第壱話 透明な警告者

 雫がそこで見たのは、あのの儀式で使われたであった。

花に詳しくない私はずっとその黒百合を見つめていた。闇に吸い込まれそうな黒い花でなんだか気味が悪い。しかし、ただの黒ではなく暗褐色や暗紫色といったところであり、とても美しい見た目をしている。早速、事件を解決する手がかりになりそうな物を見つけ、順調に進んでいく。そんなこんなで色々と探ってみると、何冊か積み重なった分厚い本が置いてあった。もう何年もこの屋敷は放置されているため、その分厚い本たちも大分傷んでいる。ふと、ある一冊の本に目がいく。そこには「黒百合儀式」と書かれていた。さっきの黒百合についてなにか知ることができるかもしれないと、その本を手に取ってみた。中を開いてみると、黒百合についての内容がびっしりと書かれていた。いくつか文字が掠れて読めないところがあるが、活字を読むのが苦手な私は、目を細めながらその本に書かれている内容を見た。主に黒百合についての歴史やの黒百合屋敷で起こった黒百合儀式について書かれていた。読んでいくと、黒百合屋敷では今から約150年前にできた建物らしくこの屋敷の主人は今は亡き「カプリエヌ・ロパーノ(Caprienne Lopano)」という者らしい。どうやらこの本には、主人自身フランス人であり、黒百合について研究するためにこの場所に移住してきたと書かれている。それだけではなく、黒百合に関係するある宗教との関わりを持つため、自身の膨大な財産で斎場を建てたそうだ。主人が亡くなってからこの屋敷は誰も手入れする者はいなく、やがて今のような廃屋敷となってしまったようだ。主人は彼の住む地域では身内が亡くなった時は必ず桶に黒百合を添える風習があったそうだ。彼の研究からある興味深い研究結果があったそうだ。それが黒百合には死者を蘇らせる呪いの魂が宿っているとのこと。これをの儀式に黒百合を使って行うのだそうだが、黒百合には強い呪いが込められているため、外部の人間に悪影響を与えないように、ある宗教で結界を張って儀式を行っていたという。しかし、19世紀に入って間もない頃に、あの「黒百合屋敷事件」が起こったのだそうだ。

ここまで読んで時計を見るともうそろそろ夕方の五時過ぎになるところであった。ここに到着してから約三時間ほどになるが、小腹も空いてきたので一旦休憩にしようと思い、立ち上がろうとした途端、先程通った廊下の方から「ゴンッ」と大きな物音が聞こえて思わず雫は声に出して「誰か居るの?!」と怒鳴った。こんな時間に人が来るのかと不審に思いながら、近くにあった細長い棒を持って警戒しながら廊下の方へと近づいた。緊張と共に滴る汗を拭いながら廊下へ行くと、そこには誰もいなかった。しかし、少し進んでいくと、先程通ったときにはなかったが落ちていた。周りに注意を払いながら恐る恐るその怪しい紙切れを手に取った。そこには、次のようなことが書かれていた。

” 黒百合屋敷には近づくな ”

その文字を見た瞬間、一瞬にして背筋が凍った。

「他にも誰かこの屋敷を訪れた人がいたってこと・・・?そうだったとしたらその人は何故このようなメモを残していったの?もしかして___っ」

腹の底から這い上がってきた胃酸が口の外へと吐き出された。先程の恐怖で気分が悪くなったのだろうと思い、少し落ち着いてから今までの事件の調査内容を整理することにした。さっきのメモは何か手掛かりになるかもしれないと思い、そのままポシェットの中にしまった。やがて、気分も落ち着き再び調査を始めようとしたが、手元の時計を確認するといつも私が夕飯の支度をする時間になっていた。もうこんな時間かと思い、チラッと窓を見ると、今朝のニュースで大雪警報が出されていたのを思い出し、雫はこんな日に黒百合屋敷なんかに行くんじゃなかったと後悔しながら仕方なく今日はここで寝泊まることにした。幽霊が出るかもしれないというまたもやオカルトオタクが出てしまい、おもわず興奮で寝れなくなるだろうとワクワクしながら、前日に準備しておいた飲み物と非常食をいくつか。念の為、明日の夜の分まで準備してあるのだ。ほとんどは災害時に頂く食品だが、そんなのにこだわっている暇はない。夕方、裏庭に行ったときにあった薪を拾ってきて、チャッカマンを使って火を点けた。廃屋敷で焚き火をするのは本来なら禁止されているが、今回は仕方ないだろうと思いながら、持ってきた非常食を先程熱したばかりの水の中に入れ、5分ほどしてからそれを取り、中身を出して食べた。ちなみに、今日の晩御飯はカレーだ。昔母が作っていたカレーの味を思い出し、今度実家に顔を出そうと思う。食べ終わったところで、お腹も満足し、ゴロゴロしていると、段々瞼が下がってきた。このまま寝落ちしてしまっては危ないと思いつつ、食後の重たい体を起こしながら、ポシェットの中からはみ出ている紙切れに目を留めた______。

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黒百合屋敷事件 黒澤 澪 @himaneko46

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