第8話 感動の再会です!

「……てててて!!」


 俺が目を覚ましたのはそんな声が聞こえてきた時だった。


「……ん?」


 目を覚まして辺りを見渡すと俺が男の人の手を握っていることに気がついた。


「あっ、ごめんなさい!」


 あの洞窟……ダンジョンで寝る為に身につけた特技の一つを無意識に使ってしまったようだ。

 この技はダンジョンで眠る為に俺が必死に考案した技その名もオートガードだ。


「いや、仕方ないですよ。上級ダンジョンに1人で投げ出されたんですから。安全に眠るための術ですよね」


 と、黒服の人は言ってくれた。


「いや、それでも……ってここは……」


 黒服さんにもう一回謝ろうと思った時に車の外を見ると見たことのある景色があった。

 年末なんかはよく家族で行っていた、お婆ちゃんの家だ。


「はい。目的地に到着しました」


 そう言われて俺はフラフラと車の外に出た。


 ここに俺の家族がいるのか……


「それでは私は帰ります。久しぶりの家族の再会楽しんでくださいね」


「あっ、どうも……」


 感動で黒服さんへの返答が雑になってしまった。でも今の俺はそれどころではない。


「……やっぱり浩二さんに連絡して貰った方が良かったか?」


 浩二さんが帰る提案をしてくれた時に一緒に連絡を入れると言っていたのだが、俺はそれを拒否した。

 理由は簡単だ。昔のテレビでサプライズの方が嬉しい。と言っていたし、俺もサプライズの方が喜んでもらえると思ったからだ。


「……な、なんて声をかけよう」


 とりあえず玄関の前に立つが何を言っていいか分からない。


 ただいまー! って言うのが正解か? それとも呼びベルを鳴らして事情を説明した方がいいのか?


 ……いや、せっかくのサプライズだ。突然後ろから抱きついてやろう。


「そうと決まれば……抜き足……差し足……忍足……」


 俺は玄関を音を鳴らさないように開いてゆっくりと歩いていく。


 とりあえず玄関は開いているようだ。


「…………………」


 家の中に入ると懐かしくて涙が出そうになる。


「……南……無阿……弥……陀………」


 とりあえず居間の方へ歩いて行くと、何か声が聞こえてきた。

 この方向は確か座敷か?


 俺は居間の方へ行くのをやめて座敷の方へ向かった。


「……南無阿弥陀……南無阿弥陀……南無阿弥陀」


 これはお経? なんでお経なんか……


 俺は引き戸の隙間から中の様子を見る事にした。


 仏壇の前で坊さんがお経を唱えているのか……次に手前の方へ目を向けると俺の家族が顔を伏せている。

 5年も経ったせいか後ろ姿は少し変わっているが見間違えるわけがない。


 それにしてもみんな泣いているのか?


「……以上で終了になります」


 坊さんが振り返った瞬間とんでもないものを見てしまった。


 小学生の時の俺の写真と横には漢字で天道翔と書かれている板が置いてあったのだ。


「なんで俺が仏壇に!?」


 あまりの衝撃から引き戸を開いて大声を出してしまった。


 すると全員が俺の方を向いた。


 婆ちゃんや爺ちゃんは少し老いたのかシワの数が増えているが、あまり変わりはない。

 お父さんは少し、髪の毛が少なくなっておでこが増えている。お母さんは前よりも化粧が濃くなっているような気がする。

 そしてお姉ちゃんは別人だ。子供の頃はしていなかったメガネをかけて、ガリガリだったのに少し太ったようだ。


「あっ……」


 思わず声を出してしまった事と、家族の姿を見たことによって声を漏らしてしまう。


「……ど! 泥棒!!」


 と爺ちゃんが最初に口を開いた。


「違うよ! 爺ちゃん! 俺だよ俺!」


 爺ちゃんは何を勘違いしているのかそんなことを言い始めた。


「これがオレオレ詐欺かいね!?」


 婆ちゃんもそんな事を言ってくる。しかも婆ちゃんは腰を抜かしてしまったようだ。


「……南無阿弥陀、南無阿弥陀、南無阿弥陀」


 なんで坊さんはお経唱えてんの!?


「違うよ! ほら俺の顔見て何も思い出さない?」


「母さん、防犯用の銃を!」


 防犯用の銃!? 日本じゃ銃は使えないだろ!


「は、はい!」


 そしてお母さんはホルスターから銃を取り出しお父さんへ渡した。

 

「う、動くな! 動くと撃つぞ! ヒカリ! 警察に電話してくれ!」


「ちょっ!? マジでたんま!」


 俺はお父さんに必死に訴える。


「動くな! 動くなよ……ヒカリ? どうした?」


 お父さんに釣られて俺もお姉ちゃんを見ると涙を流していた。


「か、かける?」


 と俺の名前を呼んでくれた。すると他のみんなも唖然としているようだ。


「そうだよ! お姉ちゃん! 翔だよ!」


 するとお姉ちゃんが走って抱きしめてきた。


「うっ、ちょっと! お姉ちゃん!!」


 抱きしめられてあることに気づいた。俺より姉ちゃんの方が身長が低かったのだ。昔は俺の方が低かったのに……


 それにしても恥ずかしい……かと言ってあまり強く抵抗するとお姉ちゃんの方が心配なのでされるがままだ。


「本当に翔なんだよね? お化けじゃないんだよね?」


 抱きしめられながらお姉ちゃんがビビリだった事を思い出す。


「足、地面についてる?」


 俺は少し冗談っぽくそう言った。


 そういえば、昔はお姉ちゃんにイタズラを沢山してたなぁ。その度にお姉ちゃんは怒っていたけど、いつも最後には許してくれたなぁ。


「……うん」

 

