第20話 トラップ

 あれから2人は頭がバラバラになったゴーレムからゴーレムのカケラを取り、ガラスのスマホの上に置いたり写真を撮ったりしていた。


「なにしてんの?」


 俺は気になって質問する。


「このモンスターの調査だ」


 風音がゴーレムの死体の一部を持ちながら答えてくれた。


「モンスターの事を写真で撮ったりするだけで分かるもんなのか?」


「このスマホは特別でな。冒険者の手助けになるようにと国宝家が開発したスマホなんだ」


 と言って俺と同じガラスの携帯を見せてくる風音。それに国宝家ってなんだよ。


「……つまり冒険者専用って事か?」


 普通に携帯ショップにも並んでたけどな。


「最初は専用だったんだけどデザインの良さから一般販売もされるようになったのよ」


 楓は立ち上がってスカートについた埃を払いながらそう言った。


「へー。ところでこのモンスターについて何か分かったのか?」


 俺がそう聞くと楓の目が鋭くなった。


「えぇ、分かったわよ。まずこのモンスターの名前はブラックゴーレム。ゴーレムの異常個体ね」


「おぉ、やっぱりそうだったのか」


 風音も異常個体だと言ってたしな。


「強さについては体の強度はダイヤモンドと同等かそれ以上、超級ダンジョンの敵として出てきてもおかしくないレベルね。それをあんな小石で倒すなんて……天道くん。何か隠し事してないかしら?」


 と言って楓はさらに目を鋭くした。俺が困って風音の方を見るとだから言っただろうと言わんばかりにため息を吐いた。


「……それよりも考える事があるんじゃないか?」


 風音は楓の横に来てそんな事を言った。


「考える事ってなんだ?」


「……分からないの? 入ってすぐに超級ダンジョンに居てもおかしくないモンスターが居たのよ。すぐに撤退すべきだわ」


 なるほどそう言うことか。


「私も賛成だ。ここは上級のレベルを遥かに上回っている。ちひろさんにはこの事を報告して後はプロに任せた方がいい」


 正直あれくらいの敵なら全然問題ないんだけどなー。なんて思っていると風音が睨みつけてきた。


「……分かった」


 俺は風音の圧に負けてしまい頷くのだった。



「なんかモンスターの数が増えてないか?」


 俺達はきた道を引き返していたのだが急にモンスターと遭遇するようになったのだ。

 ブラックゴーレムを倒してからすでに3回以上もモンスターと戦っているのだ。

 

