第10話 入学式を終えまして

「……せ! いい加減降ろせ!」


「おわっ!? ごめんごめん……」


 風音を肩に担いで運んでいると突然拳を背中に叩き込まれた。

 俺は風音に言われた通り地面に下ろす。


「突然人を担ぐとはどういうつもりだ!?」


 と言って風音は恥ずかしそうに顔を赤くしながら言った。


 途中に居た人全員から見られていたし怒るのも当然か……


「やー、ごめんごめん。あのままだと遅刻しそうだったからさー」


 俺は頭を下げて風音に謝る。


「……っふー。分かった。今回は許す。ただし次からは突然人を担ぐな、いいな?」


 大きく息を吐き出してから風音はそう言った。


「おう! 分かった!」


「ならいい……もう少し歩いたら体育館がある。そこで入学式があるから急ごう」


「おう! ん? あの建物凄い豪華だなぁ……」


 歩き出したと思ったら右手にすごい豪華な建物があった。

 建物自体は寮の建物に似ているが装飾がされてある。それに入り口には黒服の人が立っていた。


「……あれは財閥の子供専用の寮だ」


 は? なんだその一部の人しか入れない寮。


「ん? じゃあ風音も入ってんの?」


 確か風音は女子寮の前に居たはずだけど……態々、あそこまで行ってくれたのか?


「……いや」


「えー、なんで!?」


「特別扱い扱いされるのは好かん。それだけだ」


 風音はそう言ってこれ以上話すことはないという顔をした。


 ……なんか気まずいな。


「…………」


「…………」


 俺達は無言で歩く。チラッ、チラッと風音の方を見るが会話をしてくれる様子はなさそうだ。



「見えてきたぞ、あれが体育館だ」


 少し歩くと風音が左手にある建物に指を向けた。


「おー……でかくね?」


 その建物は体育館と呼ぶにはデカすぎた。昔見た東京ドーム1個分くらいの広さはあるんじゃないだろうか……

 

「将来冒険者になる事に特化している学園だからな。体育館でスキルの特訓や身体能力の向上ができるようになっているんだ」


「なるほどなー」


 そういえばそうだったな……


「さっ、早く入ろう」


「分かった」


 俺は頷いて先に行く風音を追いかけるのだった。



 入学式は意外と短く校長先生の挨拶が少しと生徒会長の挨拶が少し。そして新入生代表で冬月なんとかという人が挨拶をしているだけだった。


 そして現在俺と風音はクラス分けで張り出されていたクラス1-Aへと向かっていた。

 ちなみにクラスはCクラスまであって人数は1クラス40くらいだ。


「…………」


 俺はキョロキョロと周りの様子を見ながら歩いている。


「…………」


 次に風音の顔を見る。


「……はぁ、なんでそんなにソワソワしているんだ?」


 俺の様子を見て風音が質問してきた。


「……友達できるかなって」


 そう、俺が1番気にしているのはこれだ。俺も高校生になったとはいえ、飛び級だからな。

 それに聞いた話では皆15歳らしいから俺の方が二つ程年上だ。だから周りの人と仲良くできるか心配だ。


 すると風音は少し悩んだ後口を開いた。


「……難しいだろうな」


 と無慈悲にも風音はそう言った。


「……えっ? なんで?」


 我慢だ。泣くな俺。まだ夢の高校生活は始まってないぞ。

 俺は涙を流さないよう必死に我慢しながら風音を見た。


「うっ、そんな顔で私を見るな。スキルを発現させるための薬、あれが一本いくらか知っているか?」


 風音は目を逸らしながらそう聞いてきた。


「あー確か高いんだっけ? 浩二さんがかなりの額って言ってたもんな」


 俺はあの時の思い出しながら答えを返した。


「あれは一本1000万円はする代物だ」


「1000万円!?」


 それって何円だ!? 俺のお小遣いが月1000円だったから……


「だからこの学園に通う人間は必然的に金持ちになる。更に言うならお前は5年もダンジョンにいただろ? だから……」


 そこまで言われて俺は安心した。他に友達になれない理由でもあると思ったからだ。


「ふぅ、良かった。それなら大丈夫だ。だって俺と風音は友達だろ? だったら大丈夫じゃん! 風音だって金持ちだけど友達になれたんだからな!」


 俺がそう言うと風音は笑い始めた。


「……そうだったな。お前はそういうことを気にしないんだったな」


「?」


 そういう事ってなんだ?


 そんな事を考えていると俺達は教室の前まで来ていた。


「あっ、ついた」


「早く入ろう。どうやら私達が最後のようだからな」


 扉が開いてためか風音は中の様子が見えたようだ。


 俺は風音の言葉に頷き教室へとはいるのだった。


「おっ、君達で最後やな。鈴木風音さんと天道翔君であってるかな?」


 教室に入ると関西弁の男が黒板の前に立っていた。スーツを着ているし、この人が担任の先生か。


「はい!」


 俺と風音はほぼ同時に返事をする。


「ん? 君ネクタイしてないね? どしたん? 自分、不良目指してるん?」


 と俺の事を見た先生がそう言ってきた。


「やー、ネクタイ付けるが難しくて……」


 そう言ってネクタイをポケットから出すとネクタイが勝手に浮かび始めて俺の首に巻きついた。

 少しするとネクタイは綺麗に結ばれていた。


「おぉ、すげぇ!?」


「初日やしサービスや、ほら。2人とも席へ座り」


 と澄ました顔で先生はそう言った。


 カッケェ! この余裕、大人って感じがするぜ!


