第52.3話 人生を棒に振った

(騎士団長の息子視点)



それじゃあ……親父は、俺のことを思って王太子の側近にしてくれたのか? 思い返せば確かに最初は激務だった。剣ではなくペンを持つ時が多くて忙しい毎日だったし、殿下の立場を悪くするわけにもいかないから下の者に無理強いできなかった。剣を持つ時なんて訓練の時や殿下に不敬を働く者への牽制の時くらい……。



「最初の時はうまい具合に性格は良くなったように見えたようだが、ある時から別の意味で悪い方向に変わったようだね。殿下が執心する一人の男爵令嬢に君や他の側近も入れ込んでしまった。三人一緒に男爵令嬢を囲むなどありえないと、君の父君は頭を悩ませたようだぞ。せっかく真面目になり始めたのに、とね。」


「…………」



ミーヤのことだ。側近になったことを後悔し始めた頃にガンマ殿下と仲良くなった男爵令嬢。ふとしたきっかけで俺も彼女と話すようになったんだ。そしてすぐに恋をしてしまった。



側近の仕事の疲れから癒やしを求めてしまっただけだと、辞めてしまった側近に言われたけど……たとえそうだとしても俺は生まれて初めての恋をしたと熱くなっていたんだ。親父にも文句を言われても俺はミーヤに癒やしを求め、一緒にいることを楽しんでいた。殿下とマークも同じ気持ちだったはずだ。



「男三人で男爵令嬢に執心、学園では結構呆れられていたのではないかね? そんな君達に将来があると思えるのかな?」


「う……」



だけど、今はそれがまずかったと分かる。三人一緒に男爵令嬢を囲むなんて貴族としておかしいと。いくら重要な立場でもやっていいことと悪いことくらいある。そんな判断がつかなくなっていた自分に今更ながら寒気がする。



「学園で真面目に側近の使命を続けるだけでいれば、もしかしたら本当に騎士団長になれたのかもしれないが、殿下を諌めることもなく、一緒に執心……それはもうただの騎士にギリギリなれるかどうかの問題だ。もっと考えて行動すべきだったのだよ」


「……ふぇ?」



う、嘘だろ? 真面目にしていれば、本当に騎士団長になれたかもだって?



「そ、そんな……もともとなれないって言ったんじゃ……」


「『真面目にしていれば』ね。男爵令嬢に執心してから真面目とは言えないだろう? 大事な仕事を取り巻きに押し付けていたことくらいバレないとでも思っていたのか?」


「あ、あ……」



バレてたのか……あいつらヘマしやがったのか! いや、違う……あいつらに任せたせいでそんな……? なんてことだ……俺はもしかしたら自分で自分の人生を棒に振ったというのか……!?

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