第3話 叶うならば、僕はあの飛行機に乗りたい。

 僕は飛行機が好きだ。雷(いかづち)のような音を響かせ、暁のように赤く輝く日の丸を掲げ、電(いなづま)のような速さで飛んでいく。

 僕は、飛行機に乗るのが夢だった。


 戦争が始まって四度目の夏のある日、家の縁側でただぼんやりと空を眺めていた時、またいつものように空襲警報が鳴り始めた。ラジオは聞き取れない程に雑音まみれの声で頑張れ、頑張れ、と言っている。それでも僕は縁側を動かなかった。

 青色の飛行機の群れが飛んでくるのが見えた。見たことがないその飛行機に僕の目が釘付けになっていた。いつもは警報が鳴ったらすぐに防空壕の中へと入れられるから、飛んでくる飛行機を見ることなんてなかった。そうしていると、何やってるのあんた!と呼ぶ声が聞こえた。お母さんだ。お母さんは僕の腕を掴んで、庭先に掘った防空壕の中へと連れて行った。その時、空がきらっと銀色に輝く光が見えた。真昼間だから星のはずがない。

 「飛行機!」

その飛行機は遠目からでもわかるくらい大きく、立派で、カッコよく、美しかった。


 次に空襲警報が鳴った時、お母さんの止める手を振り払って防空壕の入り口から空を見た。やっぱり今日も、あの銀色に輝く飛行機が飛んできていた。その次も、その次も、さらにその次も、その飛行機は飛んできていた。僕はいつしか、その飛行機が大好きになっていた。僕はあの飛行機に乗りたい!

 ある日、お母さんと一緒に町へ出掛けていた時、また空襲警報が鳴った。町の人はみんな防空壕へと走っていった。空を見る。今日はあの飛行機が見えない。けど、絶対に来ている。見えないけれど、あの飛行機は今この町の空を飛んでいる!僕は母の手を振り解いて、その場に立って空を見続けた。すると、黒い小さな点が降ってきているのが見えた。爆弾だ!僕は走ろうとした。でも、足が動かない。母が名前を呼びながら僕のことを引っ張っているのがわかる。だんだんその黒い点が大きくなる。


 その時、あの遠い遠い空の向こうに、きらりと銀色に輝く飛行機が見えたような気がした。

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