第12話 怒らせちゃった?

「果穂の支援魔法はすげぇよな。こんなに力が出るんだからな」


 そう言ってにぃっと笑う天道を前に私は腰を抜かしてしまいそうになった。

 私は天道を甘く見ていた。禁忌級のダンジョンから登って来ていたことも知っていたし、サンライズの報告も聞いていた。だから強いことは知っていたのだ。

 だけどこれは格が違うとかそんなレベルじゃない。そもそも彼と私では比べる事が烏滸がましいほどのの実力差がある。


 天道がワーウルフの前へ移動した時も、拳を振り抜いた時も全く見えなかった。

 風が吹き荒れたと思ったら全てが終わっていたのだ。


「おい、哲也。これでわかったろ? 果穂の支援魔法は凄いんだぞ?」


 玉田の前へ移動した天道はそう言った。


「は、はい……」


 そしてそう言われた玉田は顔を青くして震えている。

 もしも天道の怒りが自分へ向いたらと考えているのだろう。


「いやー、それにしても果穂の魔法はスゲェや! なんかこう力がギュンって漲ってきてさー」


 今度は笑顔で桜井に話しかけるが桜井は玉田と同じように顔を青くしている。


「えっ、あっ……」


 さっきまで天道と仲良さそうに話していたのに今では上手く話せないようだ。

 横にいるシリダリーも顔を青くしていた。


 その様子を見て天道は頭を掻きむしりながら私の方を見てきた。


「なあ……」


「……ッ!」


 そして天道と目が合った私は思わず目を逸らしてしまった。

 ここにいる全員が感じている感情は一つ恐怖だ。全員が天道に対して恐怖の感情を持っているのだ。


 すまない、すまない、すまない……


 私は心の中で天道に謝罪し続ける。こんな状況を作ってしまったのは私だからだ。

 私があそこで玉田に対して叱っていれば桜井のフォローをしていれば……

 あの時あの状況でと何回も頭の中で考えるが、私は行動できなかったのだ。


 私が玉田に強く言って雰囲気がさらに悪くなったどうしよう。桜井だけを特別扱いしているように見えてしまうんじゃないか。そんな事を考えて行動できなかった。


 これは私の弱さだ。今まで誰かと一緒に行動するなんて事無かった。いや、避けていたのだ。

 そのせいで天道は私の代わりに泥を被った。いや、被らせてしまった。


「あー、俺ちょっとおしっこ行ってくるね」


 そんな事を言って離れていく天道の背中を私はただ眺めるしかできなかった。




「ふぃー」


 パーティから離れたところで俺は立ちションをする。

 おしっこを終えてチャックを上げる。そして俺は頭を抱えた。


「……どうしよう!? 絶対風音の奴怒ってるよな!?」


 つい怒って割と本気でやってしまったが約束破った事絶対怒ってるぞ……目も合わせてくれなかったし。


「いい考えだと思ったんだけどなぁ……」


 果穂の支援魔法の力スゲェ! 作戦は残念ながら失敗だ。


 そういえばパーティメンバー全員の様子もおかしかったな。

 風音以外、尻餅ついて震えてたし……


「ハッ!? まさか全員トイレに行きたかったのか!?」


 あの時の顔、見覚えがある。お腹痛いのを我慢している顔だ。

 俺もトイレ我慢していた時に鏡を見たらあんな顔してたしな!


「みんなが漏らさないように頑張れば風音も許してくれるかな」


 どうせ力を見せてしまったんだ。1回見せるのも2回見せるのも変わらんだろう。


 そう考えながら俺はみんなの元へ帰るのだった。


 みんなの元へ帰ると尻餅をついていた3人は立に上がっていたが顔色が悪い。そして空気が重い。


「これからは俺が先導するからお前らは休んでろ」


 俺はクールな顔をしてそう言った。


 理由はクールに言った方がかっこいいと思ったからだ。


「………」


 全員が黙った。あれ? なんで誰も何も言ってくれないの?


「それで頼む」


 風音は顔を下げて目も合わせてくれない。


 ……まずいな。これは本気でぷっつんしてるなぁ。


「おう」


 俺は頷いて歩き始めた、そしてその後ろをみんなが付いてきた。


「この部屋は……」

 

 それからモンスターを蹴散らしながら歩いていると『ゴールおめでとう! 帰りはこれを使ってな』と書かれた看板とその近くに青色の結晶があった。


「これは転移結晶。これがあれば登録している座標にテレポートできるんだ」


 と風音は説明してくれた。が表情は暗くそれ以上何もいうつもりは無さそうだ。


 転移って言うと悠一さんのスキルみたいなもんか。


「便利だな! それにゴールだ! さっさと帰ろうぜ!」


 俺がおー! と右手を上げるがみんなは沈んだままだ。そんなに腹の調子が悪いのか。これは早く帰らないとな。

 

「……転移結晶を使うぞ」


 そう言って風音が転移結晶を持つと視界が光で包まれた。


 そして気づいた時にはダンジョンの入り口前にいた。


「おっ、やっぱ鈴木財閥のご令嬢は優秀やねぇ」


 声をかけてきたのは先生だ。


「いえ、私は……」


 そう言って風音は先生から目を逸らした。


「そんな謙遜せんでええよ、ボクは事実から言わんからな!」


 と先生は笑顔で話すが今は1分1秒が惜しい。3人が漏らすかどうかがかかっているのだ。


「先生! これからはどうするん……ですか!」


 俺は手を上げて質問する。


「おっ、不良くんは相変わらず元気がええな。これからやけど今日はこれで解散や。テストの結果は明日話すから今日はもう帰ってええよ」


 ふ、不良くん? それって俺のことか? まあいい。これで話が終わりなら3人ともトイレに行けるだろ。


「やったー! です! じゃあ俺は帰り……ます!」


 俺も早く帰りたかったから嬉しいぜ! 


 風音を誘って帰ろうかな……いや、今の風音は多分機嫌も悪いし今日は1人で帰るか!


「ははっ、不良くんはほんま元気でオモロいなー」


 先生のそんな言葉を聞きながら俺は教室にカバンを取りに行くのだった。



「……寝れん」


 あれから時間は過ぎて夜の9時ごろ俺は天井を見ながらそう呟いた。


 学校から帰ってすぐ眠ってしまったせいか全然眠くない。


「……散歩でもするか」


 体を動かせば少しは眠くなるはずだと思い、俺はパジャマのままで寮を出るのだった。


「星が綺麗だなぁ……」


 地上に出てきてから星だけは何回見ても綺麗だと思う。ダンジョンの中じゃあんなにキラキラしていて綺麗なものはなかった。


「……風音?」


 しばらく星を見ながら歩いていると遠くに風音らしき人が見えた。

 服装は制服のままで腰には刀を差している。


「あいつなにやってんだ?」


 風音はフラフラとどこかに向かって歩いているようだ。


「……尾行してみるか」


 どうやら向こうは俺に気づいないみたいだし、俺は後ろをつけてみることにするのだった。

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