんなことを言っているが、処遇は裁判で決まる。ただ、どの様な決定をくだされようとも――」



……国王陛下がまだなにか言っているけど……もう、俺の耳には聞こえなかった。絶望のあまり……何も……考えられないし考える意味も……ないから……。





数日後、グロン・ギンベスはハンガイアの森に移送された。そして、二度と学園にも王都にも、彼の生家にも戻ることはなかった。

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