第12話:依頼説明

 地下駐車場には幾つもの車が乗りつけられ、そこに集まっている者たちが最後に現れた私たちが注目を集める。

 敵の待ち伏せを警戒して手にしていた拳銃だが、駐車場に集まった者たちの武装を考えれば玩具のように可愛い物に見えてしまう。

 突撃銃や狙撃銃、回転式拳銃の二丁持ちや散弾銃など理解を示せる道具を持っている者もいれば、対戦車ライフルや重機関銃、擲弾銃などを持ち込んでいる者もいた。

 不意の戦闘には不向きな物をこれみよがしに出している男たちは、何故数ある銃の中でそれを選んでいるのか理解出来なかった。


「おい、あれ白死だぜ」「なぜ奴が……」「関わったら不幸になるって奴か?」「提示版にも最近晒されてたぜ」「ああ、あれか」「なんだ、何かあったのか?」


 口々に彼らは声をひそめて噂話に興じているが、そんなことに時間を費やせるほど時間が無限に用意されている訳ではない。

 共に乗ってきた男が手を叩き、他にも雇われた傭兵たちの注意を向けさせる。


「さて、これで全員が集まったようだ。今回の依頼を説明する前にキミたちには守って貰わなければならないことがある。守秘義務という奴だ」

「おいおい。俺たちは傭兵だぜ? 契約にはシビアさ」

「解っている。キミたちの実績を調べ、仲介屋から直接話しをして貰っている。依頼の成功率と失敗率。失敗した理由も頭に入っている。だが今回の依頼はキミたちがこれまで受けてきた依頼とは雲泥の差なのだと理解して頂きたい」


 傭兵の男たちの軽口を簡単に躱し、一歩ごとに彼らに距離を詰めていく。その足音は地下駐車場に反響し、暗闇に吸い込まれるように消えていく。


「何事もリスクがある所にリターンがある。膨大なリスクがあれば莫大なリターンが得られるようにだ。それが今回の場合は最初にという言葉が付くほどのものということだ」

「つまり、どういうことだ?」

「命懸けということだ」


 傭兵の中から最もまともそうな突撃銃を持っていた巨漢の男が依頼主を見下ろしながら訊けば、依頼主は薄ら笑いを浮かべて返す。


「任務の失敗は調べ上げたキミたちの含まれている。そのため失敗した場合はアカウントを無くすことだけで済むとは思わないで貰いたい」

「お、おいっ!? それってつまり俺たちを殺すっていうのかよ!?」

「いやいや。殺すなど品の無い言い方は好ましくない。ただ一族の全てが消えることは前提だ。何だったら友人や恋人なども一緒にどうかね? 勝手に連れて行くが」

「な、なんだよそれ……聞いてないぞ!? 契約違反じゃないのか!?」

「書面であれば書いてあったのだがね。悪質な仲介屋に騙されたのかもしれないね」


 依頼主はこの場にいない者に罪を擦り付けていたが、恐らく書面データなどの形に残ってしまう物は最初から用意していないのだろう。

 しかしこの場でそれを確かめる術は誰にもなく、仲介屋の連絡先にコールやメールを入れても使い捨てのアドレスだったのか、アカウントごと消してしまったのかは不明だが連絡が付くことはない。

 彼らはすでに、巨額の報酬を持ってこの世界と別れを済ませているのだろう。

 焦る彼らは何度も届かない連絡に不安感を駆られていたが、それでも冷静だった一部の者は諦観の念を携えつつも覚悟を決めた目で立っていた。


「すでに集まって貰った以上契約は締結されている。守られなければ全てを失うことになるだろう。一族の歴史さえも。だがキミたちが契約を達成することが出来れば、生涯では使い切れない金を得られることは保証しよう」

「……嘘じゃないのか?」

「もちろんだとも。私は契約を反故にするほどの無法者ではない。必ず履行させる。必ずだ」


 権威をそれだけ持っている証拠なのか、依頼主の男が言い切れてしまうほどに方法を問わずに契約内容を履行させる気だろう。

 そのやり方が人質を使った脅迫だろうと十人や二十人の人生分の借金だろうと男は背負わせるだろう。

 この世界に善人などいるはずもなく、互いに損得勘定のみで繋がっているのだから。


「では諸君。ビジネスの話をしよう」


 依頼人が手を叩いて注目を集めて口火を切る。

 すでに逃げられない状況下で虎穴に集まった盗掘者たちは耳を傾けるしかなく、男は満足そうに話し始めた。


「まず、我々はキミたちに依頼したのは銀行強盗犯からの防衛を依頼した。しかし連れて来られたのは地下駐車場ということもあり、疑問に思った者も多いだろう」

「そ、そうだっ。俺たちは店の防衛って言われて来てんだ。出来ることなら防衛場所の確保をしておきてぇぞ」

「確かに重機関銃を持ち運ぶのは手間だろう。だが、残念だが今回の依頼は特定の場所を防衛するものではない」


 依頼人の男が指を鳴らせば地下駐車場に停められていた幾つもの黒塗りの車にライトが灯る。

 幾つものエンジンサウンドが地下に反響し、腹の奥底に響くような重低音を轟かせる。

 それは車体が重く見た目からは分からないが重装甲を持っているがゆえに、動かすにはエンジン部も大きな物を使用する以外になかったからだろう。


「今回の任務は銀行の引っ越しだ。幾つものダミー車も走らせるが私の社員も同乗する車もある。スモークガラスで中は見えないが、好きな車を選んで欲しい。社員が同乗していれば護衛の任務も請け負って貰うことになる訳だが、その分成功金額には色をつけさせて貰う。損はさせない」


 地下駐車場に集められた同じ車種の車に乗り込めば、この依頼人の関係者が乗っており彼らが銀行の金を持って移動するということだろう。

 つまり今回の依頼は拠点防衛の話ではなく、金庫の移送中の防衛だったのだ。


「向かう場所は現在いる五番区から中央に位置する四番区となる。詳しい位置は教えられないが別々のルートで車は自動でそこへ向かうように設定されている。また軽機関銃ならば車体の装甲を貫くことはないが、重機関銃や対戦車用の装備も襲撃犯は持っていることだろう。十分注意して欲しい」

「ま、待て! 俺たちの装備は拠点防衛用の物ばかりだっ! さすがに取り回しが効くようなもん持ってきてねぇよ!」

「そういう場合も考えてある。我々が貸し出そう。もちろん使用した弾薬や銃器が壊れた場合は支払って貰うがね」


 依頼人が予測出来ている反応だったのか、重機関銃をこれみよがしに持っていた男は何も言うことが出来ずに自慢の装備をストレージに戻して借りることになった。

 そんな男に続いて幾人の無用の長物自慢の装備を持ってきた男たちがお揃いの軽機関銃を手にして近くの車に乗り込んでいく。


「……ふん」


 依頼人の説明ブリーフィングが終わり、面倒な仕事なのを改めて理解する。

 緊急時に出せる装備を幾つか見直すためメニューから装備を選んでいると―――


「それでは白死くん。キミは私の護衛をして貰うよ?」


 ―――拳銃に新たなマガジンを装填していた頃に、説明を終えた依頼人が近づいてそう言った。


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