前日譚終 敗戦処理

 秋晴れの空の下、公園のベンチに座る男女が2人。双方共に疲れきった顔をして缶コーヒーを啜っていた。


「じゃ、初めからフラれるって知ってたんだ?」


「俺からすりゃあ、敗けヒロインのお前の敗戦処理だったよ。アイツ等はなんか勝手にお幸せにってかんじで」


 東雲 夏樹と聖川 周。2月ほど前に付き合い始めた恋人同士でもある2人はおおよそ恋人同士の関係には見えないような付き合い方をしていた。というか今までと大して変わっていなかった。


「懐かしいねぇ·····」


「まだ1年くらいしか経ってねぇけどな」


 現在下校中である。公園で休もうとベンチに座ったが最後。長々と互いの失恋話をする破目に。


「明日の文化祭·····2人で回れるといいね」


「九分九厘ムリだろ」


「そこは“そうだね”で良いところなんじゃない?」


「知ってて言ってんだろ。客寄せパンダ」


「まあね。料理長」


 文化祭。学年毎に出し物が決められていて1年は演劇。2年は屋台。3年は受験のため自由と。去年は学級委員として江藤と指揮を執り、裏方メインだったため江藤と2人で行動することが多く、江藤を“しほりん”と渾名で呼び始める切っ掛けとなった。今年はバッチリ主役である。俺は料理が得意のため調理のメイン。聖川は見てくれを利用して呼び掛け。出すのはお好み焼き屋台。今日は文化祭準備の最終日だったため、疲れているというわけだ。


「この後家についてって良い?」


「なんで?」


「イチャイチャしたい」


「してんじゃん今」


 全然していない。というか付き合い始めてから全くしていない。変わってない。


「む。ちゃんと彼女を可愛がらないと簡単に鞍替えしちゃうぞー」


「鞍替え出来るほどお前は知り合いも居なければ友達も居ない。オマケに人見知りときてる」


「·····詩穂ばっかり渾名で呼んでるのズルい」


「くくっ·····嫉妬した?」


「ジェラジェラ」


 江藤を“しほりん”と呼んでるのは俺だけで、友士ですら未だ“江藤さん”である。そもそも、俺と聖川が付き合っていることをクラスの連中は誰も気付いていない。相変わらず仲良いなぐらい。


「じゃあ何か渾名考えておかないとな」


「名前が良い」


「あまねる?」


「キモ」


 なんだコイツ。


「はぁ。まあいいや。これからウチに来ていいからそれで勘弁」


「·····良いよ」


 これでも俺は聖川の彼氏だ。彼女のご機嫌取りもしなければなるまい。


「じゃ、そろそろ帰るか」


「ん」


 俺達は立ち上がり帰路に着いた。


 この敗けヒロインの敗戦処理から始まり戦後処理を終え、少しは彼女も報われたのだろうか?


「いや、これからか·····」


「なにが?」


「これから寒くなるよぁって」


「まあ、もうすぐ冬だしね」


 聖川の当然でしょという応えに、相変わらずの鈍感っぷりを感じつつも、でもまあこれが聖川かと謎の安心感を覚えるのだった。




◇◇◇




あとがき


前日譚 敗けヒロインの敗戦処理。後日談がどうこうと前回のあとがきで言ってましたが、コレ前日譚無いとまずくねぇ?という感じがしたため、突発的かつ爆速で書き下ろしました。相変わらずクソみたいな短い話だと思われるでしょうが、長編書いたら完結させられる気がしねぇと。絶対失踪するわと。この物語はもうちょっとだけ続かせます。短話をいくつか書きたいと思っていますのでどうぞお付き合いください。ここまで読んでいただきありがとうございます。



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