第11話 ちょっと怒りました

「……物騒じゃね?」


 テストが終わり体育館前に集合した俺はそう呟いた。


 理由はAクラスの全員が武器を持っていだからだ。

 見たことのあるような武器から見たことない武器まで多種多様だ。


「これからダンジョンへ潜るのだからな。当然だろう?」


 横を見ると風音も武器を持っていた。風音の武器は日本刀のようだ。


「俺、持ってないけど……」


 武器なんて今まで使っていなかったら必要ないが、俺だけ仲間外れみたいで悲しい気持ちなる。


「はいちゅーもーく。ボクが偏見と独断でこれからダンジョンに行くパーティを決めさせてもろたから、ここに書いてる人らで集まってなー」


 そんな事を話していると先生が紙を持って現れた。

 俺達は先生の指示に従い紙に書いていたグループ通りに集まるのだった。


 俺のグループBチームで数は5人だった。

 ついでに言うと風音も同じグループでパーティリーダーと書かれていた。


「よし、集まれたなー。まずはAチームからダンジョンに潜入してもらうわけやけど、最初に15分間時間を設けるからそこで自己紹介なり、作戦会議なり好きに話してや。

 その後は30分ごとにB、C、D、E、F、G、Hチームの順番でダンジョンに潜入してなー」


 ん? この説明通りならAチーム不利すぎない? 後から入る方が作戦とかもちゃんと立てれるじゃん。


「先生、それでは私達Aチームが不利ではないでしょうか?」


 俺がそう思っているとAチームの銀髪の綺麗な長い髪をした美少女がそんな質問をした。

 この子も俺と同じ事を考えたようだ。


「せやな、不利やな。せやけど君らなら大丈夫や。ボクはAチームが1番強くなるように組んでるからな。他に質問ないか?」


 Aチームが1番強くなるように? じゃあその次には強いのはBってこと?

 ……考えても分からんぞ。


「……ありません」


 質問をしていた美少女はそう答えた。


「よし、なら今からスタートや」


 そう言って先生はタイマーのスイッチを押した。


 周りを見ると、みんながザワザワとし始めた。話し合いを始めたと言うよりもこれからどうしようと話しているチームが多いようだ。


「とりあえず自己紹介から始めよう、私の名前は鈴木風音。Bチームのパーティリーダーだ。よろしく頼む」


 風音はそう言って自己紹介を始めた。

 それに対して俺を除くBチームの全員がよろしくお願いしますと頭を下げていた。

 俺も一応よろしくと言っておいた。

 今の段階で自己紹介をしているのはAチームとBチームだけのようだ。


「僕の名前は玉田哲也です。まさかあの風音様と同じパーティになれるなんて光栄です。よろしくお願いします」


 眼鏡をかけた真面目そうな青年。哲也がそう挨拶したが明らかに風音の方しか見てない。他のみんなにも挨拶しろよ。

 同じパーティメンバーなんだからさ。

 それに対して他の人が拍手をしたので俺も真似して拍手をしておいた。

 風音は愛想笑いを浮かべながら返事を返していた。


「わ、私の名前は桜井果穂です! み、みんなの足を引っ張らないように頑張ります!」


 オドオドした感じのオレンジ髪のショートカット美少女。果穂はそう言って頭を下げた。

 みんながまた拍手していてたので俺も黙って拍手をする。


「ワタシの名前はエイミー・シリダリーデース! シクヨロデース!」


 と金髪褐色美少女のシリダリーは元気に挨拶をした。

 挨拶を終えると全員が拍手した。


「俺の名前は天道翔! 気軽に翔って呼んでいいからね! みんなよろしく!」


 俺の挨拶が終わるとみんな拍手してくれた。


 うんうん。仲良くなれてるって感じがしていいね。


「よし、では自己紹介が終わったところでみんなの長所と短所を教えてくれないか?」


 全員の自己紹介が終わると風音がそう言った。


 どうやら風音はみんなの事を知ってから作戦を立てるようだ。


「ワタシの得意なことは風魔法とヤリデース! この2つをうまく使ってモンスターを切り刻みマース! 弱点なんて存在シマセーン!」


 と言ってシリダリーは得意げに黄色の槍を持った。


 風魔法と槍って組み合わせがカッコいいな。シンプルでかっこいいって感じだ。


「僕の長所は銃の腕の正確さです。短所は近づかれると少し不利になるところです。まあ近づかれる事なんてありませんけどね」


 そう言って哲也はアサルトライフルを自慢げに見せてきた。


 長い銃って羨ましいな。後で頼んだら撃たせてくれるかな? 撃ってみたいや。


「わ、私は支援魔法が使えます! 私の魔法があれば皆さんが動きやすくなると思います! た、短所は1人だと何もできないことです……」


 支援魔法? そんなものまであるのか。使われてみたいな。どれくらい動きやすくなるんだろ?