 そう言ってまた抱きしめられた。そしてその様子をみんなが困惑した表情で見守るのだった。




「本当にごめんなさい!」


 とお姉ちゃん以外の全員から土下座された。


「いや、別にそんな謝らなくても……」


 お姉ちゃんの抱きしめが終わってから俺は家族に電話番号の書かれた紙を渡した。

 それは浩二さんが帰ったら家族に渡しておいてくれと言われたものだった。


 その後電話をかけたお父さんが全ての事情を知り現在に至るわけだが……


「ごめん! 翔ちゃん! 貴方の顔が分からないなんて母親失格だわ!」


「いや、1番ダメなのは俺だ! 息子に拳銃を向けてしまうなんて……」


「ワシもすまんかった。あの可愛い翔を泥棒と間違えるなんて……」


「ワタシもですよ。爺さん。ごめんね、翔ちゃん」


 と全員から土下座攻撃を喰らっているのだ。


「お姉ちゃん……どうしよう」


 俺はお姉ちゃんの方へ助けを求める。


「私にはどうにも……」


 しかしお姉ちゃんは何も思いつかなかったのか目を逸らしてしまった。


「ってかお姉ちゃん。喋り方前と違うくない?」


 するとお姉ちゃんはビクッとした。


「……ヒカリちゃんはね、翔ちゃんが死んだショックで今まで引きこもっていたの」


「えっ、なにそれごめん」


 衝撃的な事実を聞いて俺は思わず謝ってしまう。


「……別にいい。翔のせいじゃないし」


 と言われてしまった。


「……と言うことはお姉ちゃんはニー!?」


 ニートと言いかけた瞬間お姉ちゃんがすごい勢いで口を塞いできた。


 このスピードダンジョンにいたモンスターよりも早いぞ。


「違うから、私ニートじゃないから! 家にはちゃんとお金入れてるし! 別に働いてなくてもお金さえ稼げればいいから!」


 と凄い早口で言われた。


 俺はそれに圧倒されて思わず頷いてしまった。するとお姉ちゃんは手を退けてくれた。


「コホンッ! えー、じゃあさお母さんハンバーグ作ってよ! それで許すよ」


 帰ってからハンバーグ食べるのも俺の夢の一つだったしな。


「そ、そんなことで……」


「いいから! その代わりとびっきり美味しいのね!」


「わ、分かったわ!」


 そう言ってお母さんは立ち上がり何処かへと走って行った。


「俺たちは何をすれば……」


 と、お父さんが聞いてきた。


「俺の話相手になってよ! 勿論お姉ちゃんもね!」


「わ、分かった!」


 


 天道が帰ってから1週間が経った後、私は駅にいた。


「待ち合わせはここのはずだな」


 駅の時計を見ると時間を見ると13時になっていた。そろそろ待ち合わせの時間だが……


「お姉ちゃん。駅弁食べたい……」


「我慢して! 鈴木財閥のご令嬢を待たせるなんてそんなことしたら……」


「大丈夫だって! 風音はそんなケチな奴じゃないよー」


「とにかくダメったらダメ!」


 と大きな声で近づいてくる、2人組の姿があった。片方は見覚えあるが、もう片方は知らないな。


「あっ、かざねー!」


 と私に気づいた天道が手を振って、走ってきた。


 そしてその瞬間周りの視線が一気に私へ向いた。


「馬鹿者! こんな場所で大声を出すな!」


 と私はあまりの恥ずかしさから声を荒げてしまう。


「……いや、風音の方が大きな声じゃん」


 ぷっちん。と私の中で何かが切れる音がした。そしてそれと同時に天道は後ろから頭を叩かれた。


「この馬鹿! 風音様になんて口聞いてるの! 本当にすみません!」


 と女性が謝ってきた。


「……い、いえ。……失礼ですが貴方は?」


 女性が天道を叩いてくれたお陰で少し冷静になれた。


「俺のお姉ちゃん。天道ヒカリだよ。俺1人じゃ心配だからって無理矢理ついて来たんだよー」


 と彼は納得いっていないように話すが正直お姉様の判断が正解だ。


「改めまして天道ヒカリです。これから翔がお世話になります。本来でしたら両親が挨拶に来るべきですが仕事の都合が合わなかった為、私が来ました」


 と言ってお姉様から頭を下げられた。


「これはどうもご親切にありがとうございます。私は鈴木風音です。翔君のことはお任せください」

 

 私も頭を下げる。


「ははっ、そんなの気にしなくていいよ。お姉ちゃんニートだから暇だっただけだし」


 と天道が笑いながら言った瞬間、時が止まった。


「こら!」


 とお姉様は当然怒る。


「ごめんなさーい!」


 と言って彼は走って逃げてしまった。


「…………」


 天道が逃げ去った後、お姉様と目があった。


 お互い考えていることは一緒だろう。彼はデリカシーと言うものが無さすぎる。


「……あんな愚弟ですがお願いします」


「……はい」


 何とも言えないない雰囲気の中お姉様と別れて天道を追いかけるのだった。

 

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