第19話 いざ、ダンジョンへ!

「何か言いたいことはあるか?」


 俺は現在正座している。そしてそれを見下ろすようにして風音が立っている。


「……勉強会の件はごめんなさい」


 理由はどうあれ、俺は嘘をついて勉強会を抜け出した。俺は頭を下げる。この状況で頭を下げると土下座だ。


「その件については別にいい。元々仮病だと分かっていたからな。問題は私に黙ってダンジョンに入ろうとした事だ」


「それは風音を無駄に心配させたくなかったから……」


 俺がそういうと風音の視線が鋭くなるのを感じた。


「いいか天道。お前は世間知らずだ」


 ため息を吐いたと思ったらそんな事を言われた。


「今回ちひろさんが何を思ってお前にこの依頼をしたのかは知らないが、恐らく何か裏で考えているのだろう」


「そんな事はないっ! ちひろはいい奴だぞ!」


 俺は反論する。ちひろが裏で何か考えているわけないだろうと思ったからだ。

 多分今回の件だって困っていたから俺に相談してきたんだ。


「ならなんで私に相談するなと言ったんだ?」


「それは心配をかけたらいけないからって……」


 ちひろが言っていた事を思い出しながら風音に言う。


「確かにちひろさんが言った通り私が聞けば心配するかもしれないな」


「なら!」


「だけど他の考え方もできないか? 誰にも知られたくなかった。とか……

 これから先お前の事を知った者は様々な思惑を持ってお前に話しかけてくるだろう。今回みたいに誰かが心配するかもしれないと言われるかもしれない。だが迷わず話せ。私じゃなくてもいいお前が信頼できると思った人に話すんだ」


 俺の目線が合うようにしゃがみ込んだ風音はそう言った。


「本当に辛いのは心配もできない事だ。もしもお前の身に何かあったらどうする。……わ、私は友達として悲しいぞ。クラスのみんなもきっとそう思うだろう」


 楓と風香の方を見ると2人とも頷いていた。


「……分かった。今度からはちゃんと話す」


 ちひろがいい奴か悪い奴かは置いといて風音の言っている事は理解できた。


「うむ。ならいい。説教はこれで終わりだ」


 そう言って風音は立ち上がり刀を入れていた袋から刀を取り出した。


「なんで刀なんか……」


「私も一緒に行くからな」


 これは断わっても無理やりついて来そうだ。というか断ってまた怒られると思ったら怖くて断ることができない。


「分かった」


 俺は立ち上がりながら頷く。


「ちょっと待ちなさい! 2人でいい感じになっているけど私も行くからね」


 と弓を持った楓が俺達を引き留めてきた。


 ……そういえばそんな約束してたな。


「よし、じゃあサクッと解決するか!」


「ええ!」


「ああ!」


 俺達はダンジョンの入り口へ向けて歩き出したのだった。



「いいか、天道。もしもの事がない限り本気は出すなよ」


 あれから許可書を見せてダンジョンに入ってきたのだが、俺と風音はヒソヒソ話をしている。


「分かってるって……」


「なんの話をしているのかしら?」


 俺達の後ろにいた楓が会話の内容が気になったのかそんな事を質問してきた。


「あっ、えっと……そう! 風香! 風香はどうしたのかなーって」


 俺は咄嗟に言い訳を思い付いて聞いてみたのだが、横で風音が手で顔を隠して呆れているようだ。どうしてだろ?


「絶対そんな話してなかったでしょ……まあいいわ。風香は帰らせたわよ。ここは仮にも上級ダンジョンだしね。もしもの事があってはいけないわ」


 そうだったのか……上級ダンジョンくらい大した事ないと思うけどなぁ。


「そっかぁ……」


「ところで天道くん。貴方は武器を持っていないけど大丈夫なのかしら?」


 そういえば2人とも武器を持っているな。風音は刀で楓は弓だ。

 2人ともかっこいい武器を持っているから羨ましい。


「俺の武器は素手と……あっ!? 忘れてた!」


 そこまで言って俺はある忘れ物を思い出した。あのダンジョンにいた時はいつも持っていた物がないのだ。


「どうした? お前は武器を持たないんじゃなかったのか?」


 風音は不思議そうに聞いてくる。風音には前に武器なんて使った事ないって説明したからな。


「そうなんだけど……ハッ!」


 俺は風音の質問に返しつつダンジョンの壁を殴った。すると壁にヒビが入り小石が幾つか落ちた。


「何をしているの!?」


 楓は驚いているようだ。


「これがあったら遠距離の敵とも戦えるからな」


 俺は小石を手に取れるだけ取って握っておく。

 あそこでは鋭い小石をナイフがわりにも使っていたな。懐かしいな。


「そんな小石でどうにかなるわけないじゃない! アンタどんな生活してたのよ!」


 なんて楓が喚いていると声に釣られてきたのかゴツゴツした黒い体が特徴的なモンスターが現れた。


「あれはゴーレム! だが、黒色の個体など……異常個体か!? 構えろ!」


 風音の言葉を聞いて楓が弓をゴーレムへ向けて構えた。しかし矢を持たずにどうつもりだ? まあいいか。


「おっ、ちょうどいいや。よく見てろよ、っと!」


 俺は先程手に入れた小石をゴーレムの頭めがけて投げた。

 直撃したゴーレムの頭は砕けてしまった。

 そして頭が砕けた事によって機能が停止したのかその場に倒れ込んだ。


「………」


 2人は口を開けたままで言葉が出てない。


「ほらな?」


「そうはならないでしょうが!」


 俺の言葉に楓がいち早く反応してベシッとツッコミを入れてきた。


「……異常個体の調査をするぞ」


 風音は疲れた顔をした後にそう言った。


「そうね」


 そしてそれに続くように楓もゴーレムの方へ向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る