第17話 いろいろ話しました

「うーん。どれも美味そうだなぁ」


 肉料理が置かれてる場所までやってきた俺だが、あまりの品の多さにどれから食べるか悩んでいた。


「とりあえず載せれる分だけ載せるか」


 俺は1番でかい皿を取って唐揚げ、トンカツ、角煮、ステーキなどなどの沢山の肉を山積みにして空いている席に座った。


「いっただきまーす!」


 手を合わせて唐揚げを頬張った。

 カラッと揚げられていて、ほのかにニンニクの香りもして食欲をそそる。


「この唐揚げ……唐揚げで唐揚げが食えるな……」


 これが三つ星か……恐ろしいな。永遠に食えてしまうぞ。


「アンタ、マナー悪いわね。まっ、今までダンジョンにいたんだし仕方ないか」


 俺がステーキを食べ始めようとしたら声をかけられた声をかけてきたのは楓だ。

 そのまま楓は俺の向かいに座るが楓は料理をとってきてないようだ。


 俺は左手でご飯を守りながら楓を睨んだ。


「なにやってんのよ。……!? 私が人のご飯を食べるように見えるの!?」


 最初は困惑していた楓だが、俺の意図に気付いたのか楓は怒鳴った。


「念のためだ……で、何しにきたんだ?」


 楓が1人で俺に話しかけにきたって事は何かようでもあるんだろう。


「……別に。本当に5年間もダンジョンにいたの?」


 別にって言った割に質問があるんじゃないか。と心の中でツッコミを入れる。


「まあなー」


 そう言って俺はステーキを食べた。


 うん。肉が柔らかくて美味しい。


「怖くなかったの?」


 楓は小さな声でそう聞いてきた。


 どうやら真面目に答えた方が良さそうだ。俺は箸を置いて料理を一度横にずらして楓を見た。


「怖かったよ。最初は特に怖かったな。見たこともない生き物ばっかりだったし、ちょっとでも気を抜けば俺がアイツらの餌になってたしな」


 それこそ何回も死にかけた。最初の頃生き抜けたのは奇跡だと今でも思っている。


「そ、そうよね。当たり前のことを聞いたわね。ごめんなさい」


 と何故か謝ってきた。


「でもさ時間が経つにつれて怖よりも寂しいの方が勝ってきたんだよ。お母さんやお父さん、お姉ちゃんに友達に会えなくてさ。なんで俺がこんな目にとかも思ったりしたっけ……」


 俺は楓の謝罪を無視して言葉を続けた。


「………」


 楓は黙って俺の話を聞いている。


「時々夢で神様にお前は地獄行きだ。って言われて目が覚めたりもしてさ。あん時は大変だったなぁ」


 寝たいのに悪夢で全然眠れなかったりしたっけ。


「でもさ時間が経ってくると今度はその夢の中に神様にムカついてきてさ、意地でもみんなと会ってやる! ってなってきたんだよなぁ。そっからは怖いとか寂しいって感情よりも絶対生き残ってやるって考えるようになったんだよなぁ」


 そういえばこんな話、誰にもしたことなかったな。


「……そう。言い辛いことを教えてくれてありがとう」


 そう言って風音は席を立ち上がった。


 別に言い辛いことじゃないんだけどな。と内心で思う。


「……お礼に1つ教えてあげるわ。天道くんはちひろさんには近づかない方がいいわ。あの人、性格悪いから」


 そう言って手をひらひらと振りながら楓はどこかへ歩いて行った。

 

 ……ちひろの性格が悪い? いい奴だと思うけどなー。そう思いながら俺は肉料理を食べるのだった。



 肉料理を制覇して魚料理に手を出し始めた頃にちひろが席へやってきた。

 ちひろの手にはバランスよく料理を乗せた皿があった。


「一緒に食べてもいいかしら?」


 とちひろは微笑みながら聞いてきた。


「おう、いいぞ」


 俺が頷くとちひろは正面の席に座り向かい合う形なった。


「それにしても翔はご飯をいっぱい食べるのね」


 俺が寿司を食べているとちひろがそんな事を言ってきた。


「まーな、俺ってばダンジョン育ちだからな! 食える時に食う! これがダンジョンで生きるための鉄則よ」


 階層によっては食べれないような生き物しかいない場合もあるからな。

 

