第18話 ミッション開始です!
パーティから数日が過ぎてちひろからメッセージが来た。
内容は攻略してほしいダンジョンの詳細と許可書の写真だった。
これを見せれば通れるようにしてあると書いていたので、とりあえずこれで潜入自体は問題なくできるようになっただろう。
問題は……
「どうした天道? 携帯ばかり見て手が止まっているぞ」
風音が数学の教科書を片手にそんなことを言ってきた。そう、問題はこの勉強会からどうやって逃げ出すかだ。
別に勉強会が終わってからでもいいけど上級ダンジョンに入ったことないし、どれくらいかかるか分からないから早めに行きたい。
勉強会から逃げ出したいとかそういうことじゃないぞ? 本当だぞ。
「うっ、いたたたたた!?」
俺はお腹を抑えて、痛がっている雰囲気を出す。
「……………」
すると勉強していた全員が俺の声にビクッとして俺を見る中、風音だけは俺を冷たい目で見下ろしてきた。
「いた、たた……たた………」
風音のあまりに冷たすぎる視線に俺はだんだん怖くなってしまい最終的にノートと向かいかうことになってしまった。
最近の風音は怖いのだ。ちょっと勉強から逃げようとしただけなのに勉強マシンになれるんじゃなかったのか? と言われてしまう。
「……つ、次は頭が痛くなってきたなぁ」
だが、今日ばかりは俺も諦めない! 早く体を動かしたい……じゃなくて困っている人がいるんだ! 早急にこの問題を解決しないといけないんだ!
「ほぅ?」
と言って風音は目の前で腕を組んでいる。完全に目が怒っている。
……これは今日の勉強会から逃げるのは無理そうだな。仕方ない、勉強会が終わってから行くか。
「まあまあ落ち着いてくださいサーイ! カケルは体調が良くないんデスよね?」
勉強会に参加していたシリダリーが俺達の会話に入ってきた。
「……お、おう! 頭がいたくてお腹も痛いんだよ!」
一瞬よく分からなかったがシリダリーがウィンクをしてくれた事によって理解した。
どうやらシリダリーは俺の援護をしてくれるようだ。
「私にはそいつが元気に見えるんだがな」
「oh! そうえば私わからないところがあるんでした! 教えてくだサーイ!」
そう言ってシリダリーは風音を無理やり自分の席へと連れていってくれた。
「お、おい……分かったから、あまり力を入れるな……」
そう言って引きずられていく風音に見つからないようになるべく気配を消して教室から出たのだった。
「よし、ここからは友達に見つからないようにしないとな」
誰にも言ってはいけないってちひろも言ってたし、気をつけていこう。
「……ここか」
しばらく敷地内を歩いて俺はようやく指定された上級ダンジョンへと辿り着いた。
入り口の近くには職員さんが立っている。あの人に許可書を見せればいいのか?
「天道くん、こんなところで何をしているのかしら?」
「わひゃ!?」
突然後ろから声をかけられてびっくりしてしまう。
後ろを見ると楓と風香がいた。
「……何をそんなに驚いてるんだ?」
風香が怪しいものを見る目で見てきた。
「い、いや! 散歩中に突然声をかけられたらビックリするだろ?」
「それにしてはかなり警戒しながら歩いていたわね? 何か隠し事でもあるのかしら?」
誰にもバレないように少し歩く度にキョロキョロしていたのが仇となったか。
「いや……ないよ……」
俺は2人から目を逸らしてそう言った。
「絶望的なまでに嘘が下手ね……風香、保護者に連絡しときなさい」
「分かりました」
風香はそう言って携帯を取り出して画面をぴこぴこと触り始めた。
保護者って誰だ? ……風音か!! ダメだ! 今、風音にバレるわけにはいけない!
