第25話 報告行きました
授業が全て終わりちひろに報告をする為準備をしていると風音と楓が近づいてきてきた。
「どこに行くんだ?」
風音は俺が勉強会に参加するのか心配しているのだろうか?
「ちひろの所。勉強会は少し遅れて参加するようになると思う」
と言って席を立ち上がる。
「私達も連れていきなさい」
楓がそういうと風音もそれに頷いた。
「……別にいいけど、何しに来るんだ?」
そんな面白いこともないと思うけどな。普通にダンジョンの中であった事を話すだけだし。
「アンタ1人だと心配だからついていくのよ」
心配、なんでだ?
「天道が1人で行くとダンジョンであった事全て話しそうだからな。私達で考えた話に合わせてもらうぞ」
……忘れてた。ダンジョンであった事全部話すつもりでいたぞ。
「その顔は忘れてたって顔だな。どこでちひろさんに会うことになっているんだ?」
風音にはバレてしまったようだ。
「えっと、生徒会室にきてくれってメールに来てた」
今日報告に行くとメールしたら授業が終わったら生徒会室にきてくれとメールが送られてきた。
「分かった。それまでに話を合わせておくぞ」
「お、おう」
俺達は移動しながらちひろに報告する内容を話し合うのだった。
2人が考えたちひろに報告する内容は超級ダンジョンに出てくるレベルの異常個体と戦い、協力してなんとか倒した俺たちはこのダンジョンは危険と判断して帰還しようとした。
しかしそこでトラップ部屋ににかかってしまい楓が二層目に飛ばされてしまう。
そこでモンスターにやられそうになった楓だったけど俺達がギリギリのところで間に合い怪我をしながらもなんとか帰還した。ということにするらしい。
「入るぞー」
生徒会室についた俺は扉を開けて部屋に入るが中にいたちひろは驚いたような顔をしていた。
周りを見渡しても他の生徒会役員はいないようで奥の椅子にちひろが1人でいるだけだった。
「ちょ、突然入るなんて何考えてるのよ!」
と楓から後ろから頭を叩かれた。
「いてっ」
痛くはないが反射的に声が出てしまう。
「そうだぞ。部屋に入る時はノックをしろ」
風音からも怒られてしまった。
「ご、こめん……」
ちひろに謝るとちひろは笑顔で首を縦に振った。
「次からは気をつけてね。……後ろの2人がいるという事は3人でダンジョンに入ったのね。まあいいわ。そこに座って」
そう言って優しく手を向けた先には向かい合う形で置かれている長椅子とテーブルがあった。
「分かった」
案内された通り俺達はそこの椅子に座った。俺が真ん中で左に風音右に楓という席順だ。
「紅茶とコーヒーどっちがいいかしら? インスタトだけどなかなか美味しいわよ」
紅茶ってあの渋い飲み物だよなー。コーヒーは家で飲んだけどめちゃめちゃ苦かったからなー。
「私は紅茶でお願いします」
「なら私はコーヒーで」
2人はなんの躊躇いもなく頼んだ。2人ともあの飲み物を飲めるのか!?
「俺は……コーラがいい」
ダンジョンから出てきてからというか俺は子供の時からコーラが好きだ。
さっきの選択肢にはなかったけどもしかしたらあるかもしれないしな。
「コーラはないけど……確かオレンジジュースならあったはずよ」
おお! マジか!
「じゃあそれで!」
言ってみるものだなと思いながらお願いする。
しばらくするとちひろは俺達の前にお菓子と飲み物を置いてくれた。
「さてと、それじゃあ報告を聞きましょうか」
ちひろも俺たちの前の席に腰下ろしてコーヒーを一口飲んでからそう言った。
「おう、ええと……」
「待て! その前にちひろさん聞きたいことがあるんですがいいですか?」
俺が説明しようとすると風音が待ったをかけた。
「なにかしら?」
ちひろは風音の言葉を聞いても笑顔のままだ。
「何故天道に私に黙っているように言ったのですか? 今回行く場所が危険な場所というのは分かっていたはずでしょう?」
「あら、バレていたのね。……そうね。正直に話しましょうか」
そう言って一息置いたちひろだが、顔は笑顔のままだ。でも俺はその笑顔が少し怖くなった。
風音達が怒った時に見せる笑顔とはまた違う、なにもかも見透かしたような笑顔だったからだ。
「私は鈴木家の発表に不信感を覚えていたからよ」
「不信感?」
風音は思わずと言った様子で言葉を返した。
「ええ、上級ダンジョンなんて1番深いと言われているダンジョンでも30層までしかないのよ? そこから這い上がってくるに5年もかかるなんてことがありえるの?」
「そ、それは……天道も苦労したんです! 最下層まで落とされて右も左もわからない状態で……」
苦し紛れに言葉を返す風音に対してもニコニコとした顔を崩さずに話すちひろ。
「最下層に落ちたなら尚更よ。仮に最下層にいたボスを倒せたのなら簡単に出て来れるはずよ。ボスを倒せる実力があるのならあとは上に上がっていくだけよ。仮に救助が来なくても一年あったら出てこれたはずなのよ。もしもダンジョン内で逃げ回っていたのならまず5年もの間生き残るのは不可能でしょうしね」
「それは……」
その言葉を聞いた瞬間ちひろは何か満足げに笑った。
「そんなことより、今回の調査の件どうだったの?」
「あ、あぁ……」
突然話を振られてびっくりしたが、俺は打ち合わせで話していた内容をそのままちひろに伝えた。
「……トラップ部屋に超級ダンジョンと同等のレベルのモンスター。そんなことになっていたなんて」
俺の報告を聞いたちひろは先程までの笑顔とは真逆の真剣な顔で話を聞いていた。
「翔。さっきは風音にああ言ったけど今回の事はごめんなさい。まさか超級レベルのモンスターがいるなんて思いもしなかったわ。完全に私の采配ミスね」
「えっ、あ、おう……」
突然謝られてしまい戸惑ってしまう。さっきまであんなに笑顔で風音を追い詰めていたのに急に謝られるなんて……
「風音も楓にも謝りたいの。ごめんなさい。2人がいなければもっと悲惨なことになっていたかもしれないわ。これで謝罪になるかは分からないけど楓にはポーションを私からプレゼントするわ」
「……はい、ありがとうございます」
楓も驚いているのか返事が上の空だ。
「それとは別に3人には報酬を渡さないとね……お金を直接と言うのは生徒会長として難しいけど何か欲しいものとかある?」
そう言われて風音と楓は信じられないものでも見たかのようにお互いの顔を見つめあっている。
やっぱりちひろは悪いやつではなさそうだ。
「じゃあご飯が食べたい! またあの時食べたみたいな美味しいご飯をいっぱい食べたい!」
「分かったわ。なら中間テストが終わったら一緒に食べにいきましょう」
その言葉を聞いて俺はピシリと固まってしまった。
「ちゅーかんてすと?」
いつの話をしているんだ? まだ先だろう?
「来週から始まるゴールデンウィークが明けたらすぐにテストが始まるわよ?」
……………。
「見て分かるくらいに絶望しているわね」
「そうだな」
2人が横でそんな事を言っているが俺は気にならない。だってまだ先だと思っていたテストがもう直ぐのところまで迫ってきていたのだ。
それから3人で何やら話していたようだったが俺の耳には入って来なかった。
楽しみにしていたゴールデンウィークが終わった後に地獄が待っていると知った俺の心境が分かる人はこの場にはきっといないのだろう。
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