第4話 変態じゃないんです!
「あ、あの……ひ、人だったりする?」
だぁぁぁ!?!? なんで質問をしているんだ俺は!
いくら久しぶりに人がいたからってそんなこと確認するまでもないだろうに。
これも変な洞窟で閉じ込められていたせいだ。
「…………」
女の人は俺の言葉を見てすぐにポケットに手を突っ込んだ。
そして長方形のガラス板を取り出した。
「?」
何をしているんだ?
「あの……」
「……ヒッ!? 動かないでください!!」
俺が近づくと女の人が拳銃を取り出した。
そしてそれを右手で構えて俺の方へと銃口を向けている。
「……えっ? オモチャの銃?」
俺がそう言った瞬間パァンっと言う音がしたとほぼ同時に壁に弾がめり込んだ。
……オモチャじゃないの? 俺が知らない間に地上のオモチャは進化していたの?
壁に弾がめり込む威力のオモチャで遊ぶなんて地上は物騒な世界になったもんだ。
「う、動かないでください!」
そう言いながらも左手でガラスを叩いている何かをしているのだろう。
そうして女の人はガラス板を耳の近くにやった。その動きはまるで携帯で電話しているかの動きだ。
……はっ、まさか!?
俺はそこで自分の姿を見てはっとした、上半身裸なのだ。
小学校では裸を見せてくる変態がいたらすぐに近くの人に助けを求めてくださいと教えられた。
そして電話をしていると言うことは……
「警察ぅ!? ちょ、ちょっと待って俺は変態じゃない!!」
これは誤解だ!
「はい、はい。ダンジョンの中から上半身裸で……」
すでに遅かったようだ。警察と電話している。
俺が逮捕されたニュースを見る家族の姿が頭に浮かんだ。
「……終わった。全て終わった。ごめんお母さん、お父さん、お姉ちゃん。俺、犯罪者になっちゃった」
膝から崩れ落ちて絶望する。
ここまで絶望したのは奇妙な洞窟の中で巨大な虫しか食べる物がなかった時以来だ。
「あなた! どうやってこのダンジョンに入ったの!」
俺が絶望していると銃を構えた状態で、女の人が話しかけてきた。
「えっ? ダンジョン? って何?」
ダンジョンってなんの話だろう。俺はゲームなんかしてないぞ?
「……何を言って! もう一度聞くわ。あなたはどうやってその中に入ったの!」
と言って洞窟の入り口を指さした。
「どうやってって言われても学校からの帰り道に地面が割れたんだよ。パカァってそんで落ちた」
「……は?」
女の人はなんとか言葉を捻り出したかのようにそう言った。
「……その話が本当なら5年前から? いいえ、そんな……」
と1人でぶつぶつと言い出した。
その様子を見ていると5人の男が何もないところから突然現れた。
「どんなマジック!?」
驚いていると、5人の男が俺を囲うように並んだ。
全員ラフな格好をしているどうやら警察の服ではなさそうだ。
「……ヤンチャな坊主だな。だが禁忌級に遊び半分で入るのはよくねぇな」
と俺の正面に立っている茶髪のサングラスをかけた男がニヤニヤしながら行ってきた。
「きんき?」
何を言ってるのだろう? 俺が首を傾げていると女の人がサングラスの男に何かを耳打ちした。
警察に電話したんじゃなくてこの人達に電話したのか?
話を聞き終えたと思うと男は驚いた顔をした。そしてすぐに仲間の方を見て頷いた。
「なんの……ッ!?」
俺が質問しようとした瞬間。突然サングラスの男が緑のレーザーを俺の胸に放ってきた。
当たったらまずいと思いそれを状態を反らして避けると、いつのまにか近くにいた緑髪の男が俺の顔面目掛けて殴りかかってきた。
「よっ」
俺はその男の拳を掴む。そして力を入れる。
「……っ!!」
黒髪の男は苦痛の表情を浮かべた。
「あっ、悪い!」
俺は手を離して謝る。
ん? いや、俺悪くなくね? なんで謝ってしまったんだ! こいつらが突然、襲いかかってきたんじゃないか!
「突然悪かったな! この嬢ちゃんがおかしな事を言うから確認したくてな!」
とサングラスの男が言った。すると黒髪の男も悪いと謝ってきた。
「……えぇ?」
俺は戸惑ってしまう。さっきからわからない事だらけだ。
突然人が現れたりレーザーで襲われたり、その相手にはいきなり謝られるし……どうなってんだ。
「俺の名前は春日部太陽! 春日部さんでも太陽さんでも好きに呼んでくれ!」
そう言って近づきながら右手を出してきた。
挨拶か……
「俺は天道翔。友達には翔ってよばれてた。よろしく太陽さん」
そう言って握手をするが太陽さんが突然左手で鼻を摘んだ。
「そ、そうか。翔……」
「???」
鼻を摘んで何してんだ?
……まさか俺臭いのか!?