 ……そうこうしている間に俺の番まできたがなんて言えばいいんだ?

 

「天道。お前の力は私が知っているから大丈夫だ」


 と、なんて言うか悩んでいると風音がそう言ってくれた。


「あっ、そう? じゃあいいや」


 俺がそう言うと哲也が恨めしそうな顔をしてきたがなんでだ?


「……ではフォーメンションを決めよう私が1番前に出る。そして中衛はシリダリー。後衛に玉田、桜井だ。天道はもしも後衛が襲われそうになったら助けてくれ」


 それに対して他のみんなは頷いた。


「では作戦は決まりだな。……天道少し2人で話せないか?」


 作戦が決まったと思ったら風音がそんな事を言ってきた。


「別にいいけど、今?」


 俺がそう聞くと風音は頷いた。そしてそれをみていた他のみんなは興味津々と言った様子だ。


「すまない、少し席を外す。自由に話していてくれ」


 そう言って風音はみんなと少し離れたところに移動したので俺も後ろをついて行った。


「天道。今回潜入するのは初級ダンジョンだ」


 離れたと思ったら風音は突然そんな事を言ってきた。


「え? あ、おう」


 俺はとりあえず頷いでおく。


「いいか。絶対に手加減しろよ。一応目立たないよう後衛の護衛という役職にしたが、目立つ行動はとるな。そして手加減をするんだ」


 肩をガシッと掴まれてそんな事を言われた。


「そ、そんな2回も言わなくても分かったって……」


「頼むからな。お前の強さは未知数だ。私もお前の強さを把握していないんだ。もしも何かあったら私だけでは庇えないかもしれない……」


 と言われた。庇うってなにから? と思うがとりあえず俺は頷いでおく。


「風音様! そろそろ僕たちの番のようです」


 そんな話をしていると哲也がやってきた。


「む? もうそんな時間か」


「はい! 早くいきましょう!」


「とにかく頼んだぞ!」


 と再度風音にお願いされた。


「おう!」


 俺は返事をして、哲也はダンジョンがある方へと歩いて行った。それを俺と風音は追いかけるのだった。

 




 俺達パーティが通路を歩いているとオオカミが突然襲いかかってきた。


「ワフっ!」


 風音はすぐに鞘から刀を取り出した。


「ハッ!」


 そして風音の鋭いカウンターでオオカミは傷ついた。


「支援魔法をかけます!」


 果穂が何かを唱えるとシリダリーの体が少し光った。


「ありがとデース! そしてココでーす!」


 そして怯んだ隙にシリダリーの鋭い突きがオオカミを襲う。


「……キャイン」


「これで止めだ! ワーウルフ!」

 

 そして哲也の銃から放たれる弾によってオオカミもといワーウルフは動かなくなってしまった。


「うむ。みんなよくやっ……」


 風音がみんなを褒めようとした瞬間邪魔が入った。


「桜井さん、困るなぁ。もっとちゃんと支援魔法を使ってもらわないと……」


 邪魔をしたのは哲也だ。そしてそれを言われた果穂は体を縮こめた。


「ご、ごめんなさい!」


「さっきも言ったけど謝るんじゃなくて、結果で示して欲しいなぁ。まず敵と出会ったら君が全員にバフをかけなきゃいけないんじゃないの?」


 ここに来るまでに何回か戦闘があったのだがずっとこんな調子が続いている。


「まあまあ落ち着いてくだサーイ!」

 

 シリダリーは止めに入るが哲也は話を聞く気がないようだ。


「そう言えば君って席が窓際だったよね? やれやれ同じAクラスでもここまで実力が開いてしまうのか、優秀すぎるっていうのも考え物だね」


 哲也は肩をすくめた。


 こいつ嫌なやつ過ぎね?


「……まだダンジョンは終わってないぞ。無駄話するな」


 そう言って風音は歩いて行った。それに合わせるようにシリダリーと哲也は歩き出した。


 風音は風音でなんと声をかけていいか分からないようだ。


「…………」


 果穂は下を向いて歩こうとしない。


「窓際の席の方が雲とか見えていいのになー」


 俺は果穂に話しかけた。


「えっ………」


「しかも俺の席は1番奥だから特等席だ! 手紙の交換もできちゃうぞ」


 昔学校で席が後ろの時は友達と手紙でしりとりとかよくやったなー。と思い出す。


「……だ、ダメですよ。授業は真面目に受けないと」


 と何故か怒られてしまった。


「……そう言えば果穂って席どこなの?」


 俺は話を逸らす事にした。だって怒られるの嫌いだし。


「名前呼び!? ……え、えっと天道さんの前です」


 名前呼びってそんなに驚かれることか? そしてそうだったのか。全く気づかなかったぞ。


「ははっ、全然気づかなかったわ。果穂って存在感ないんだな」


 俺が笑ってそういうと果穂の体がビクンと跳ねたような気がした。


「はっ、はははー。わ、私なんてどうせ居てもいなくても変わりませんよー」

 

 そして何故かめちゃくちゃショックを受けていた。


 えっ!? なんでショック受けてんの!? 褒めたつもりなのに!


