第13話 仲直り

「ここってダンジョン?」


 風音をつけていると何故かダンジョンの入り口のようなところに来てしまった。


「中級NO158? ここのダンジョン名か?」


 入り口の横にあった看板を読むとそんなことが書いていた。


「やべっ、追いかけないと見失っちまう!」


 俺は風音の姿が見えなくなっていることに気がついて急いで進むのだった。



「ハッ!」


 風音は戦闘しているようだ。敵は人型のオオカミのようだ。


「ガァ!?」


 風音の一閃によりオオカミ人間は右手を無くした。


「フッ! ヤァ!」


 そしてオオカミ人間が腕に気を取られている隙をつき上半身に蓮撃を浴びせて風音はオオカミ人間に勝利した。


「へー、なかなかいい動きだなー」


 今の戦闘を見て思ったが昼間の時よりもキレがある。


 昼間は手を抜いていたのか?


「っ!? 誰だっ!?」


 そんな事を考えながら風音を見ていると当然こちらに刀を向けて叫んできた。


 あっ、声が出ていたようだ。……どうしよう。昼の事もあるし出ていき辛いな。


「……居るのはわかっているんだ。早く出てこい」


 俺が沈黙を貫いているとそんな事を言われてしまった。


 仕方ない。出るか。


「あー、ごめん。風音が見えたから何してんのかなーって思って……」


 俺は謝りながら風音の前に姿を見せた。


「天道!? お前、だったのか……」


 そう言って見るからに元気を無くす風音。


「……天道。今の戦闘は見ていたか?」


 お互い無言でいると風音がそんな事を尋ねてきた。


「あ、あぁ」


 俺は頷く。


「どう思った? 私は強かったか? 弱かったか?」


「いい動きしてたと思うよ。昼間動きを見た時とは段違いだ」


 俺は素直に思っていた事を聞いた。


「私はそんな事聞いていない。もう一度聞くぞ? 強かったか? 弱かったか?」


 なんで急にそんな質問を? と思うが強いか弱いか言わないと終われる雰囲気ではなさそうだ。


「あー、強いと思うよ。うん。さっきのオオカミ人間も簡単に倒してたじゃん」


「そうか………ハァッ!」


 下を向いたと思ったら風音が突然襲いかかってきた。


「は? えっ?」


 俺は困惑しながらも風音の刀を避ける。勿論風音に反撃しないようにだ。


「はぁはぁはぁ。……これだけやってもお前に攻撃を掠らせることすらできない私が本当に強いと思うか?」


 肩で息をしながら風音はそんな事を聞いてきた、風音の目はどこか思いつめているかのような目をしていた。

 嘘はつかない方が良さそうだ。


「はぁ、本当の事を言うぞ、弱い。めちゃくちゃ弱い。俺がいたあのダンジョンの敵どれよりも弱い」


 いい動きはしてると思うし、攻撃のキレもあるけどあの洞窟の奴らと比べたら大したことはないだろう。


「ははっ、そうだろ? 私なんかがリーダーをやるべきじゃなかったんだ」


 俺がそういうと風音は刀を捨てて弱々しく座り込んでしまった。


「私なんかがリーダーをしなければ、お前が力を使う事も無かった。みんながお前を恐れる事もなかったんだ。すまない、私のせいだ」

 

 ……えっ!? 俺みんなから怖がられてたの!?

 だから全員様子がおかしかったのか。トイレに行きたかったってわけじゃなかったのか……


 っていかんショックを受けている場合ではない今は風音だ。


「気にすんなって。……俺も風音との約束破ったんだしお互い様にしようぜ」


 とりあえず風音を立ち上がらせようと手を差し出すが風音は答えてくれない。


「……私を責めないんだな」


 風音はただ下を向いている。


「責めるわけないだろ? 確かにあの時はイラッとしたけど、よくよく考えればあれは哲也が悪い!」


 元々哲也が暴走していなければこんな事にはならなかったはずなのだ。


「だが止められなかった私のせいでもある。……それにそれだけじゃないんだ。私はお父様が守った秘密をバラしたんだ」


「浩二さんが守った秘密?」


「あぁ、お前が禁忌級から出てきたと言う事だ。あの力を見ればお前が上級ダンジョンより上の位のダンジョンから生き延びたと言うのはすぐに分かるだろう」


 それはそうかもしれないけど俺の事情を知っている人はあの場にはいなかったはずだ。


「ニュースで俺の名前は流れてなかったぞ?」


「……お父様がこの学校の先生にはお前の事情を話しているはずだ」


「ん? 別に先生には見られてなかっただろ? あそこにいたのはBチームだけだ」


 何を言っているんだ風音は?