「風音にいうのはダメだ! みんなにバレないようにしないといけないんだ!」
そこまで言って俺はハッとして口を抑える。
「へー、何をバレないようにしないといけないの?」
「…………」
俺は口を抑えて無言を貫く。
「……風香」
「はい」
まずいこのままじゃバレてしまう。仕方ない。
「分かった! 話すから! その代わり誰にも言わないでくれよ……」
俺は諦めて2人に事情を話す事にするのだった。
「いくらなんでも正気じゃないわ……」
楓は信じられないと言って驚いている。風香に関しては声も出ていないようだ。
「まあそういう事だから他の人に言わないでくれよ」
俺はそう言ってダンジョンに向かおうとするが楓から首根っこを掴まれた。
「ぐえっ!?」
「待ちなさい! 天道くん、分かっているの? 上級ダンジョンというのは、プロでもパーティで入らなければ危ない場所なのよ。それを1人で攻略するなんて正気じゃないわ!」
上級ダンジョンってそんなに難しいところなのか……でも俺、禁忌級を1人でクリアしてるんだよなぁ。
このことを言いたいけど、言ったら解剖ルートだよな。
「あー、俺1人でも余裕だよ? 一応ダンジョンから生還してきた訳ですし」
「はぁ!? このバカ! 風香! 今すぐ風音に電話して!」
と何故かめちゃくちゃ怒られた。
「勿論です!」
「ダメだ!」
俺は風香の持っている携帯を横取りする。
「は? え?」
携帯を取られた本人は驚いているようだ。
「はやっ……って、風香の携帯返しなさいよ!」
「ダメだ! これ返したら風音に連絡するだろ!」
「当たり前じゃない!」
「じゃあ絶対返さない」
俺は風香の携帯をポケットに入れて取られないようにする。
「……はぁ、分かったわ。風音には連絡しないわ」
楓としばらく睨み合う。少しすると楓が諦めたようにそう言った。
「本当の本当に?」
「本当よ」
俺の質問に頷いたので俺は信じて携帯を風香に渡した。
「約束だからな! じゃあ俺はいくけど、2人とも誰にも言わないでくれよ」
今度こそ本当にダンジョンに入ろうとするが、また首根っこを掴まれてしまう。
「ぐえっ!? またかよ!」
俺は楓に文句を言うが楓は素知らぬ顔をしている。
「私も連れて行きなさい。これが風音に連絡しない条件よ」
とんでもないことを言い出した。
連れて行きたくないけど、これOK出さないとチクられるよなぁ。
「……分かった」
「取引成立ね。風香、私の武器を持ってきてちょうだい」
と楓は風香の方を見て話しかけた。
「……分かりました」
風香は頷いて、走り出した。楓の武器を取りに行ったのだろう。
「……自分の武器くらい自分で取りに行けばいいじゃん」
「そうしたらアンタ勝手にダンジョンにはいるでしょ」
うっ! 何故バレた。
「そ、そんなことするわけないだろ」
「……本当に嘘が下手ね」
それから会話に少しの間ができる。よくよく考えてみれば楓と話すのなんてパーティの時以来だ。
楓の方を見るが楓から何かを話す気配はなさそうだ。
「じゃあとりあえずしりとりでもするか!」
待っている間暇だし、楓と遊ぶとするか!
「なんでそうなるのよ!」
楓の鋭いツッコミが俺の胸に刺さるのだった。
「クレープ」
「まだぷかよ! えーと、ぷ、ぷ、ぷ……」
結局あれから楓としりとりをしているのだが楓は意地悪だ。
ぷで終わる言葉ばかり使ってくるのだ。
「プリンがあるわよ?」
と言いながらクスクスと笑う楓。
「それ言ったら負けるだろ! えーっと、なんかないかなー……って風香がもど……って……き……た……」
言葉を考えていると、風香が帰ってきた。手には弓を持っている。そこまではいい。
ただその横には見覚えのある女の子がいるのだ。しかし俺が知っている女の子の顔とは違う。普段からぷりぷりしているが、あそこまで怒っている顔は見たことがない。
例えるならあれは般若だ。
「ようやくきたようね」
楓は風音が来るのを知っていたかのようにそう言った。
「な、なんで、言わないって約束したじゃん……」
こんなの約束と違うじゃないか!
「? アンタとの約束は連絡しないだったはずよ。だから連絡はしてないでしょ? 直接会って連れてきて貰ったのよ」
卑怯者め! と俺は心の中でそう言いながら後ろに後ずさる。
「天道ッ! そこに直れッ!」
風音の怒号が鳴り響く。
「ハイッ!」
俺は背筋を伸ばして気をつけをするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます