それもまあ、いいでしょ

第5話 マジでそれ笑えねぇから

 6月下旬。梅雨明け間近のこの頃。日に日に気温が上がっていく。衣替えももうすぐである。


「雲が重いなぁ·····」


 昼休み。曇天の下の屋上で、缶コーヒーを啜りながら空を仰いでいた。


「うぎぎぃぃ·····中庭でイチャコラしやがってぇ·····」


 そして、今日も今日とて下唇を噛み締め血を流している美少女が。聖川 周という黒髪ショートに吊り目気味でありながら柔らかな表情の綺麗な女子。16歳でありながら豊穣を迎えつつある肢体は眼を惹くものが·····


「何か、デジャブってるんだが?」


 数ヶ月前にも同じことがあった気がする。


「しねしねしねしね·····」


「ブレーキ踏め。笑いでコーヒー吹くって前に言ったろ」


「しののめぇ·····なんなのあいつらぁ·····みせつけてくるんだぁ·····」


 眼前の中庭にはクソイケメンの主人公瀬戸 友士とクソ良い奴な美少女江藤 詩穂の我が校の誇るビッグカップルが乳繰り合っていた。

 聖川は瀬戸と幼馴染みでクールで不器用な聖川は瀬戸に想いを伝える手伝いを俺に頼み、なんやかんやあって振られたのだ。


 そしてつい最近、この世の終わりみたいだった聖川は長い黒髪をぶった切ることで失恋を吹っ切ったのだった。


 現状。


「吹っ切ったんじゃなかったの?」


 俺の腕にしがみつきながら眼に涙を浮かべる聖川に、俺は顔を引きつらせるしかなかった。


「しののめぇ·····みすてないでぇ·····」


 やっぱりコイツ駄目かもしれない。


 少し落ち着こう。


「気持ちに整理はつけたよ。けど、目の前でああもイチャつかれると·····ねぇ?」


「や、まあ、胸焼けするが·····」


 前回、俺は俺で聖川に告白紛いの発言をした挙げ句、聖川は聖川で逆告白みたいな謎発言を俺に喰らわせている。

 聖川は失恋の後、失意のどん底に。黒い陰謀を秘めた俺があれやこれやと助けるうちに聖川の精神性が不安定に。うっかり俺に依存するところだったが、それに気付き自ら立ち直ったのだった。

 もともと俺は聖川が好きだったのだが不安定な聖川が良心に触れ、恋愛感情が薄れ保護感情に切り替わっていった。

 現在は保護感情も失くなり、何とも言えない感情を聖川に持っている。


「で、私のこと好き?」


「勿論。好き好き、超大好き」


「そうゆうのいらない」


「ですよねー」


 こんな軽口を叩き合う関係に。


「てか、マジでそれ笑えねぇから。なんて質問だよ」


「すいません」


「しかし、瀬戸も勿体無いことしたよなぁ」


 やられっぱなしじゃ気に食わないのでこちらも叩き返そうか。


「こんな良い女振るなんてな」


 久々に褒められたからか、聖川の眼に光が宿る。


「身長163。体重47。スタイルなんて上から80、63、82。って抜群なのになぁああっ!!」


 聖川に脇をつねられた。


「なんだよっ!目測だろ!?·····当たってた?」


「マジでそれ笑えないから·····」


 意趣返しとはこのことか。聖川に宿った光は憤怒の光りに変わり果てていた。


 嗚呼。褒めたつもりだったのに。


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