 そして俺達は先生の指示通り黒板に書いてある席に座った。


 俺は窓際の席の1番奥だったのに対して風音は廊下側の席の前から2番目だった。


「さっ、これで全員揃ったな。ボクの名前は近石明。これから1年間君達の担任や。よろしくな」


「よろしくお願いします!」


 と返事を返すが俺以外全員返事を返していなかった。そして自然と視線は俺の方へ集まった。


 なんで!? 普通返事って返すんじゃないの!?


「ハハハッ! 元気があってええな!」


 と内心俺が困惑していると先生が笑ってくれた。


「さてっ、みんなは今日から一年Aクラスなわけやけど……クラス順がどう決まってるか知ってるか?」


 先生は先程まで笑顔で話していたが、突然真面目な顔になり雰囲気が重くなった。


 その雰囲気に圧倒されてみんなは黙って先生を見ている。


「答えは優秀な順や。つまり君達は一年の中で1番優秀ちゅうこっちゃ。更にいえば今この席順も優秀な順に並べてある。廊下側から優秀な順にな……」


 ……ってことは風音は2番目に優秀ってことか。


 ん? 俺窓際の1番後ろだよな?


 …………。


 この中で1番優秀じゃないの俺ってことじゃないか!!


 ……冷静に考えたら仕方ないか。飛び級とは言えテストとかも受けてないし。


 むしろ俺ってAクラスにいていいんだ。


「まぁ何が言いたいかちゅうと……君達は優秀や、せやから気楽におやり」


 と言ってまた笑顔になった。


 ……何がしたいんだ? この先生。


 と思うが、これ以上考えても分からないので俺は考えるのをやめた。

 周りを見るとその言葉を聞いて喜んでいる生徒が多かった。特に廊下側の人たちは嬉しそうだ。


「はい、静かに静かに!!」


 少しクラスがザワザワし始めたのを先生が手をパンパンと鳴らしながら止めた。


「今日はこれから最初の学力テストとダンジョン探索を行ってもらうからな。それじゃあテストからや、みんな準備してー」


 その言葉を聞いたクラスのみんなは筆箱を出し始めた


 そして先生はテスト用紙を配り始めるのだった。


「じゃあ始めっ!」


 テスト用紙を配り終えた先生の言葉でテストが始まった。


 次の言葉を漢字に直せ。


(かしこい)

 

 なんて書けばいいんだ? 大体今どき漢字なんてスマホの変換で出るんだから必要ないだろ!


 りんごとみかんを合わせて12個買った。

 代金は1000円でした。

 りんごは1個150円、みかんは1個50円である。りんごとみかんをそれぞれ何個買ったでしょう?


 そんなの知るかバカ。レシート見たらわかるだろ!


 最初に発見されたとされているダンジョンはどこか?


 ダンジョンにずっといたのにわかるわけないじゃん。




「はーい。これで全部のテスト終了や。次は実技やから各自準備して体育館前に集合や」


 近石先生はそう言って部屋を出て行かれた。


 私は立ち上がり真っ先に天道の元へと向かった。何人かが私に声を掛けたそうにしていたが今はそれよりも天道の方が先だ。

 

「天道、大丈夫か?」

 

 天道はテストが終わったと言うのにシャーペンを手から離さず机を見ていた。


「ほへ?」


 顔を上げたと思ったら天道は見たこともないバカ面をしていた。


「プッ……なんだその顔! ププッ、やめろ! その顔で私を見るな!」


 私は思わず吹き出してしまった。私は必死に顔を逸らすが、天道の顔が目に入ってきてしまう。


「?」


 なのに天道は私の顔を見続けてきた。


「プハッ! なんだそのバカ面は! IQがとてつもなく下がったような顔をしているぞ!」


「???」


 私がそう言うと何を言っているのか分からないと言う表情をした。


「プハハハッ! いい加減にしろ!」


 私はこのままでは埒が開かないと思い天道の頭を叩いた。


「ハッ!? 今まで俺は何を……」


 どうやら意識がなかったらしい。とは言えあの顔は反則だ。


「次はダンジョンに潜入だ。準備して体育館前に集合だそうだ」


「……おう」


 と返事をした天道は明らかに元気がなかった。

 テストの結果が芳しくなかったのだろう。


「……私でよければ勉強を教えよう」


 そう言うと天道の表情はパァッと明るくなった。


「本当か!?」


「ああ」


 私が頷くと天道は嬉しそうに立ち上がった。


「ならサクッとダンジョン攻略して勉強会だ!」


 そう言って教室を出ていく天道の後を私はついていくのだった。

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