第26話 テスト開始
「ご、ゴールデンウィーク。俺のゴールデンウィークが……」
あれから時間が過ぎて今日はテストの日だ。俺の予定ではゴールデンウィークは帰省して家族と過ごす予定だったのに結局毎日勉強する羽目になっていた。
基本は風音とマンツーマンで勉強していたのだが楓が今日は暇だから来てあげたわ! とか言ってきた日もあった。
「し、仕方ないよ。天道くんは勉強苦手なんだし……」
事情を知っている果穂は俺を慰めるように言ってくれた。
「果穂はゴールデンウィーク何をしてたんだ?」
「わ、私は実家に帰っていました」
果穂……
「この敵め! 俺が粛清してやる!」
「えぇ!? な、なんでですか!?」
果穂は驚いているようだがそんな事は知らん。俺が勉強で死にそうになっていた時に遊んでいたなんて敵だ敵!
「おっ、みんなちゃんと席についてるなー? これからテストの用紙を配るから頑張ってなー」
チャイムと同時に先生が入ってきて紙をペラペラと鳴らしながらそんな事を言った。
それから俺は国語、数学、社会、科学、ダンジョン学の5教科をとき終わるのだった。
「ふっ、前回よりも解けた気がする」
テストを解き終わり、俺はドヤ顔で独り言を呟いた。
「ど、努力した甲斐がありましたね! どれくらいできたんですか?」
俺の言葉に反応するように果穂が後ろを向いて話しかけてきた。
「そうだな……問題用紙は全部埋めちゃったかな! ガハハ!」
前回は手付かずの問題ばかりだったが今回はきちんと回答用紙に全て書き込んだ。
「そうかそれは良かったな」
俺達が話していると横から声をかけられた。話しかけてきたのは風音だ。
「まあな! 俺レベルになるとなんていうんだろうな。問題を見るだけで答えがわかる……みたいな?」
散々勉強に付き合わされたのだ。ちょっとくらい調子に乗っても許されるだろう。
「そうか……」
風音は何故か俺の顔を見て残念なものを見るような顔をして目を伏せた。
「それよりも風音さんも天道くんも早く移動したほうがいいんじゃないんですか?」
そういえばクラスの人がいないな。
「移動ってどこに?」
「体育館ですよ。そこでも試験があるんですよ」
果穂はよくそんな事知ってるなー。
「試験って何するんだ?」
「詳しいことは行ってみないと分からないが体を動かす試験というのは間違いないだろうな」
「おっ、そっちは得意だ!」
俺はストレッチをしていつでもやれるぞとアピールをするが風音に目で本気を出すなよと釘を刺されてしまう。
「早く行かないと怒られるかもしれないし急ぐとするか」
俺と果穂は風音の言葉に頷いて歩き出すのだった。
「はーい。みんなちゅーもーく」
体育館に着くと他のクラスの一年もいるようで見かけない顔が何人かいた。ザワザワとしていたがマイクの声が聞こえた瞬間みんな無言になった。
壇上には明石先生を含めて何人かの先生がいた。
「これからみんなにやってもらうのは、はたとり合戦や」
はたとり合戦? これからテストをするんじゃなかったのか?
「これからルールを説明するからちゃんと聞いときや……まず、会場はこの学園の敷地全てや。ただし、建物の中に入るのは禁止やからなー。そんで今からここにいる生徒全員にはこの旗のついた帽子をかぶってもらう」
と言って先生は旗のついた帽子をひらひらと見せびらかした。
そしてその説明に合わせて周りにいた先生や上級生達が旗のついた帽子を配っていた。
その上級生達の中にはちひろの姿もあった。
ちひろを見ていると目が合った。
「どうかした?」
するとちひろは俺の方まで近づいてきて声をかけてきた。
「いや、ちひろがなんでここにいるのかなってちひろもテストなんじゃないの?」
俺の質問に対してちひろは首を横に振った。
「学園は学年ごとにテストをする日を変えているの。どの学年のテストも実技試験の方は大掛かりな物が多いから日程をずらしているの。それで私は生徒会長だから手伝いでここにいるってわけ」
そう言って俺に旗のついた帽子を渡してきた。
「ありがとう。そうなのかー、生徒会は大変だなー」
俺が他人事のようにそう言うとちひろはくすりと笑った。
「翔さえ良ければ生徒会に入ってみる? こういう行事がある時は授業を抜け出せるから翔にとっても悪くないはずだけど……」
と言われ心が揺さぶられる。
「ほ、本当なのか!?」
「えぇ。ってこんな話をしている暇はないわね。他の人にもこれを配らないといけないから私はもう行くね。試験は大変だと思うけど頑張って!」
と言ってちひろは他の一年に旗のついた帽子を渡しに向かった。
本気で生徒会目指してみようかな……授業を抜け出せるなんて最高じゃないか!