「ふふっ、そうなの。なら今日は沢山食べて帰ってね」


「最初からそのつもりだ!」


「あっ、ちょっと動かないで……はい、とれた」


 俺が寿司の続きを食べていると、突然そんなことを言ったちひろは俺のほっぺに手を伸ばしほっぺにくっついていたであろう米粒を取ってくれた。


「あっ、ありがとう」


 俺は恥ずかしくなってちひろから目を逸らしながらお礼を言う。


「気にしないで。……それより翔にお願いがあるんだけどいいかしら?」


 目を逸らしていると突然ちひろが俺の手を両手で包み込んでそんな事を言ってきた。


 風音の手よりも小さくて柔らかい感触だ。


「お、お願い?」


 チラッとちひろの方に視線を戻すと目が合ってしまってそれが恥ずかしくてまた目を逸らしてしまう。


「そう、翔だけにしか頼めないお願いなの」


「お、俺だけ? と、とりあえず話は聞くから……その手を……」


 手を握られると無性に恥ずかしい。そのせいかちひろの方をうまく見れない。


「ご、ごめんなさい! つい夢中になっちゃって」


 ちひろは顔を赤らめて手を離した。


「だ、大丈夫だ。……それでお願いってなんだ?」


 俺は一度落ち着いてからちひろに質問した。


「実は私、生徒会長をしているんだけど最近敷地内にある上級ダンジョンの様子がおかしいの……」


 生徒会長しているのか……響きがかっこいいな。っていかん。そんな話じゃなかったな。


「様子がおかしいってどういうことだ?」


「異常個体が何体も出現しているの……」

 

 異常個体ってのは確か、普通のモンスターの色違い。亜種だったはずだ。

 確か異常個体ってのは稀なんだっけ。


「異常個体がいっぱいいたら何か問題でもあるのか?」


 俺も多分あのダンジョンで異常個体に出会ったことあるけど、俺が戦った感じ普通のモンスターとあまり変わりはなかった気がするけど。

 

「……異常個体は凶暴だから危険なのよ。このままじゃ授業でも使えないし、生徒の怪我報告も何件か出ているわ。このままじゃ死者も出るかもしれないの……だからお願い、貴方の力を貸して!」

 

 そこまで深刻だったとは思ってもいなかった。


「力を貸すのは別にいいけど……上級ダンジョンって確かプロのライセンスかプロの許可がいるんじゃなかったっけ?」


 確か上級以上のダンジョンはプロの力が必要なはずだ。

 困っている人がいるなら助けてあげたいけど流石に勝手にダンジョンに侵入するってのはなぁ。


「それなら安心して、許可書は私の方で準備しておくわ。本当なら翔にこんなことを頼むべきではないのは分かっているのだけど、今はプロがどこも忙しくて頼める状況じゃないの」


「ん? プロって今忙しいの?」


 なんかイベントでもあるのかな?


「……翔がダンジョンを登ってきたからね。もしかしたらまだ生き残っている人がいるんじゃないかって事で、災害で行方不明になっている人の家族やボランティアの人達がプロへ捜索の依頼しているの」


 ……直接じゃないとはいえ、この敷地の調査ができてないのは俺のせいじゃないか。

 

「そっか……とりあえず分かった! 今回の件は俺に任せなさーい!」


 プロが調査できてないのは俺のせいな気もするし、死人が出るかもと言われたら断るわけにはいかないと思い俺は了承した。


「本当!? ありがとう! 詳しいことはまた後で連絡するから連絡先教えてくれない?」


「おう! ただ操作が分からないからやってくれ」


 このスマホ買ってもらったはいいけど色々と難しんだよなぁ。

 元々スマホなんて持ってなかったら操作するのもゆっくりじゃないとできない。


「うん。ちょっと貸してね」


 スマホを俺から受け取ったちひろは慣れた手つきで操作をし始めて終わったよと言って俺にスマホを返してくれた。


「あっ、そうだ。最後に一つお願いがあるんだけど、今回のこと他の人には言わないで欲しいの」


 席を立とうとしたちひろが思い出したかのようにそんなことを言った。


「えっ? 別にいいけどなんでだ?」


「今回の事、風音が知ったら心配すると思うから」


 と言われて確かにと思った。まあ別に上級ダンジョンだし、伝える必要もないか。

 変に心配させない方がいいだろう。


「分かった」


「ありがとう! また詳しいことは連絡するからそれまでお願いね」


 と言ってちひろは席を離れていった。


「……何を話していたんだ?」


「うわっ!?」


 突然風音が横から話しかけてきたせいで俺は驚いてしまった。


「変な事吹き込まれていないだろうな?」


 と風音が目を細くして言ってきた。


「ははっ、まさかそんなわけないだろ? 吹き込むとかするわけないだろ? ちひろはいいやつだぞ?」


 俺はそう言って逃げるように立ち上がった。するとさらに風音の目が細くなる。


「……どこへいくんだ?」


「ほら、料理なくなったから取りに行くんだよ!」


 俺は綺麗になった皿を見せつけて料理が並んでいる方へと急ぐのだった。


 それから俺が風音の追求から逃げるために料理を食べすぎて厨房にいたコックが倒れたのは別の話だ。

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