前日譚 敗けヒロインの敗戦処理

前日譚0 こんなんどうせ目測だろ?

 ゴールデンウィークも終わり、ジメジメした梅雨入りの6月。我がクラスは殺伐とした空気に包まれていた。


「緊急クラス会議?」


「放課後やるってよ」


 この俺、東雲 夏樹はクラスの副委員長。入学初日に遅刻をぶちかまし、担任に目を付けられ就任した。


「これに見覚えのある人はいますか?」


 クラス委員長の江藤 詩穂が手帳を取り出し教壇の上から言った。

 手帳が取り出された時、男子達がビクッとしたのを見逃さない。

 俺は立ち上がり教壇に向かう。


「え、東雲君の?」


「いや?てか、クラス会議なら俺もこっち立たせろよ。副委員長だぞこれでも。で?なにこれ?」


 俺は江藤の手から手帳をひょいと取ると見開いた。


「マル秘!1-B女子3サイズ表」


 どうやら、事は思ったより重大だったらしい。


「マル秘じゃねぇじゃん。見つかってるし」


「そこじゃ無いかな」


「スリーサイズ表ね。あーあ、やっちゃったねぇ諸君」


 俺は教壇上から男子達を見下ろして言った。何より俺抜きでこんな面白そうなことをしていたのが気に喰わない。今回は徹底的に女子の味方をする。


「昼休みに階段に落ちてるのを拾ったらしくてね。流石に女子として黙ってはいられなくてね」


 そりゃそうだ。俺は手帳をペラペラ捲り、中身の確認やカバーを捲り持ち主確認をする。カバー下を見たとき持ち主は察したが。もとに戻して江藤に渡す。


「簡単なプロフィール表になってるのな」


 誕生日から身長体重、好きな食べ物やら趣味やらが纏めてあった。


「よく作ったもんだこんなもん。ストーカーの私物かっての」


 男子達の方に向き直る。


「ともかく。こんなんセクハラもんだぞ?やって良いことと悪いことがある。流石にこりゃマズイだろ?これに懲りたら自分等の行動を悔い改めろ」


 男子達は自分等が全面的に悪いと認めているのか、反論は珍しくなかった。


「女子達は·····不快だろうが勘弁してやってくれ。ウチのクラスの女子は皆レベル高いから気持ちはわからんでもない。それに、こんなんどうせ目測だろ?当てになんねぇよ。これは江藤と処分しとくからそれで手打ちにしてくれな?」


 上手いこと持ち上げて納得させる。


「じゃあ、解散!!」


「えっ!?終わり!?」


 江藤が驚きの声を上げる。


「うん終わり。報告書書こうぜ」


 そして各々が部活や帰路に着いたとき、教室で江藤と2人で生徒会への報告書を書いていた。


「いや、これ書かなくてよくね?」


「一応クラス会議だから」


「こんなアホな会議あるか?犯人吊し上げたわけでも無いのに」


「え?犯人解ったの?」


 俺は手帳のカバーを外して江藤に見せた。


「これ·····」


「そ。閲覧者リストってとこか」


 そこにはクラス男子14名全員の名前があった。


「これ見た奴にチェック入れてたんだ。つまり、見つかった時点で男子全員断罪覚悟してたわけ」


「なるほど·····って、東雲君だけチェックされてない·····」


「何で俺には見せてくれなかったんだ·····」


 それを確認した時点で上手い落とし所にもって行ければと思っていたのだ。


「でも、東雲君があんなマジメなこと言ってるの初めて見たよ」


「俺は基本マジメだろ?」


「マジメっていうか·····なんか、諭すように見えた。前々から思っていたけど、東雲君てアイデンティティというか自我をしっかり持ってるよね」


「そうか?自分じゃ分からんなぁ」


「大人の人みたいな感じ。そういうところ、私はすごい信頼してる」


「それは光栄だ」


「それを見込んで相談があるんだけど·····」


 クラスのマドンナ的存在である江藤が俺に相談とは。興味あるなぁ。


「ん?なに?」


「私、瀬戸君が好きなの。7月の林間学校で告白したいから·····手伝ってくれないかな?」


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