「……配り終えたようやな。そしたらみんなそれを被ってもらってええか?」
俺を含め全員が貰った帽子を被る。
すると目の前に一年Aクラス、天道翔。撃破数ゼロ。部下ゼロ。
と言う表示が出てきた。
どう言う仕組みになっているのかわからないので出てきた文字を触ろうとしても俺の手を透けて文字はそのままになっている。
「それはAR拡張現実を改造して作られた機械なんやけどな、みんな視界に自分のクラスと名前に撃破数と部下って文字が見えてるか?」
「はい!」
先生の言葉に返事をする。俺以外の生徒も返事をしていたため俺だけ浮くと言った事はなかった。
「ええ返事や。じゃあこれからやるはたとり合戦のルールを説明するで。まずそれぞれ頭に旗をつけていると思うけどこれを取ったら勝ちや。そんで撃破数がプラス1される」
とシンプルに説明された。
「取られた人はそこで負けや。せやけど負けいうてもそこで試験が終わるわけやないで、君らも見えてると思うけど撃破数と部下って文字があるやろ? もし自分が旗を取られたら自分の旗を取った人の部下になるんや」
なるほど?
「そんで部下にされた場合は頭の旗がない状態で自分の旗を取った人、つまり上司に従いながら戦うことになるんやけど、旗がない状態でも旗を取った場合は撃破数に加算されるから安心してや」
ほうほう。
「旗がない人に自分の旗が取られた場合は自分の旗を取った人間の上司の部下になる。簡単にいうたらそんな感じや。そんでゲームの終了条件は旗をつけてる人間が最後の1人になったところで終了や」
じゃあ旗をつけた人が最後の1人になるまでゲームは続くってことか。
「簡単なルールの説明は以上や。これからは今回のはたとり合戦の評価点を先に教えといたるわ。まず純粋な戦闘力つまり撃破数やな。そんで戦略とリーダーシップ自分が倒した無敵の人間をいかにして操るのか。最後に生存力、どんな状況でも生き残ろうとする生存力やな」
評価ポイントまで教えてくれるとはなんで優しいんだ!
「……この試験はスキルも武器もなんでもありや、ただし人が死ぬような攻撃や大怪我につながるような攻撃は禁止やで。教員や上級生も今回の試験では目を光らせているからな、もしもそのような攻撃があった場合は即座に失格になるからきぃつけや。詳しい事は今から説明書を配るからそれを読んでくれ」
と説明が終わると先生は教壇から降りた。
そして説明が書かれているであろう紙が前から送られてきた。
「ふむふむ。なるほど」
大体のルールはさっき先生が言った通りだ。わかりやすくまとめると……
会場は学園の敷地全体、ただし建物やダンジョンの中に入るのは禁止。
旗を取られると取られた人の部下になる。
部下になっても終わりではなくて他の人を撃破すれば撃破ポイントを伸ばせる。
部下になった人に旗を取られた場合はその人の上司の部下になる。
旗のついた人が最後の1人になるまでこの試験は続く。
と言った感じだろうか。
ただスキルと武器がなんでもありっていうのは怖いよなー。武器を使う人はゴム弾や刃の付いていない刀なんかが配られるらしいけど、それでも物騒なことには変わりない。
それくらいしないとダンジョンでは生き残れないという事なのかな?
「天道、今回の試験……」
風音が話しかけてきた。そして風音の言いたい事は分かってる。
「大丈夫本気は出さないって……このルール見てて少し思ったんだけど部下になった人って有利過ぎない?」
俺は気になっていた事を風音に聞いてみた。
説明を聞いている限りでは部下になった人は旗を外した状態で戦えるのだ。
つまり負けることがない状態で戦えるということだ。
「私も最初はそう思ったが、そうでもないだろう。先生が言ってた生存力って言葉を覚えているか?」
「評価ポイントの一つだろ?」
「そうだ。そしておそらくだが、このテストでかなりの評価点が貰えるのは生存力だと思う」
えっ、なんで風音はそんなこと思ったんだろ?
「なんで?」
「簡単だ。このゲーム生き残る方が難しいからだ。特に序盤なんて回りの人全員が敵だぞ? 中盤以降は倒せないの敵も出てくるし、終盤に関しては部下が多い方が勝つことになるだろうからな」
なるほど……そこまで考えていなかった。
「風音……賢いな」
「これくらい普通だと思うが……」
と言いながらも風音は少し照れたようにしている。
「2人ともこんなところで何を話しているのよ」
俺達が話していると楓がやってきた。周りを見ると体育館の中の人の人数はかなり減っていた。
「試験について話してた」
別に隠す内容でもないので俺は話していた内容を伝えた。
「ふーん。そっ、でも開始時間は3時からよ? ちゃんと準備した方がいいんじゃないの?」
体育館に付いている時計を見ると今の時刻は2時半だ。
「まあ、俺は準備することもないしなー」
実際準備することなんてないしな。強いていうならこの建物から出ておくことくらいだ。
「私は武器のレンタルに行かないとな」
「あー、風音は刀使ってたもんなー」
風音が使っていた武器は刀だったはずだ。
「そうだ。というわけで言ってくる」
風音はそう言って体育館から出て行ってしまった。
「天道くん、貴方が強いのは分かっているけど今日はお互い頑張りましょうね」
「おう!」
楓もそう言って体育館を出て行った。
俺も2人を追うようにして体育館から外へ出るのだった。
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