「……俺って臭い?」
太陽さんにそう聞くと太陽さんは少し迷った後に頷いた。
「嘘だろーーー!!」
俺はあまりのショックに四つん這いになってしまう。
そういえば洞窟にいる間は風呂とか入ってなかったからな……
「こりゃあ、総帥に連れていく前にとりあえず風呂だな。あと散髪と服屋もだな。悠一、頼む。他はいつも通り警備についていてくれ」
そういうと先程殴りかかってきた黒髪の男がこっちにやってきた。他の3人はそれぞれ違う方向へ歩いて行った。
「よろしく、俺は北条悠一。悠一でいい」
と嫌そうに右手を出してきた。しかも左手でしっかりと鼻を摘んでいる。
……俺ってそんなに臭いのかな。
「……俺は天道翔。嫌なら握手しなくていいよ」
すると悠一さんはスッと手を引っ込めた。
ガーン! ショックだ! 普通そう言われても握手くらいするだろ!
「よし、翔! 俺の手を掴んでくれ!」
「?」
とりあえず俺は言われた通りに手を掴む。俺が手を掴むと太陽さんは息を止めてから悠一さんの肩を掴んだ。
そして太陽さんの何気ない動作が俺を傷つけてくる。やっぱり臭いのか。
次の瞬間景色が変わった。目の前には男、女と暖簾のかかった店があるどうやら銭湯のようだ。
周りを見るといつのまにか人も歩いているし、車も通っている。どうやら街に居るみたいだ。
「はぁ!?!?」
思わず声を上げると周りの人が一斉にこちらを向きヒソヒソと話を始めた。
「静かに、静かに……さっ、早く入れー」
そう言ったあと太陽さんに無理やり、銭湯に押し込まれた。
「いらっしゃい」
中に入るとカウンターの奥でおじいちゃんが優しい笑みを浮かべていた。
「大人2人ね」
そう言って太陽さんは財布からお金を出し、おじいちゃんに渡した。
「ほら、いくぞ」
俺は太陽さんの後ろをついていくのだった。
「太陽さーん、水が茶色くなるんですけどー」
自分でも驚愕だ。シャワーを体に浴びせると透明だった水が茶色になっていくのだ。
「そりゃ臭いわけだ。ほれ俺が洗ってやるからシャンプー取ってくれ」
俺はシャンプーと書かれた容器を太陽さんに渡す。すると太陽さんが頭を洗ってくれた。
誰かに洗ってもらうのなんて久々だ。そういえば幼稚園に通ってた時は、お姉ちゃんに頭を洗ってもらったなぁ。……お姉ちゃん元気かな?
さっきは突然襲ってきたけどちゃんと謝ってきたし実はお姉ちゃんと一緒で優しい人なのかも。
「うわっ!? 汚ねぇ! 髪から変なのが出てきた!」
……前言撤回だ。お姉ちゃんはそんなひどい事言わなかった。
「ふぃー。極楽極楽」
「久しぶりだろ? ゆっくり浸かれよ」
あれから体を洗い終わった俺達は湯船に入っている。
「そういえば、あのビームってどうやって出したの?」
太陽さんが襲ってきた時のことを思い出して質問した。
「あぁ……5年もあそこにいたんじゃ知るわけもないよな。あれは俺の『スキル』だ。どうだ? かっこいいだろ?」
とドヤ顔で言ってきた。
「……フッ」
俺はそれを鼻で笑う。スキルなんてあるわけないだろ。太陽さんはアニメとかを現実だと思うタイプだな。
「あっ、お前今バカにしただろ! お前がダンジョンに落ちてから地球は色々変わったんだよ!」
「ダンジョン? そういえば女の人もダンジョンとかなんとか言ってたような……」
俺はタオルでクラゲを作りながらあの時言っていた事を思い出す。
「お前がいた場所だよ。ああいう摩訶不思議な洞窟をダンジョンっていうんだよ。そして俺はそのダンジョンを探索する冒険者だ。あとタオルを湯船につけるな、他の客の迷惑になる」
……確かに家で入る風呂とは違うもんなと思い。タオルを折って頭に乗せてから太陽さんの方を見る。
「……フッ」
そしてまた鼻で笑ってやった。ゲームのやり過ぎたぞ。ダンジョンとか冒険者とかいい大人になって何を言っているんだ。
「だから! ってこれ以上は総帥に任せるか。俺は先に出るからお前も満足したら出てこいよ」
と言って太陽さんは湯船から出て行った。
「はーい」
俺はもう少し浸かっていたいので返事をして湯船を満喫するのだった。
「うん。臭わない。それと、はい。靴は外にあるから……」
風呂を出たら悠一さんがいた。
悠一さんはすんすんと臭いを嗅ぎ頷いたあとTシャツとジーパン。あと靴下とパンツを渡してきた。
どうやら臭いは無くなったようでよかった。
「これは……」
「お前の服だよ。流石に原始人スタイルだと周りの視線が厳しいからな。あと散髪も行くぞ」
それから俺は近くの散髪屋に連れて行かれて長かった髪も切ってもらった。
「あとは総帥の所に行くだけだな」
太陽さんがさっきから言ってる総帥って誰のことだろう。
「ねぇ、太陽さん総帥って誰?」
「あぁ、言ってもわからないと思うけど鈴木財閥の総帥。鈴木浩二の所だよ」
本当に知らない人だ。でも財閥って確か解体したんじゃなかったけ?
社会の授業で習った気がする。
「財閥って……」
「質問があるならあとは総帥に聞いてくれ、悠一」
俺が質問しようとすると太陽さんに止められた。腕時計を見ているし少し急いでいるようだ。
「また肩を掴んでれ」
「分かった」
太陽さんにそう言われて俺は頷いて肩を掴むのだった。
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