前日譚2 さーて生ゴミあたりを

 林間学校。7月頭にある夏休み前の行事。とはいえ、林を散策した後に昼食を作って終わりの簡単なもの。1年の親睦会の側面を含んでいる。

 散策を終え昼食の準備に取りかかる。今回のメニューはカレーである。委員長の江藤と副委員長の俺は担任教師の手伝いをする事情で班行動が存在しない。


「はぁ·····」


 そして俺はカレー作りに勤しむクラスメート達を(主に聖川を)眺めながら缶コーヒーを啜っていた。


「随分しけた顔してんなぁ東雲」


 話し掛けてきたのは中年の男性。というか担任教師。


「ザワ先生·····まあ、アレっすよ。男の悩み」


「俺も男なんだがな?」


 井澤 茂信。歴史教師でウチの担任。


「タバコいいか?」


「どうぞ·····ってか教師が生徒の前でタバコってどうなんすか」


「いいだろ?林間学校くらい。代わりに悩み?聞いてやるよ」


 まあ、いいか。話せば少しはマシになるだろう。


「失恋したんすよ」


「なるほどなぁ·····すまん。そういう重いのはムリだわ」


 クソの役にも立たねぇクソ教師がぁっ!!


 途端に女子の色めき立つ声が聞こえた。


「なんだ?」


「友士じゃないっすか?瀬戸友士。アイツ料理上手いんすよ。イケメンで料理上手でモテるとか·····」


「たいした奴だな」


「そうっすね·····さーて生ゴミあたりを·····」


「投げ込む気か!?」


「なんかムカつくでしょう!?」


「東雲君?井澤先生?」


 そこには笑顔の江藤がいた。怖い笑顔の。


「何時になったらこっち手伝ってくれるんですか?」


 因みに学級委員は担任と昼食を作る。何時までも喋り込んでる男共にしびれを切らしたのだろう。


「いやぁ、女子の手料理に手を加えるのはなぁ·····なんて·····すいません」


「はぁ。じゃあカレーの方お願い。ご飯は私やるから」


 飯盒をもって江藤は米を炊きに行った。


「ザワ先生。お湯沸かしてくれます?あとタバコ消して」


「おう·····って。いきなりお湯沸かすのか!?」


「肉湯通しするんすよ」


 湯通しとは熱湯に潜らせること。臭みや余分な脂を落とすことができる。

 こっちはジャガ、ニンジン、玉ねぎを1口大に切っていく。隠し味にニンニクを潰したものを入れることにしよう。


「沸いたぞー」


 肉を熱湯に潜らせ、水を張ったボウルに入れる。


「氷水ならよかったんですけどね」


「うわー·····めっちゃアク浮いてるのな」


 肉を先に焼くのもいいがこっちのが優しい味わいになる。

 鍋を洗いジャガとニンジンを水から火入れする。


「沸いたら肉と玉ねぎとニンニク入れて下さい」


 その間にみじん玉ねぎを炒めていく。少し多めの酒と砂糖を加え飴色になるまで炒めるのだが。


「火がつえぇ·····薪だから?」


 火から離しながら少しずつ炒める。熱い。


「こっちは良い感じだぞ?」


 こっちもなんとか飴色になった。


「じゃあ、これとルウ加えてちょい煮ましょう」


 ブツを全部鍋に加え煮る。ここまで1時間ちょい。


「あと江藤来るまで煮ときましょう。薪少なめで」


 カレーは上手く行った。しかし、江藤も聖川もタイミングを逃したのとビビったので告白することは出来なかったようだった。

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