第15話 冬月・リリ・楓

「と言うわけでこれを代入すると……」


 とある日の授業中、俺は紙飛行機を折って前の席の果穂の机に乗るように投げた。


 紙飛行機はふわふわと飛んでいき果穂の机の上に乗った。

 果穂は紙飛行機を確認したかと思うと何かを書いて俺の机の上に紙を投げてきた。


 因みに俺が書いた内容は、昨日見たアニメの内容についてだ。

 果穂はアニメが好きみたいで、暇な時はよくこうやってアニメの話をしている。


 俺は紙を開けて中身を確認した。


 昨日風音さんから聞きましたが勉強会を脱走したって本当ですか?


 と可愛らしい丸文字で書かれていた。


 ……嫌な事を思い出してしまった。


 俺のテストが0点だったとバラされた日から、風音が勉強会を開くと言って参加したい人は自由に参加できるようになっているのだ。

 因みに俺は強制参加だ。


 俺も自分が勉強できてない事は知っているから毎日勉強会に参加していたんだが、昨日嫌になって逃げた。

 だから昨日の放課後から風音とは話してもいない。


 俺が言い訳を紙に書いているとさらにもう一枚紙が送られてきた。


 かなり怒っているみたいなので、真面目に勉強した方がいいと思いますよ。


 ともう一枚の紙に書かれていた。


 ふと風音の方を見るとすごい形相でこちらを睨んでいる。


「………」


 俺は果穂の助言に従い黒板の内容をとりあえずノートに書き写すのだった。


「はい、じゃあ今日の授業はここまで」


 チャイムがなる先生はそう言って教室を出て行った。


「早く逃げないと……」


「ほう、何から逃げるのだ?」


 俺が教室から出るために立ち上がろうとした時突然声をかけられた。


「げっ!? 風音……」


 声のした方を見ると眉をひくひくと動かし私怒ってますと言わんばかりのオーラを纏っている風音がいた。


「人の顔を見てげっ!? とは随分失礼じゃないか。それで何か言う事はあるか?」


「はっ、はは……ごめんなさい」


 俺は腰を90度に曲げて風音に謝った。ここで謝らないと風音に殺されそうだ。

 まあ実力的には絶対にそれはないだろうが、オーラが怖い。


「はぁ、まあいい。確かに私もお前の休みのことを考えていなかったからな」


 と大きなため息を吐いて許してくれた。


「ちょっといいかしら?」


 俺が一安心していると突然声をかけられた。声をかけた方を見ると初日に先生に質問していた銀髪美少女の姿があった。

 風音の方を見ると明らかに嫌そうな表情を浮かべていた。


「……風音の知り合い?」


 俺がそう聞くと周りの雰囲気が凍ったような気がした。


「わ、私の事を知らないの?」


 銀髪美少女は困惑しているようだ。


 そこで俺は自分の不甲斐なさに気づいた。同じクラスなのに名前も覚えていないなんて、俺は最低だ。


「ごめんなさい! 言い訳じゃないけど俺達話した事ないだろ? だから名前覚えてなかったんだ」


 もう既にこのクラスで2週間以上の時間を一緒に過ごしているのに俺は最低だ。


「楓様に向けてその口の聞き方はなんですか!」


 と近くにいた女子生徒に怒られてしまった。楓、様? なんで同い年に様?


「……風香、下がりなさい」


「ですが!」


 風香と言われた女子生徒は文句を言うが楓と呼ばれた生徒に睨まれるとすぐに下がった。


「……改めて自己紹介させてもらうわね。私の名前は冬月・リリ・楓よ。よろしくね、天道くん」


 とどこか見下したような笑みで俺を楓は見てきた。


「……冬月……リリ……楓」


 俺は驚きのあまり名前を復唱してしまった。


「馬鹿なあなたでも気づいたかしら! 私は財閥冬月家の次期総帥にして現総帥! 冬月貴大の娘よ!」


 と言ってそんなにない胸を張って笑い始めた。


「そんな事どうでもいい!」


「え!?」


 俺がそう言うと楓はびっくりした表情になった。周りの生徒も驚いた表情になっている。


 俺にとっては財閥だろうが、なんだろうが関係ない。


「なんで名前が3つもあるんだよ!」


 冬月リリ楓ってなんで名前が3つもあるんだ!


