第6話 取引成立!

「うへぇ……」


 ケーキを食べ終わり、紅茶を飲むが渋すぎる。

 紅茶ってもっと甘いもんじゃなかったっけ? まさかこんなに渋いとは……


「ミルクと砂糖が入ってないから甘くないんだ」


 俺が顔を歪ませていると風音が俺の前にミルクと砂糖を置いてくれた。

 なるほど、それで甘くないのか……


「ありがとな! 風音!」


 俺はお礼を言ってからミルクと砂糖を大量に紅茶の中に放り込んだ。


「いきなり名前呼びだと!?」


 お礼を言っただけなのに何故か凄く驚いているようだ。


「いやだって鈴木って2人いるじゃん」


 そう言って俺は紅茶を飲む。


 うん、甘くて美味しい。


「ははははっ、確かにそうだね。さて休憩も終わったところで、話を戻そうか。……ダンジョンが日本各地に出現したところまでは話したね?」


 と、笑いながら浩二さんは言った。


「うん」


「それから少しした後、国は自衛隊を使ってダンジョンの調査に乗り出したんだ。そしてある事が分かった」


「ある事?」


「ダンジョンによって敵の強さと階層の深さに違いがあると言うことが分かったんだよ」


 ダンジョンによってそんな違いがあったのか。


「じゃあ禁忌級とかって言っていたのは……」


「そのダンジョンの難易度だね。難易度は下から初級、中級、上級、超級、禁忌級に別れているんだ」


「じゃああの洞窟……じゃなくてダンジョンは1番難しいダンジョンだったんだ」


 そりゃああの女の人も驚くよなー。


「うん。ダンジョンに潜入していた自衛隊員が全滅するほどにはね」


 そう言った浩二さんの目が鋭くなった気がした。


「えっ……」


 自衛隊が全滅って……


「だから国は禁忌級のダンジョンには人が入らないように管理しようとしたんだ。だけど大災害の後だったらからねね、ダンジョンの管理するお金はなかった……いや、それ以前に復興費すらたりていなかったんだ」


「だから国は7つ禁忌級ダンジョンを中心に7つのエリアに分けて、管理する事を条件に売ることにしたんだ」


 禁忌級のダンジョンって7つもあったのか。


「7つのエリア?」


 どうやって分けたんだろう?


「うん。翔くんも学校で習った事あると思うよ。関東地方とか近畿地方とかって分け方、つまり7地方区分だね」

 

 あー社会で習った気がする。

 俺が住んでる東京がある関東地方以外覚えてないけど。


「ふーん。じゃあ浩二さんはダンジョンを買ったの?」


「そうだよ。そして私のようにダンジョンを買い取った家が財閥と呼ばれるようになったんだ」


 なるほどー。よく分からんが金持ちって事か!


「そういえば太陽さんが冒険者とかスキルとか言ってたけどその2つはなんなの?」


「冒険者はその名の通りダンジョンを冒険する者。ダンジョン探索で得た素材などを売ることを生業とする職業だね。太陽くんがリーダーを務めるチーム、サンライズは私の会社の専属冒険者だ」


 えっ、そんな子供の夢みたいな職業あるんだ。


「そんな仕事があるなんて……」


「まあ驚くのも無理はないね。なにせダンジョン災害が起きてからの5年間でできた職業だからね。子供達からも人気があるんだよ。確か今年の学生がなりたい職業ランキングは1位だったかな」


 その気持ち分かる気がするなー。俺が穴に落ちてなかったら絶対冒険者を目指していたな。


「それにしても5年かー」


 穴に落ちたのが12歳の時だったから今俺は17歳って事か……

 時間が経つのは早いな……俺と学校に通っていたみんなは高校生か……

 なのに俺だけ……


「……大丈夫か?」


 そんな事を考えていると風音が声をかけてきた。


「あっ……うん、大丈夫だ。で、えーと。冒険者は分かったけどスキルっていうのは?」


 俺は風音に返事をしてから浩二さんに質問をした。


「……スキルを一言で表すなら超能力だ。悠一くんが翔くんを一瞬でここまで連れてきていただろ? あれは悠一くんのスキル『瞬間移動』によるものだ」


 太陽さんのスキルなんかより強そうじゃん!


「瞬間移動……」


「便利な能力だよね。私はスキルを持っていないから羨ましいよ」


 てっきりみんな持ってるものだと思ったけど、そう言うわけでもないのか……


「スキルはどうやったら手に入れる事ができるの?」


「……あぁ、それはこれだよ」


 と言って浩二さんは懐から箱を出した。そして箱を開けると中には注射器が入っていた。


「注射器?」


「そう。この注射器の中にはダンジョンで取れた素材を使って作った薬が入っている。適性がある人がこの注射を打ったなら、スキルを手に入れる事ができるんだ」


「えっ!? そんな危なそうな物打たなきゃいけないの?」


 ダンジョンで取れた素材ってあそこの生き物でまともな生き物見た事ないけど大丈夫なのか?

 ……よく考えたら俺はそのまともじゃない生き物を食べてここまで生き延びたんだよな。


「勿論、強制じゃないよ。中には副作用で死に至るケースもあるからね。それにこれ一本でかなりの額がいるから打っている人も少ないどね……翔くん打ってみるかい? 今回は特別に無料でいいよ」


 副作用で死ぬ!?


「絶対打たない!」


 俺はブンブンと首を横に振り拒否する。


「……そっか。残念だよ。……さて大体の事は話したと思うけど他に聞きたい事はあるかい?」


「特にな……あっ! そう言えばダンジョン災害で被災者がかなり居るって言ってたけど俺の家族は!?」


 ふと、さっきの話が頭をよぎった。家族は安全だと勝手に思い込んでいたけど、もしかしたら俺みたいに……


「その事については安心していいよ。翔くんがダンジョンから出てきた時に調べたけど君以外は全員無事だ」


「良かったー」


 とりあえずほっとした。


「ただ家は地割れに巻き込まれてしまったようだね。その時に東京から引っ越して埼玉の方に移住したようだね。他に質問はないかい?」


 埼玉? あぁ、婆ちゃんの家があるからかー。爺ちゃんも婆ちゃんも元気かなー?