「試験だぞ……どこかで先生が私達の様子を見ているに決まっているだろ」


 ……そこまで考えてなかった。つまり俺の本気のパンチを見られてたってことか!?

 解剖コースって事か!?


「……本当にすまなかった。私が弱かったせいでお前と家族の方に危険が及ぶかもしれない」


 そんな事を考えていると風音は土下座をし始めた。


「………」


 俺は頭の処理が追いつかなくて言葉が出ない。


「お前の気が済むまで私を殴るなり蹴るなり好きにしてくれ」


 そう言って風音は頭を下げたままだ。

 よく見ると風音は震えている。と言うよりも泣いているようだ。

 多分これは自分が殴られる事の恐怖よりも自分を責めているのだろう。

 短い付き合いだけど風音は根っからの真面目だ。こうなったのも全部自分せいだと本気で思っているのだろう。


「………ふぅぅぅ」


 俺は両手に力を入れる。


 風音はそのままの姿勢で自分が攻撃されるのを待っているようだ。


「いってぇぇぇぇ!!!!」


 パァンと言う音が響くと共に俺の両頬に激痛が走る。


 俺は自分の頬を引っ叩いたのだ。


「な、なにを!?」


 風音はびっくりしたのか顔を上げてこちらを見ている。


 俺はそのまま風音に近づいて両頬をむぎゅっと潰す。


「にゃ、にゃにを……」


 風音が変な顔で思わず笑いそうになってしまうが我慢だ。


「ふぅぅぅ」


 俺は先程力を入れたのと同じだけ力を入れる。


「イッ!?!?!?」


 そして風音の頬を引っ叩いた。風音はあまりの痛さで声が出ないのかその場で少しうずくまっている。


「にゃ、にゃんのちゅもりだ!」


 と風音が起き上がって叫ぶが、頬が腫れてうまく喋れないようだ。


「プハハハハ! 変な顔!」


 俺はその顔を見て笑ってしまう。普段は美人な風音の頬がパンパンに膨れ上がっていたからだ。


「そういうお前だって、プッ!」


 と風音は俺の顔を指さして吹き出した。手で触って見ると腫れているみたいだった。


「はははははっ!」


 俺達はお互いの顔を見て笑い合う。


「はぁはぁはぁ、これで終わりな?」


 俺は笑い終わってから風音にそう言った。


「はぁはぁはぁ、なにをだ?」


「俺の力がバレたとかそんな話。今回は俺も風音も悪いところがあった! だから同じ痛みを受けた! それで終わり! いいな?」


 俺がそう言うと風音は顔を逸らした。


「だが……」


「だがも何もない! もしも何か言われたらそん時考えたらいい! だからほら」


 そう言って俺は右手を差し出した。


「なんだこれは……?」


「仲直りの握手だよ! 学校で友達と喧嘩した時はいつも先生にやらされただろ?」


 昔を思い出しながら俺はそう言った。


「……仲直りの握手なんて小学生しかしないぞ」


 と言われて少し恥ずかしくなったが俺は無理やり風音の手を握った。


「いいんだよ! ほら仲直り!」


「その、今回は本当にすまなかった」


 と風音はもう一度謝ってきた。気にし過ぎだ。


「ほら、さっさと出て帰るぞ」


「ああ、おいっ!」


 俺は風音の手を無理やり引っ張ってダンジョンの外へ向かうのだった。


「………」


「………」


 俺たちは並んで外を歩く。


 心配はないと思うけど、風音を女子寮まで届けようと思ったからだ。


「その……」


 と風音がモジモジしながら話しかけてきた。


「なんだ?」


「……いつまで掴んでいるつもりなんだ?」


 と風音に言われて自分の手を見ると風音の手を掴んだままだったのだ。


「あっ!? ご、ごめん!」


 俺は右手を急いでしまって謝る。


「いや、別に構わない……」


 風音は顔を赤くさせながら初めて見るような表情でそう言った。


 それを見た瞬間自分の鼓動が速くなるのを感じた。そして何故だか無性に恥ずかしくなってきた。


「ん? どうした?」


「あっ、やっ! あっ! 急に眠くなって来たから帰るわ! じゃーね!」


 と言って俺は風音に手を振りその場から逃げるように立ち去るのだった。


「………今のなんだったんだ」


 心臓を手で抑えると異常なまでにドクドクしている。

 あの時感じたのはなんなんだ? 今まで感じた事のない物だった。


 そんな事を思いながら俺はゆっくりと寮に帰るのだった。

 

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