「……は、はい?」


「どうやったら名前3つにできるんだ! めちゃくちゃかっこいいじゃんか! 俺も天道ジャスティス翔とかってかっこいい名前がよかったな」


 俺はどうやったら名前を3つにできるのか教えてもらうためにジリジリと楓に近づく。


「……ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 と俺が近づくと楓は後ずさる。さらに近づこうとしたその時……


「やめんか! 馬鹿者!」


 と後ろから風音に殴られた。


「冬月、何の用だ? 私に用事があったのだろう?」

 

 と言って俺を後ろに引っ張り風音は代わりに前へ出た。


「え、ええ。貴方今日のパーティには来る予定なのかしら?」


 と言って楓は風音に向けて質問し始めた。


「……いや。参加するつもりはない」


 なんのことか分からないがどうやら風音はパーティのお誘いを断るらしい。

 そこで気づいたのだが、クラスの全員が風音と楓の方を見ていた。


「なぁ、なんでみんな風音達のこと見てんだ?」


 俺は気になったので近くの席にいたかほに聞いてみた。


「えっ!? 知らないんですか!? このクラスは現在楓様と風音さんを代表にした派閥が出来てるんですよ」


「は、はば?」


 なんだそんな言葉知らんぞ。


「派閥というのは簡単に言うとグループです。勉強会に参加している人達は風音さんの派閥の人間です」


 へー。そんなことになっていたのか。クラス全員で仲良くすればいいのに。


「それとみんなが見るのなんか関係があるのか?」


「ありますよ! 派閥のリーダー同士が話すんですみんな気にしますよ!」


 へー。そんなものなのか。


「まあいいわ。ちひろさんに貴方にも渡しておけって言われてから渡しておくわね」


 と言って楓は風音に手紙のような物を渡していた。


「これは?」


「招待状よ。1人までなら従者として連れて行くこともできるからもしも来るなら彼でも誘えば」


 と言って楓は俺の方を見てきた。俺を誘えと言うことだろうか?


「なあ風音。それってどういうパーティなんだ?」


 俺は気になって風音に質問してみた。


「……財閥の総帥を親に持つ子供達だけが参加できる歓迎会だ」


 風音がそう言うと周りがガヤガヤし始めた。招待されてみたいとか行ってみたいとかみんな同じような事を言っている。


「そういうことよ。いわば選ばれし者だけが参加できるパーティって事、分かる?」


 それを聞いていた楓ドヤ顔で俺に言ってきた。


「んー。分かったけど、財閥ってケチだよな」


「……は?」


 俺が思ったことを言うと楓は口をポカンと開けた。


「いや、だってさみんな参加できるようにしてあげたらいいじゃん。この話聞いてるみんな参加したいって言ってるぞ?」


 俺達の話を聞いていたクラスのみんな行ってみたいと言っているのに限られた人しか招待しないとはもしかして財閥は金がないのだろうか。


「それじゃあ意味ないじゃない! これは日本の将来を背負う私達の歓迎をするパーティなのよ!」


「それだったら変に1人も招待せずに財閥の子供だけでやればいいのになー」


 俺がそう言うと風音はくすりと笑い楓は顔を赤くした。


「わ、私だって知らないわよ! ちひろさんに言われただけなんだから! 私の事をコケにして! 次にあったら覚悟しなさい! 天道翔!」


 楓のやつは次の授業もこの教室になのにそんな事を言って教室を飛び出してしまった。



 その後教室に帰ってきた楓と目が合ってしまい、楓の顔が茹でたこのようになっていたのは別の話だ。

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