第52.2話 父を悩ませていた

(騎士団長の息子視点)



国王陛下の言っている意味が分からない。俺がもともと騎士団長になれなかった? どういうことだ? 意味が分からない。



だって、俺は今の騎士団長の息子で伯爵家出身。剣の才能に秀でて、しかも王太子の側近になれた男なんだぞ? それなのに、もとから親父の後を継いで騎士団長になることはできなかったなんておかしいだろ! 無理を言ってガンマ殿下の側近にしてもらったのにどういうことなんだよ!?



「っ!? ど、どういうことですか!?」


「その続きは私が説明しよう。国王陛下は今日多くの話を聞いて心痛で疲れていらしているのでね」



つい声に出してしまったけど、公爵が引き継いで話を続ける。俺を返り討ちにした実力を持つ最強の公爵が、わざわざ俺に丁寧に説明するということに悔しさと恐怖を感じるが、それ以上に話の続きが気になった。



「君が学園に入学する前、君の父君であるヘムシンム・ギンベス騎士団長は君のことで頭を悩ましていた。武芸に秀でた才能を持っているのに感情的で思慮が足らないし、己の才能を誇るあまり粗暴な行為も目立つと。そいれでいて高い地位を目指しているため、どうしたものかと国王陛下に相談されていたそうだ」



親父が俺のことで頭を悩ましていた? 確かに学園に入学する前は、使用人達と無理やり模擬戦をしたり剣を軽んじる馬鹿を切りつけようとしたりと今思えば少しやんちゃが過ぎたことをしていたけど……親父をそこまで悩ませていたのか?



「ヘムシンムは息子の性格を少しでもまともにしたい。その解決案として、武芸以外の責務を数多く課せられる立場に置いてみるということになった。それでいて将来性の試される若者でも重要だと分かる立場にね。高い地位を目指す君が納得できる立場ならばどうだろう? そもそも君の方からその立場を望んだようだしね」


「そ、それは……まさか、そういうことだったのか!」


「気づいたようだね」



なんてことだ! 俺がガンマ殿下の側近になれた背景にそんな話があったのか! 



「お、俺が殿下の側近になれたのは、俺の性格を都合のいいように変えるためだったのかよ!?」


「都合のいいようにとは君の都合だ。騎士団長どころか騎士にふさわしくない君の性格は危うい。ヘムシンムは君の将来のために思って、武芸だけが仕事じゃない王太子の側近に君を推薦したんだ」


「……お、俺のため?」


「実際、王太子の側近は仕事が多かっただろう? そのせいか、学園では粗暴な行為が収まったようじゃないか。側近の立場を誇って偉そうにはしていたようだけどね」



そ、そんな……そんな真実があったなんて……。

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