第16話 パーティに参加しました

 その日の放課後、勉強会も終わり俺と風音は学校からの帰り道を歩いていた。


「なあ、風音パーティ行かないのか?」


 俺がそう聞くと風音は露骨に嫌そうな顔をした。


「行かん。私はああ言う集まりは苦手なんだ」


 どうやらとりつく島もなさそうだ。


 でも、俺はどうしてもそのパーティに参加したい。


 あの後、果穂から聞いたのだがそのパーティでは三つ星レストランのシェフが料理を振る舞う可能性があるそうだ。


 果穂は何回か三つ星レストランでご飯を食べたことあるしらしいが言葉では言い表せないくらい美味しかったらしい。


「……あっ、あんな所に今日の会場があるぅー。ここから近いし寄ってかない?」


 俺は遠くの方に見えてきた財閥の子供専用の寮を指でさしてそう言った。

 すると風音は俺の方をぎろりと睨みつけてきた。


「……何故そんなに行きたがる?」


「えっ、えーと。理由は特にないんだけどさー」


 三つ星レストランに行ったことないから参加したいって言うのはなんとなく恥ずかしい理由なような気がすると思い、はぐらかすが風音は俺を睨みつけたままだ。


「……あー、実は」


 俺は風音の睨みに耐えきれなくなって正直に理由を話した。


「はぁ、桜井のやつ余計なことを教えやがって……確かに三つ星レストランのシェフは来る。だが、今回のパーティは食事が目的じゃないんだぞ?」


 と呆れたように風音は言った。


「えっ、歓迎会なんじゃないの?」


「名目上はな。だがその実情は腹の探り合いや権力の誇示……お前に言っても分からないと思うが色々と面倒なんだ」


 風音はそう説明してくれた。

 ……そうは言われても三つ星のご飯を食べてみたいものは食べてみたいのだ。


「……最近俺めちゃくちゃ勉強頑張ってるよなー」

 

 こうなればご褒美大作戦だ。ご褒美として風音にパーティへ連れて行ってもらう。


「昨日逃げ出したがな」


 と風音に冷ややかな視線で言われた。


「うっ」


 よりにもよってなんで昨日に勉強会から逃げたんだ! 俺の馬鹿!


「今日パーティに出席できたら明日から勉強頑張れちゃうかもなー」


 俺はそう言ってチラッ、チラッと風音の方を見た。


「……そんなに参加したいのか?」


 おっ、風音が折れてくれそうだ。もうひと押しだな。


「おう! 今日参加できたら明日からは勉強マシンになれるような気がする!」


 俺がそう言うと風音がにぃっと笑った。


「そうか、勉強マシンか。なら明日からは宿題も出すことになるがそれでもいいのか?」


「えっ!?」


 宿題、だと。


「勉強マシンなんだろ? それぐらい簡単だろ?」


 普段の勉強会に加えて、宿題なんてやっていたら俺の自由時間がなくなってしまう……


 でも、この機会を逃したら俺は三つ星を食べれないかもしれない。


「も、勿論だろ。宿題なんて楽勝だぜ」


 俺は震えながら声を出した。


 俺はそれくらい三つ星を食べてみたいのだ。


「……はぁ、そこまで本気なら歓迎会に参加しよう」


 と風音は言ってくれた。


「本当か!?」


「ああ、ただし宿題はやってもらうぞ」


「おう! じゃあ早速いこうぜ!」


 何が食えるのか楽しみだ。


「開催は7時からか……今からでは時間が足りんな」


 風音は手紙を取り出してそう呟いた。俺も時計を見るが時間は6時50分だ。

 ここからなら間に合うだろうになんの話だ?


「なんかあるのか?」


 俺が風音に質問すると風音は首を横に振った。


「いやなんでもない。遅れるといけない。急ぐとしよう」


 そう言って風音は歩き出したので俺も後をついていくのだった。




「お待ちしておりました風音様。招待状を見せてもらっても構いませんか?」


 寮に着くとメイド服をきた女性が入り口の前に立っていた。


「ああ」


 そう言って風音はメイドさんに招待状を渡した。


「ありがとうございます」


 メイドさんは扉の横へ立ちどうぞと言って頭を下げた。


「はー、外から見ても凄かったけど中も豪華だなー」


 俺は風音の後ろをついて行きながら部屋の様子を見渡す。

 俺が住んでいる寮とは違い置いているもの全てが高そうだ。

 それにメイドさんや執事さん何人かが料理を運んだりと何かしらの仕事をしている。


「……あまりキョロキョロするな。馬鹿にされるぞ」


 と風音に言われて俺は周りを見るのをやめた。


「うぉぉぉ! 料理がいっぱいだぁ」


 少し歩くとすごいでかい部屋に辿り着いた。


 その部屋には肉料理や魚料理、サラダにスイーツなど様々な料理が机に置かれていた。


 部屋の中心にはドレスやスーツを着た男女が輪になって話をしていた。

 その中には楓や風香の姿もあった。


「なあなあ! これ全部食べていいのか?」


 どれから食べようかな。まずはやっぱり肉からか?