「とりあえずは……」


 俺は頷いた。


「よし、じゃあ次はこれからの話をしよう。ここに風音を呼んだのもそのためだからね」


「私もですか?」


 風音も困惑した表情を浮かべている。何も聞かされていないのだろうか?


「???」

 

 これからの話? 確かに風音がいた意味は分からなかったけど、俺に関係のある話なのかな?


「君にも関係がある話だからね、しっかり聞いてくれ。まず、最初に言ったように君は禁忌級から出てきたから簡単に家に帰すことはできない。こんな事前代未聞だからね。記者会見も開かないといけないだろうね。そうしたら……」


「そうしたら?」


「翔くんは英雄になれるだろうね。ベテランの冒険者でも禁忌級のダンジョンは十層までしか攻略できていないんだからね」


「英雄! かっこいいな!」


 英雄ってヒーローって事だよな? 昔ヒーローに憧れていた俺としては凄く嬉しい。


「うん。格好いいね。でもそうなったらベテラン冒険者でも攻略できない禁忌級をどうやって登ってきたのか、気になってくるよね?」


「まあ、確かに……」


「そうなると、君の体の作りがどうなっているのか確認しようとするかもしれないね」


 そう言う浩二さんは黒い笑みを浮かべている。


「病院に行かされるって事?」


「それだけで済むといいね。もしかしたら解剖されるかも……」


「かい、ぼう……!?」


 体をばらすって事だよな……確かに悪の科学者がヒーローを解剖してその強さを調べるとかってあるあるな展開な気がする。


「君だけじゃない、家族にもその魔の手が及ぶかもしれないなー」


 浩二さんはさらに黒い笑みを浮かべている。


「いやだー!! どうすればいい浩二さん! ……そうだっ! 俺が悪の科学者を倒せば!」


 そうだ、これまで変な生き物をずっと相手にしてきたんだ。

 たかだか科学者1人倒せない訳がない!


「2人とも何を言っているんだ……」

 

 風音が1人呟いている。


「いや、それはリスキーだ。だから私はそれより安全な方法を考えたんだ」


 おぉ、流石浩二さん。


「それは一体?」


「簡単さ、5年前に災害に巻き込まれた翔くんは上級ダンジョンを彷徨っていたところをサンライズに救助された。こう公表すればいいんだよ」


「は!? 天才か……」


 そうすれば俺は、解剖されずに済む!


「お父様、それは無理があります。現在上級ダンジョンは全て攻略されています。攻略中の冒険者と遭遇していなかったというのはあり得ない話です」


 風音がそれを否定した。


「NO49があるだろう? あそこは上級ダンジョンだが、私達とサンライズが入っただけだ」


 NO49?


「NO49……確かにあそこなら……」


 風音はどうやら分かっているようだ。


「あのー、NO49って?」


「私が管理しているダンジョンの一つだ。そこは風音が将来冒険者になるためサンライズのみんなと訓練している場所なんだ」


 へー。風音も真面目っぽいのに将来冒険者になりたいんだ。


「ん? でもこれまでの話は全部俺の話で風音は関係なくね?」


 今話した内容は俺が解剖されないようにしようって話で風音は一切関係ない。


「風音が関わるのはこれからだ。私は今言ったように君が解剖されないように全力を尽くそう。だから君は風音を守って欲しいんだ」


「守る?」


 何から守ればいいんだ?


「うん。風音は今年の4月から高校生なんだ」


「へー、おめでとう」


 羨ましいな、と思いながら風音にお祝いの言葉を贈る。


「う、うむ。ありがとう」


 風音は少し照れたようにしている。


「だけど、その高校が山梨にあるんだ。だから寮に入る事になるんだけど、風音は財閥の当主である私の一人娘だからね。色々な事があると思うんだ……その時に君が風音を守って欲しい」


「私1人で解決できます!」


 風音は怒ったようにそう言った。


「相手がプロの冒険者、もしくはそれ以上であってもかい?」


「……それは」


 風音は気まずそうに目を逸らした。


「そんな時に翔くんが居てくれれば安心だ。腕は太陽くんのお墨付きだからね」


 と2人で話しているが……


「いや、盛り上がっているところ悪いけど俺高校生じゃないから無理じゃね?」


 中学校にも通った事ないしなー。どう考えても無理だろう。


「今から学園に1人追加するなんて私の力があれば簡単さ」


 となんでもないかのように言った。


「えっ、財閥ってすごい」


 高校ってそんな簡単に通えるのか……


「そうだろ? それに君にとっても悪い話じゃないと思うよ。風音に特別な事がない限り、翔くんも普通の高校生活を送れるんだからね」


「んー、でもなー」


「……それに小学生の翔くんがいきなり高校生になるって事は飛び級って事にもなるよ?」


「とび、きゅう」


 聞いた事があるぞ。天才のみに許された、学校の通い方だと……


「どうだろうか?」


「へへっ、できる小学生ってのは辛いな」


 俺はそう言って右手を出した。


「ありがとう」


 そう言って浩二さんと熱い握手を交わした。


「はぁ……」


 風音のため息が聞こえてくる。どうしてため息なんだ。


「よろしく翔くん。ははははっ」


 おお、浩二さん笑っているな俺も負けじと笑ってやろう。


「よろしく浩二さん。ははははっ」


 こうして俺たちは取引を交わすのだった。


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