第2話 赤い土

 赤い土が出たらすぐに大人を呼べ、私達はそう教えられてきた。なんで、と問うと、大人達は皆同じ事を話した。


 かつてこの町には陸軍の飛行場があった。そして、その周りには店が立ち並んで、大層栄えた場所だった。

 しかし、太平洋戦争末期、アメリカのB-29がこの飛行場を破壊するため、ここに幾つも爆弾を落とした。当然、そこに近い場所にも爆弾は降ってきた。森へ逃げた子供達は、そこに降ってきた爆弾でほとんどが亡くなってしまった。ついさっきまでの日常が、一瞬で破壊され、地獄へと有様を変えたのだ。生き残った住民の気持ちは、平和な世を生きる私達にとって想像に難いものだ。

 町を我が物顔で滅茶苦茶にしたB-29が残したのは、焼けた友や灰になった家屋だけではなかった。不発弾だ。

 生き残った人々は、これに赤土を被せた。そう、これが赤い土が出たら大人を呼ばなければならない理由なのだ。


 あれから数十年が経ち、日本も、この町も平和になった。復興したのだ!しかし復興の過程で、赤い土は歴史と共に埋もれていった。今やどこに赤土を被せたのかを覚えている者は一人もいない。

 私達がこうして生きている間も、歴史の残骸は眠っている。彼らの時は、今もずっと、あの大戦の中にあるのだ。

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