124 事後処理である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。な、なんで……


 ジュマルがスポーツを辞めて大学受験をすると、超特大の爆弾を落として逃げて行ったので、記者たちは追うこともできず。あの足に追いつける人間はオリンピック選手ぐらいだもん。それも無理かも?

 なので、記者たちの標的は、立ち尽くしている私に移行。これでも有名人だから「ララちゃんネルだ~!」と、あっという間に囲まれてしまった。


「お兄さんはプロ野球に行くのではなかったのですか!?」

「スポーツじたいを辞めると言ってましたよ!?」

「あの……その……」


 混乱しているところに記者たちが矢継ぎ早に質問するので私も答えられない。だが、このままではいけないとは頭でわかっている。

 私は両手でホホを勢いよく叩き、正気を保った。その行動と音に記者は怯んで間が開いたので、そこに私は割り込む。


「兄が皆様の期待を裏切る発言をしてしまい、申し訳ありませんでした。しかしながら、私も初めて聞く内容でしたので質問に答えるごとができません。少し時間をいただけないでしょうか?」


 私が深々と頭を下げても、記者は許してくれない。「いつ発表するんだ」だとか「説得してくれるのか」だとか「スポーツ界の損失」だとか「責任を取れ」だとか言い続けている。


「それらの件に関しましても、後日、発表させていただきます。何卒なにとぞ、いまは兄を刺激しないようにお願いします。どうか、落ち着いて見守っていてください。お願いします」


 私が何度も頭を下げ、記者の質問にはお願いしかできなくなっていたら野球部の皆が駆け付けてくれて、私を逃がしてくれたのであった……



「ララ!」


 野球部のおかげで私が関係者通路を出たら、父親が駆け寄って来た。


「パパ……お兄ちゃん、こっち来たよね?」

「ああ。ママが家に送り届けてる。僕たちも行こう!」

「うん……」


 私たちは顔を隠して急ぎ足でタクシーに乗り込み家に向かう。その間、私は口を開かずに父親の話を聞いていたら、ジュマルの話が出て来た。

 どうやら両親は、関係者パスがなかったから警備員に止められたそうだ。そこで揉めていたら、ジュマルが走って来たので2人でタックルして止めたとのこと。父親だけジュマルに殴られたんだとか……

 いつもなら笑える話だけど無言で続きを聞いていたら、人が集まって来たから母親はジュマルのおんぶで逃げて、父親は私を心配して残っていてくれたみたいだ。


 元気がない私のために父親は明るい話題をしていたら、家に到着。私は怒りの表情で駆け込むと、リビングにいた母親に抱き締められて止められた。


「そんなに怖い顔しないの。ジュマ君だって怖がるでしょ」

「だって、あんなこと言うから……」

「ララちゃんがジュマ君のために頑張っていたことはわかってるよ。でも、ジュマ君にも他にやりたいことがあったのかもしれないじゃない? まずは話を聞いてあげよ??」

「……ママは何か聞いたの?」


 ジュマルと一緒に帰って来た母親なら何か知っているかと思ったけど、目を逸らされた。


「ジュマ君、何も話してくれなくて……」

「……」

「あ、でも、ララちゃんが怒ってるんじゃないかとは気にしてたわよ? また怖い顔になってるよ~??」


 私が心の中で言った「使えね~」は母親にも聞こえたらしい。いや、顔に出てたみたいだ。


「もう! アイスコーヒー! パパは肩揉んで!!」

「「はいは~い」」


 ここは一時クールダウン。このままジュマルの部屋に行ってもいい結果が出ないのは見えている。私は両親をアゴで使い、頭をリセットするのであった。



 アンガーコントロールで怒りを収めた私は、ティータイムでまったりしている両親をジットリと見てる。


「えっと……ララちゃん。どうしたの? 目が冷たいよ??」

「いや……2人とも、お兄ちゃんがあんなことをしでかしたのに冷静だな~っと思って……」

「まぁ……私たちは、いつかこんな日が来ると思ってたから……ね?」

「ああ。そんなに上手くいかないと構えていたから、ララよりは心に余裕があっただけだ」

「え……」


 どうやら両親は、赤ちゃんからハチャメチャだったジュマルが大成功するなんて、これっぽっちも思ってなかったんだって。私は信じてたのに!? ジョッキーと馬主の違いって、金持ち自慢してるのか??


「だからララちゃんも、ジュマ君の好きにさせてあげましょう」

「でも……絶対に大学は落ちるし、就職もできないよ?」

「その時はその時だ。てか、そうなってもいいように、パパの会社の役員にする予定だったし」

「私の事務所でも簡単な仕事をさせる予定だから、なんとかなるって」

「準備万端だね……」

「「危機管理ってヤツだね」」


 私任せでジュマルの将来のことなんて何も考えていないと思っていた両親が、ここまで準備していたことに感服だ。

 しかしその時、チャイムが鳴って外も騒がしくなって来た。マスコミが押し寄せて来たのだ。


「マズイ! お兄ちゃんから何も聞いてなかった!? えっと……ママたちで時間稼いでくれる? あとで説明しに行くから!!」

「何言ってるの。私たちで対応するから大丈夫よ」

「でも、私がやり始めたことだし……責任は私が取らなきゃ」

「だからララは何を言ってるんだ。ジュマルとララの保護者はパパたちだろ? 子供の失敗は親の責任だ」

「さってと、ちゃっちゃと追い返して来ましょうか」

「ララは安心して待ってな」

「ママ……パパ……」


 私が対応しようとしても、両親は譲らず。その背中を見ながら、私は尊敬の念が尽きないのであった……

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