大戦の爪痕
KAGALOVE
第1話 グラマン
私の祖父は五十年くらい前、航空自衛隊の戦闘機パイロットだったそうです。祖父は今でも元気な人で、畑仕事を毎日やっています。そんな祖父は今でも戦闘機に乗りたいという願望があるようで、俺があと十年生まれるのが遅かったらF-15に乗れたのに、と言うのが口癖です。
今回の話は、私が小さい頃に祖父が語ってくれた話です。
当時、ソ連の戦闘機が函館に来た事件があったそうで、自衛隊の緊張がかなり高まっていた時期だったようです。また、現在でもそうですが毎日のように他国の飛行機がやってくるので、流石の祖父も毎日くたびれながら生活していたそうです。
そんなある日、祖父は東シナ海の方へとスクランブルしたそうです。しかし、現場に来ても飛行機が見えません。目標が存在しないのにレーダー上に現れる像、虚像です。そのため祖父は僚機と共に基地へ帰還しようとしたそうです。
その時、機内のレーダーに夥しい数の像が映りました。僚機に無線で確認したところ、僚機の方のレーダーにもその像が映っていたとのことで、祖父はパニックになってしまいました。
ふと空へ目を映すと、小蝿のような小さな黒点がいくつもあり、距離が近づくにつれ、それの輪郭が浮かび上がってきました。「グラマンだ!」祖父はそう叫びました。
グラマンというのは、太平洋戦争で活躍した米軍機F6Fを製造した会社の名前で、当時の日本軍は米戦闘機の代名詞としてこのグラマンという言葉を使っていたそうです。
グラマンの編隊も祖父達に気付いたようで、祖父達の乗る機へと向かってきました。祖父は何が何だかわからず、僚機と共に全速力で離脱しようとしました。しかし、グラマンは追いついてきました。そんなはずはあり得ません。グラマンは大戦中のレシプロ戦闘機で、最高速度も600km/hしか出せないのに対し、こちらはジェット戦闘機で、音速を超える速度を出せます。
祖父はさらにパニックになり、無我夢中で逃げ回りました。しかしグラマンの編隊は背後にピタリとくっ付いて離れません。じりじりと距離を詰められ、もうおしまいだ、と思った時、グラマンが一機燃え落ちていきました。すると、他のグラマンも皆、祖父の機から離れていきました。祖父は逃げるなら今しかない、と思い僚機に合図してなんとか逃げることができたそうです。
祖父はこの時、一瞬だけ後ろを振り返りました。グラマンの中に混じって、赤い日の丸がついた戦闘機が見えたそうです。祖父曰く、「あれは零戦じゃなかった。もっとずんぐりむっくりしていた。」とのことです。私はそこまで旧軍の飛行機に詳しくはないので、どの機体だったのかまではわかりません。
ピンチの時にヒーローが助けに来るという展開が好きだった幼い頃の私は、興奮しながら祖父に「きっとその人達は、おじいちゃんを助けるために来てくれたんだね。」と言いました。しかしそんな私の様子とは裏腹に、祖父はどこか哀しそうな顔をして、「あの人達は、今もどこかで戦ってるんだ。もう終わった時の中をずっと彷徨って、終わりのない戦いをやってるんだ。」と言いました。
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