「……はぁはぁ、そうだな」


 肩で息をしている風音は辛そうにしている。


「なぁ、やっぱり俺も戦った方がいいんじゃないか?」


 俺は風音に戦わないように言われたので戦闘には参加していない。


「まだ大丈夫だ。私と冬月の力でなんとかなる……」


 という風音だがやはりきつそうだ。


「そんな、わけ……ないでしょ……」


 俺達の会話を聞いていた楓が疲れたようでそう言った。


「そうか? 私はまだ余裕だがな……冬月家も大した事ないな」


 と風音は楓の家をバカにするようにそう言った。


「はぁ!? 何言ってるのよ! さっきのはなしよ! まだまだ余裕よ!」


 楓はその言葉を聞くと怒ったようにそう言った。


「めちゃくちゃ乗せやすいじゃん」


 俺がぼそっとそう呟くと楓はギリっと俺の方を睨みつけてきた。


「だいたいアンタが戦わないないからこんなに疲れてるのよ!」


 俺が怒られてしまった。


「まあまあ落ち着け。疲労が溜まっているのも事実だし一度休むとするか」


 風音は俺達の間に割り込んでそう言った。


「じゃああの部屋がいいんじゃないか」


 話をしながら歩いているとちょうどいいところに正方形の部屋があった。

 モンスターもいないし休むのなら最適な部屋だろう。


「そうだな。一度休むとしよう」


「ふん! 私はまだ余裕だけどね!」


 と言い合いながら俺達は部屋に向かう。


「あっ、靴紐……」


 ふと下を見ると右足の靴紐が解けていた為、結び直す。


「……今度から靴紐のない靴にしようかな」


 ダンジョンに入る時は専用の靴とか買った方がいいのかな? 俺がダンジョンにいた時は途中から裸足で移動していたからどんな靴がいいかわからん。


「風音に聞いてみるか」


 顔を上げて2人に追いつこうとした時先に部屋に入っていた2人の足場が消えた。


「ッ!?」


 2人が声にならない悲鳴をあげる。同時に俺は足に力を入れて2人の元へ跳ぶ。


「しまっ!」


 手前にいた風音の手を右手で掴む事には成功したが、少し離れた位置にいた楓の手をつかめなかった。


 落ちていく楓と目が合う。


「たすけっ………」


 そこから先は聞き取れなかったが楓の顔は恐怖に染まっていた。


 俺は風音の手を引き上げてお姫様抱っこしてから正面に迫り来る壁を蹴る。

 蹴りの勢いで俺と風音は俺がさっきまでいた場所まで戻る事ができたが楓は突然消えた穴に落ちたままだ。


「大丈夫か?」


「あ、あぁ。ありがとう、助かったよ」


 どうやら怪我はないようだよかった。


 俺は風音を降ろし振り返る。


「床が……」


 さっきまではなかったはずの床が元に戻っていた。


「……一層目でトラップ部屋があるなんて」


 風音は驚いている顔だ。


「トラップ部屋? そんなことより楓はどこに落ちたんだ!」


 トラップ部屋というのは分からないが今は楓だ。


「分からない……だがこの階層より下の階層なのは確かだ……」


 ……分からないって嘘だろ。


「そうだ! 俺がさっきの穴に落ちたら!」


 俺はすぐに部屋の中に入るが何も起こらない。


「一度発動したトラップは暫くは発生しない……」


 風音は苦虫を噛み潰したような顔をしながらそう言った。


「ならすぐにでも楓を探しにいかないと……」


 俺が楓を探す為に歩き出すと風音が俺の前に立ち通せんぼした。


「お前が本気を出したらダメだ」


 は? 風音は何を言っているんだ。


「今なら誰も見てないだろ! ふざけてる場合じゃないぞ! 楓を早く助けに行かないと!」


「……冬月を助けに行けばお前の秘密がバレるんだぞ。そうなればお前が今みたいに学校に通うこともできなくなるぞ」


「楓は黙っててくれるって! だから早く行かないと!」


 楓はちゃんと事情を話せば黙っててくれるはずだ。


「お前の認識は甘すぎる! 禁忌級をたった1人で攻略できる人間がいるなんて知られたらどうなる! 私利私欲のためにお前が利用される事になるんだぞ!」


 ……風音。


「風音は俺の秘密知ってるよな?」


「あ、あぁ、当たり前だろ?」


 俺の突然の質問に対して風音は困惑しながらも答えてくれた。


「でも俺の事利用したりしてないじゃん! だから楓も大丈夫だって!」


「……私が裏ではお前を利用してやろうと考えていると思ったことはないのか?」


「当たり前だろ? 友達を疑う奴がいるかよ!」


「……友達だから冬月の事も信じられるのか?」


「そうだ! だから早くいくぞ! ってか時間が惜しい!」


 俺は風音を脇で抱き抱えて走り出す。


「わっきゃ!? な、何をする!」


「早く楓を迎えに行かないと行けないからな! もう少しスピード出すから気をつけろよ!」


 俺はそう言ってからさらにスピードをあげる。


「……お前が少し羨ましいよ」


 風音は小さな声でそう呟いた。


 どういう意味だろう? 人を抱えて走れるのが羨ましいってことか?


 まあいいや。今は楓を助ける事に集中しよう。

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