「い、いや、褒めてるんだよ? 昔流行った影の薄いバスケットマンの漫画の主人公みたいでいいじゃん!」


 俺が穴に落ちる前はその漫画がきっかけでバスケ始めようと思った事もあったな。


「あの作品好きだったんですか!?」


 と、突然食い気味に言われた。


「お、おう。俺が穴に落ちる……じゃなくて小学生の頃好きだったな」


 突然の事で動揺してしまったが俺はなんとか頷きながら答えを返した。


「本当ですか!? 周りで私以外に好きな人いなかったので嬉しいです! 誰が1番好きなんですか?」


 興奮した様子で果穂は質問してきた。


「んー。俺は黄色だな。全部コピーとかカッコよくね? 俺もアレ見てプロの選手の真似しようとしたからなー」


 まあ結局出来なかったけど……


「分かりま」


「おい! さっさと来い!」


 果穂と話していると前方から声が聞こえてきた。


 この声は哲也だろうな。


「この話は後でだな。今は前に追いつくか」


「……はい!」


 俺の言葉に果穂は頷いた。俺達は通路を走り始めたのだった。


「お前達がサボっている間に2匹も仕留めたぞ」


 少し走ると他のパーティメンバーとワーウルフの死体が2匹あった。

 銃声は聞こえて来なかったので哲也以外の2人が倒したのだろう。

 死体にはそれぞれ刺し傷と切り傷がある。


「ごめんごめん」


 俺は素直に謝る。戦闘中に違うところにいたのは事実だしね。


「はぁ、これだから窓際組は困るよな。僕達エリートが頑張っても足を引っ張られるんだから……」


 と哲也は言ってきた。


 お前も空気悪くして足引っ張ってんだよ! と言いたいが我慢する。

 

「ご、ごめんなさい!!」


 と、果穂は頭を下げる。


「気にしないで大丈夫デース! テツヤも言い過ぎデース!」


 シリダリーは果穂の肩を摩りながらそう言った。


 シリダリーめっちゃいいやつやん。


 そして風音は相変わらず何も言わない。


 ……ダンジョンなんて1人で潜入した事ないがこの状況はよくない事はわかる。

 なんとかして今の雰囲気を変えないと……そうだ! いいこと考えた!


「まあ俺らも悪かったからな。次のモンスターは俺と果穂の2人で倒すよ」


「……正気かい? まあいいけど惨めに助けを呼んでも助けてあげないよ?」


 とすごくバカにした目で見られた。


「ま、まて」


 と風音が止めようとするが俺は風音を睨んだ。確かにダンジョンに入る前に手加減するって約束したけど、俺は風音にも怒っている。

 哲也が調子に乗っている時に風音が注意したら聞いていたはずだ。なのに何も言わなかった。


「じゃあそれで行こう。3人は後ろで休んでて」


「大丈夫デスか?」


「大丈ブイ!」


 シリダリーが心配そうに聞いてくるので俺は笑顔で返した。


「あ、あの本当に大丈夫なんですか?」


 俺と果穂で前を歩いているとそんな事を聞かれた。


「大丈夫だって! ただし本気で俺に支援魔法をかけてくれよ」


「は、はい」


 果穂は自信なさげに頷いた。まあこれまで色々言われたし仕方ないよな。


 そんな事を思いながら歩いているとワーウルフが1匹現れた。


「果穂!」


「ハイ!」


 果穂が何かを唱えると俺の力が漲るような感覚がしてきた。


「おおっ、こりゃすげぇ!」


「ワフッ!」


 感動しているとワーウルフが俺へ向けて走り始めた。


 だがとてつもなく遅い。俺が今までいたダンジョンのモンスターと比べると虫が止まるレベルだ。


「おせぇんだよ!」


 俺は瞬時にワーウルフの前へ移動し、右手を振りかぶる。

 俺が移動すると同時に後ろで何か聞こえるが無視だ。


 そして俺が目の前に移動してきてワーウルフは一瞬驚いたようだったがすぐに飛びかかってきた。


「オラァッ!」


 今まで溜まっていたイライラを発散するようにワーウルフへ向けて本気で拳を振り抜いた。

 すると風が吹き荒れワーウルフの下半身だけがボトッと音を立てて地面に落ちた。


「果穂の支援魔法はすげぇよな。こんなに力が出るんだからな」


 と言って後ろを見ると風音以外の全員が尻餅をついているのだった。

 

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