「流石のお前でも全部は食べられないだろう……」


「ふっふっふっ、ダンジョン育ちの胃袋舐めんなよ?」


 今まで俺は食べる量を制限していた。理由は簡単だ。実家にいた時に俺が食べ過ぎて、食費が……とお母さんが困っていたからだ。

 それ以来セーブしていたがここにあるものはタダ! しかも三つ星! 食える時に食っとかないとな。


「その前に挨拶だ。ちひろさんに招待してくれたお礼を言わないとな」


「確かに……」


 これだけの食べ物を用意してくれた人に挨拶もなしじゃ失礼だよな。


 俺は風音の後ろをついていくのだった。


「貴方達パーティに制服ってどういうつもり?」


 ちひろさんに挨拶するため集まっていた男女の方に近づくと黒いドレスを着た楓から声をかけてきた。

 制服だと何がいけないんだ?


「時間がなかったのでな」


 と風音は返した。あの時言ってた時間がないって言うのは服を着替える時間がないって事だったのか。


「時間がない? どういうことよ」


「俺が急に行きたいって風音に頼んだからな」


 俺のせいで風音が責められる訳にもいがないと思い俺は楓に言った。


「アンタが?」


「おう。三つ星レストランのシェフが作った料理が食えるって聞いたからな」


 と不思議そうな顔をしていたので俺はここに来たかった訳を説明するのだった。


「そ、そんな理由でこのパーティに……」


 楓の少し後ろにいた風香はドン引きしたような顔をした。


「ふ、ふざけるんじゃないわよ!」


 と楓は怒り始めた。俺の横では風音がため息を吐いていた。


「まあまあ落ち着いて、楓。……風音今日は来てくれてありがとう」


 と白いドレスを着たおっぱいのでかい、メガネをかけた垂れ目気味の美少女が声をかけてきた。

 

「ちひろさん。今日は招待いただきありがとうございます」


 と言って風音は頭を下げた。


 この人がちひろさんか。


「今日は貴方達の入学祝いだから存分に楽しんでね」


 と柔らかな笑顔で言った後に俺の方を見てきた。


「……天道さんで間違いありませんか?」


 なんで俺の名前知っているんだと思いつつ俺は頷いた。


「この学園に来て困ったことはありませんか?」


 と突然そんなことを聞かれた。


「困ったことはないですよ」


 俺が答えるとちひろさんは笑顔になった。


「なら良かったです。ダンジョンに5年もの間閉じ込められていた……と聞いたものですから私、心配で……」


 さらっとそう言うちひろさんだがなんでそのことを知っているんだ?

 俺が戸惑っていると周りも何を言っているんだという表情をしている。


「あら、皆さん知らなかったんですか。彼がニュースで流れていた上級ダンジョンから生還した悲劇の少年天道翔さんですよ」


 と俺の秘密をバラされてしまった。どういうつもりだろう?


 するとその場にいた全員が驚いている。


「ちひろさん……」


 風音はちひろさんを睨みつけた。


「そんな目をしないで風音。ここにいるのはみんな力を持った者だけよ。彼の事を知っていればきっと力を貸してくれるはずよ」


 そういう理由だったのか、ちひろさんっていい人だな。


 しかし風音はちひろさんを睨みつけたままだ。

 だがちひろさんは意にも返していないのか笑顔のままだ。


「私の名前は蓮宮ちひろです。天道さん。私達は同い年です。私には敬語もいりませんので何かあったら気軽に話しかけてくださいね」


 な、なんていい奴なんだ。


「分かった! ありがとな、ちひろ! それと俺にも敬語はいらないからな!」


 と言って笑顔で右手を出すとちひろは何故か困った顔をした。


「えっ……」


 何を困ってるんだ? あー、そういうことか。


「握手だよ、握手! よろしくの握手!」


「あ、あー、そういうこと。よ、よろしくね天道さん」


 と言って俺の右手を握り返してきた。


「おう! 別に天道さんじゃなくて翔でいいぞ! 俺たち同い年だしな!」


「そ、そう? じゃあよろしく翔」


「でさぁ! 早速で悪いんだけど、俺腹減っちゃってさ……ご飯食べてもいい?」


「え、ええ。いいわよ」


 これからはちひろに足を向けて寝れないな。


「ありがとな!」


 俺は早速肉が置かれている場所へ移動するのだった。


 

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