第3話 地上の空気は美味いです

「なんてビビってだこともあったなー」


 俺は過去を思い出しながら洞窟を歩く。


 俺がドラゴンだと思っていた生き物は実はただのトカゲの変異種だったのだ。

 

 すると突然三つの頭の犬が襲いかかってきた。


「ガルっ! ガルっ! ガルっ!」


「よっ! と!」


 俺は三つの頭を包み込むように脇で挟んで思いっきり壁に叩きつけた。


「キャイン……」


 そしてその犬は動かなくなった。死んだのだろう。


 俺は動かなくなった犬の前に座り、両手を合わす。そしてこの洞窟の壁を殴って採取した尖った石で毛皮と肉の部分を分けてく。


「はぁ、この洞窟なんなんだろう……」


 肉と毛皮を分けながら考えるのはこの洞窟のことだ。


 この洞窟にはいろんな生き物の突然変異がいるのだ。最初に出会ったでかいトカゲや三つ首の犬。他にも頭が鶏で尻尾が蛇やとにかく普通じゃいないような生き物とばかり出会った。


 なぜ突然変異と分かったのか?


 それは俺がこの穴に落ちる前の日に世界の奇妙な動物達をみていたから分かった事だ。

 その番組では突然変異によって体長が4メートルになった馬や三つの首を持つ蛇など様々な生き物の特集をしていたのだ。


「これも日々の情報収集をしていたエリート小学生の証ってな! ハハハハッ! ……はぁ」


 もう小学生じゃないんだよなー。

 そう思いつつ、自分の体を見る。


 穴に落ちてた時よりも一回りも二回りも体はデカくなっている。

 当然落ちてきた時に来ていた服はダメになった。と言うかツノの生えた馬と対峙した時に力を入れたら服が漫画みたいに破けた。


 だから今は人型の狼から剥ぎ取った毛皮をを腰に巻いている。


 他にも体の変化といえば下の毛が生えた。まあ、お父さんほどもじゃもじゃではないけど……


 そんな事を考えていると肉と毛皮に分けることができた。


「ふんっ!」


 俺は壁を殴る。


 殴った事により壁の石が落ちてきたのでその中でも1番でかいサイズの石を拾う。


「ふんふんふんふんふん!」


 そしてそれを壁に擦り付ける。すると石が熱くなってきた。

 俺は犬の上に熱々の石を乗せる。


 そしてそれを繰り返す。


 これは火がないこの場所で肉を焼くために会得した技だ。

 技名はまだない。



「いただきまーすっ!」


 俺はこんがりと焼けた犬の肉を食べる。


 味はまずいが食べれないよりはましだ。


 最初は生で食べてたんだよなー。肉が生臭くて吐いてしまった物も、もったいないからって食べてたっけ。


「ごちそうさまでしたー!」


 手を合わせて感謝する。


 こいつがいなければ俺はここで死んでいたかもしれない。その感謝だ。

 

 食べていた時に思ったが髪の毛が邪魔だなー。腰くらいまで伸びたし、寝る前にでも切るか。


「でも、寝る前までにもう少し進まないとなー」


 俺は立ち上がり、階段を探すために歩きだしたのだった。




「む? 分かれ道か……」


 しばらく歩くと十字路のような場所に出た。


 この洞窟名物の分かれ道だ。そしてこう言うときは大体どれにしようかなで決めている。


 ただ、左だけは嫌だな。左だけ地面が汚い。コケが生えていて滑りそうだ。


 と思いつつ左側の通路を指差す。


「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り……」


 言葉に合わせて指を動かすとピタリと左の通路で指が止まった。


「で、す、よ、ね!」


 今度は中央の通路で指が止まった。


「うん。神様もこう言ってるし、まっすぐ進もう!」


 俺はまっすぐと進みだしたのだった。



「あっ、階段……」


 それから少し歩くと階段が見つかった。


 あといくつ階段を上がれば俺は地上に出られるのだろう。

 最初は数えていたが、50を過ぎたあたりで数えるのはやめた。


「今度はどんな生き物に出会えるのかなー?」


 俺は階段をゆっくりと登っていくのだった。


「……眩しっ」


 少し歩くとここに落ちてから見た事がないほどの光が見えてきた。


「……まさかっ!?」


 この先が……!


 俺は考えるより先に足が動いてしまった。


「は、ハハハハ! やった!」


 周りには木が生えていて、小鳥の囀りが聞こえてくる。上を見ると青い空に雲が浮かんでいる。そして太陽が雲の間から顔を出している。


 空を見ながらすぅーっと息を吸い込む。洞窟と比べて空気が美味い


「ついに洞窟から脱出したぞ!」


 俺は右手を天に掲げて叫ぶ。


「さぁ、帰るぞ!」


 そう宣言して視線を下ろすととスーツを着た女の人と目が合うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る