第3話 そりゃお前、そうだろうよ

 デートという名のお通夜、サバトか?の次の日。聖川はまた俺の家に来ていた。因みに、親は両親共々海外出張で来年まで帰ってこない。


「髪を切ろうと思う」


 聖川は来て早々にそう言った。


「あそう。切れば」


 とは言ったものの、聖川の黒髪ロングを切るのは少々勿体無い気もする。綺麗な長髪だというのに。しかし、それで吹っ切れるなら致し方無い。


「というか、なら逆方向だろ美容室。自分で切るにしても自分家でやれよ」


「いや、だから。切ってよ」


 時が止まった。


「だから、東雲が切ってよ」


 コイツはやはり駄目かもしれない。というか、前回も言ったがもう駄目だろ。

 髪は女の命と誰か言ってただろ。


「自分でやれや!」


 そんな。美少女の髪切るとか、そんな責任負いたくねぇよ!ヤだよ!


「だって後ろ見えないし」


「美容室行けよ!」


「昨日のカラオケでお金無いし」


 行動力と裏腹に計画性皆無かよ。


「他に頼める人いないし」


「親ぁ!!」


「海外旅行」


 置いてかれたのかよ!?いや、まあ、こんな負のオーラ撒き散らしてるやつ連れていきたくねぇかもだけど。


「はぁ···どーなっても知らんぞぉ···」


「大丈夫。切った髪はお焚き上げするから」


 そゆことじゃねぇよ。


 ハサミしか持参してないとのことで、タオルを首に巻き軒下に連れていく。


「マジでどーなっても知らんからな」


「バツーンといっちゃって」


 聖川の髪を掴み上げる。


「南無三っ!!」


 バツーンといってやった。ちょこちょこ注文を寄越すので少しずつだが。

 そんな惨劇の後手鏡を渡す。


「ん。まあいい感じ」


 もうほんと疲れた。気疲れ?連休なのに休んだ気がしない。


「じゃ、髪集めて···」


 聖川は箒で髪を集めると、軒下の目前にある庭に積み上げた。


「マッチある?」


「おいまて。燃やす気か?」


「お焚き上げ」


 いや、それに直で着火したらお焚き上げじゃねぇし。燃やしてるだけだし。


「いいか。俺は止めたからな」


 そして、マッチを手渡す。


 聖川は躊躇することなく髪に直接着火した。


 煌々と燃え上がる髪を眺める聖川。


「これで友士はキッパリ諦める。これはその覚悟の証明。東雲に見届けて欲しかった。」


 聖川は唇を噛み締めながら言った。


「東雲には散々迷惑かけたから、これからはちゃんとする。今まで一緒に居てくれてありがと」


 聖川の成長に涙が浮かぶ。ようやく前を向いてくれた聖川。これまで本当に酷かった。クールキャラは何処へやら。情けない醜態を晒しまくっていた彼女はたった今、自分の足で立ち上がり前を向いた。


 空に登って行く煙が風で揺らめく。


「·····っさ·····」


「ん?聖川?」


「くさっ!!なにこれ!?え!?くさぁっ!!」


 いや、お前。髪燃やしてんだもん。


「えぇ!?くさいぃ!!」


 聖川は涙眼になりながら俺の元へ駆け寄ってくる。


「そりゃお前、そうだろうよ」


 髪を燃やすと亜硫酸ガスが発生する。それはなかなかの刺激臭になるわけで。


「しののめぇ·····」


 嗚呼。やっぱコイツは駄目かもしれない。

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