第5話 地球はファンタジー

「うぉっ!? ゴージャスな部屋だなー」


 また場所が変わったと思ったら今度は部屋の中にいた。


 部屋にはでかい絵やツボが置いてあり、天井にはシャンデリアがぶら下がっている。

 ソファや机なんかも高そうだ。


「まあ財閥のトップが作った応接室だからな。俺達は総帥を呼んでくるから適当に寛いでいてくれ」


 そう言って太陽さんと悠一さんは部屋を出て行ってしまった。


「ふかふかだー」


 俺は高そうなソファに座る。


 思えばあの洞窟の中じゃこんなにゆっくりできる場所はなかったなー。

 寝る時はいつも固い石の上だったし、変な生き物がいたから気は抜けなかったしな。


「……眠くなってきた」


 このソファに座ってから今まで溜まっていた疲れが押し寄せてきたような気がする。


 少し寝てしまおうかな?


 そんな事を考えているとコンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。


「……失礼するよ」


 そして次に聞こえたのは男の人の声だった。


 声のした方へ振り向くと太陽さんと悠一さん、そして50代くらいの男の人。

 その横には黒く長い綺麗な髪の毛に目つきは鋭いがそれを差し引いても可愛いと思うような女の子がいた。


「……それでは総帥、俺達はこれで」


「ああ」


 太陽さんは総帥に頭を下げた後、こちらをチラリと見てから悠一さんと一緒に消えてしまった。

 一体どういう仕組みなんだ。何回見てもわからん。


 そして残った2人がテーブルを挟んで向かいの席へと座った。


「初めまして、私は鈴木財閥の総帥の鈴木浩二だ。そしてこっちが……」


「娘の鈴木風音です」


 と言って2人とも頭を下げてきた。


 ここは俺も自己紹介した方がいいのかな?


「俺は天道翔! よろしく! 友達からは翔って呼ばれてるから好き呼んでもらっていいよ!」


 とさっき見た太陽さんの真似をして自己紹介したら、2人とも驚いたような顔をしてその後に風音の方が立ち上がった。


「あなたは敬語を知らないのか! この人は鈴木財閥の当主だぞ!」


 怒られてしまった。そういえば学校でも先生に怒られていたような覚えがある。


 目上の人には敬語を使いなさいと、それが大人のルールって教えてもらった覚えがある。

 確かです。ます。をつければいいんだよな?


「まあまあ、風音落ち着いて……彼の事情は分かっているだろ?」


「ですが、お父様!」


「ごめんなさい。気をつけ……ます」


 慣れない喋り方は喋りづらいな。と思いつつ、頭を下げて謝る。

 財閥ってのは詳しく知らないけど、目上の人だしな。


「翔くん、今回は楽な喋り方で構わないよ」


 鈴木さんは笑いながらそう言ってくれた。そっちの方が俺も喋りやすいし助かる。

 敬語は今度から練習しよう。


「そっかありがと! じゃあ早速で悪いけど俺帰りたいんだけど、帰ってもいい?」


 太陽さんに振り回されていた時は、俺も混乱していたからその場の雰囲気に流されてしまったが早く家族に会いたい。


「私としても翔くんをすぐに帰してあげたいが、そう言う訳にも行かないんだよ。なんせ翔くんが出てきたダンジョンは禁忌級だからね」


 この人もダンジョンとか禁忌級とか訳の分からない事を言っているよ。


「……それ太陽さんも言ってたなー。ダンジョンとか冒険者とかスキルとか」


「ふむ。太陽くんから話は聞いているが信じてないという顔をしているね」


 おお、すごい。この人はなんでそんな事まで分かるんだろうか。


「ハハッ、翔くんは顔に出やすいからね。しかしそうだね、翔くんに分かってもらうように最初から説明するとしよう」


 心を読まれた!? この人超能力者か!?


「最初から?」


 それよりも最初からってどういう事だろ?


「うん。翔くん君が穴に落ちた日は覚えているかな?」


 そう言われて穴に落ちた日のことを思い出す。

 

「確か、卒業式の前の日だったような……」


「日付で言うと3月23日だ。その日、日本各地で地震や地割れなどの災害が多発したんだ。被災者は確認できているだけでも3000万人以上、そしてその日の事を私達はダンジョン災害と名付けたんだよ」


 3000万人!? そんな大勢の人が犠牲に……


「そんな大きな災害をダンジョン災害って……」


 いくらなんでもふざけてるだろ。


「ふざけていると思うかな? でも我々はそう名付けるしかなかったんだ。ダンジョン災害から1週間くらいした後各地で洞窟への入り口のような物が出現したんだ。そしてその洞窟に入ったものは口を揃えて中にはモンスターが居たと言ったんだ」


「モンスター?」


「うん。翔くんも見たんじゃないかな? 洞窟の中にいた不思議な生き物を」


「あー、確かに見たな。ツノの生えた馬とか三つ首の犬とか……」


 俺は洞窟にいた動物を思い出しながら話す。


「ユニコーンにケルベロス……それってボス級じゃないか」


 風音は驚いたように小さく呟いた。


「……話を戻そう。そして洞窟の中は迷宮になっていた事からダンジョン災害と名付けたんだ」


 なるほどなー。通りで変な生き物ばっかりいたわけだ。


 そんな時コンコンとドアを鳴らす音が聞こえた。


「……失礼します。お茶をお持ちしました」


 眼鏡をかけた仕事できそうな女の人が入ってきた。


「……一度休憩にしよう。ケーキもあるから好きに食べてもらっていいよ」


 女の人は紅茶とケーキを置くと部屋を出ていた。


「いただきまーす!」


 俺は前に置かれたチョコのケーキを食べるのだった。

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