125 祝勝会である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。うちの両親はカッコイイ!!


 我が家に押し寄せた大量のマスコミに臆せず外に出て行った両親は、どんな質問が来るかわかっていたかのような対応をしている。

 ちなみに最初は玄関で聞き耳立てていた私であったが、テレビでも生放送をやってるんじゃないかとリビングに戻った。

 テレビをつけたらちょうど「親失格」とか言われていたので、私はプンプン。こんなカッコイイ親、どこを探してもいないよ! 私とあの猫でも無理だもん! 見た目で完敗だ!! 悲しすぎる……


 そんな怒ったり悲しんだりする私を他所に、インタビューは続く……


「親失格ですか……そうとられても仕方がありません……」


 記者の糾弾に母親はひるんだように私には見えた。


「元々私たち夫婦は、息子の教育を諦めていました。正直、息子をここまで立派な人間にしたのは娘なんです」

「それはどういう意味ですか!」

「僕たちの息子は、問題の多い子供でした。2歳まで歩くこともできず、喋ることができなかったのです。いまの息子からは信じられないですよね」

「娘が生まれてからは、娘のマネをするようになって……いえ、娘がマネするように仕向けていたのです。発声練習させている姿を見て、私たちは驚きました」

「その頃から娘が息子の先生だったのです……」


 両親は思い出話にり替えていたけど、私は驚愕の表情。


「そうだった! 隠しカメラあったの知らなかったんだった!!」


 いまさら赤ちゃんの頃にやらかした失敗に気付いてもだえまくりだ。だって、私がジュマルを喋らそうと頑張ってたんだもん。隠れてやってたつもりだったのに、バレバレだった~~~!


 私が転げ回っていてもインタビューというか、ジュマルのやらかし談が続くのであった……



「ママ、パパ。お疲れ様~。ごはん作っておいたよ」


 長時間になったぶら下がり会見から戻って来た両親に、私は労いのサービス。2人は疲れた顔をしていたが、ダイニングに並んだ料理の数々を見てすぐに疲れが吹き飛んでいた。


「凄い豪勢ね。それもこの短時間で……」

「短時間じゃないよ? 何時間、お兄ちゃんと私のこと喋ってるのよ。記者さんも引いてたのわからなかったの??」

「わっ!? 4時間も喋ってたんだ……そりゃ疲れるわけだ~」


 そう。子供自慢が長い上に恥ずかしいから、私は途中からテレビやネットを見ずに料理を作っていたのだ。「まだやってるの?」と玄関を見に行ったら、マスコミも時計を何度も確認していたから早く帰りたかったと思われる。


「パパたちのためにこんなに作ってくれたんだな。ララ、ありがとう」

「なに言ってるの? お兄ちゃんの祝杯のためじゃない?? あ、主役呼んで来るね~」

「ララ~~~!!」


 本当は両親のために作ったけど、照れ隠しで突き放したら、父親は今生の別れかってぐらい叫ぶのであった……



 私は軽やかに階段を上ったら、ジュマルの部屋の前で少し緊張。どんな顔で会っていいのかわからないというか、怒りが込み上げて来るんだもん。しかし私は女優志望。笑顔を作ってからドアをノックした。

 数秒待っても、返事はない。ていうか、ジュマルはノックしても返事をしたことがない。起きてても寝てても、このノックという文化が理解できないらしい……

 なので少し間を置き、私は覚悟を決めてドアを開けた。


「お兄ちゃん。ごはんだよ~……えっ!?」


 何もなかったかのように部屋に入った私であったが、後ろに飛び跳ねた。


「おっ。ララ、帰ってたんや」

「う、うん……何してるの??」

「何って、勉強や」

「ええええぇぇぇぇ!?」


 そう。両親がやれと言っても逃げ出し、私が命令しないと鉛筆すら持たないジュマルが机に向かって勉強していたから、私はとんでもなく驚いているのだ。


「そんなに驚かんでもええやろ」

「そ、そうだね。ゴメン……あ、そうだ。ごはんだった。お兄ちゃんのために私がよりを込めていっぱい作ったんだよ~?」

「やった! ララの魚、めっちゃうまいねんな~。急に腹減って来た! 先行くで~」

「う、うん……」


 ジュマルは勢いよく立ち上がると私を避けて飛び出して行ったので、私はこのチャンスにジュマルのノートを確認する。


「う~ん……漢字が所々間違ってる……てか、音楽なんて入試に出ないって~~~」


 自発的に勉強をしていたことは褒めてもよかったのだが、ジュマルが意味のないことをしていたので、そんな気持ちも吹っ飛ぶ私であったとさ。



 それから私もダイニングに向かったのだが、一品消えてた。


「あんな立派なタイ、1人で食べたの!?」

「なんかめっちゃ腹減っててん。うまかった~」

「私が来るの待ってろよ」


 この食事は甲子園優勝の祝勝会を兼ねてるから主役のジュマルが食べるのはいいけど、家族が揃ってないのに食べるなよ。いや、私もタイの姿焼きなんて贅沢品、初めて作ったから食べたかったんだよ!


 私がギャーギャー文句を言っていたら、母親に止められて祝勝会の開始。ただ、あんなこともあったから野球の話題に触れられず、思い出話ばかりする私たちであった……



 料理がなくなるとジュマルはいつの間にか消えており、私にスリ寄る両親を押し返したらお風呂で今日の疲れを落とす。その足で2階に上がったら、ジュマルの部屋から明かりが漏れていた。

 また電気をつけたまま寝てるのかと中を覗くと、ジュマルが勉強していたので二度ビックリした。


「勉強してる……」

「ん? 邪魔すんなや」

「ゴメンゴメン。ちょっとだけいい??」

「まあ……」


 ジュマルは何を言われるのかと構えているが、私は隣に立ってノートを指差す。


「音楽なんて、受験で出ないから」

「そうなん??」

「何も知らずにやっても受からないんだからね。まず、行きたい大学や学部を決めて、必要な勉強しなきゃ。とりあえず今日のところは国語をやろう。その間にお兄ちゃんが行けそうな大学調べてあげるからね。あ、勉強見てあげよっか? まだ私も受験勉強対策してないけど、ちょっとは教えられるよ??」


 私が矢継ぎ早に喋り続けたら、ジュマルは嫌そうな顔をしやがった。


「そんなんええねん。自分でやる。ママに聞いたらええんやろ。ララは自分のことしとけや」

「えぇ~。心配なの~」

「ええって言ってるやろ。出て行けや~」


 私が抵抗しても、ジュマルには勝てない。部屋から追い出されてしまった。その態度に寂しさを感じて私はしばらくドアの前に立っていたら、ジュマルの声が聞こえて来た。


「なんでララは怒ってないんや?」


 あのバカなジュマルでも、私の態度が変だと思ったらしい。なので、私はドアに背中をつけて喋る。


「怒ってほしかったの?」

「別に……怒られるようなことしてへんし……」

「だったら私は、お兄ちゃんを応援するだけだよ。言ったでしょ? 私はお兄ちゃんの一番の味方なんだからね」

「……」

「勉強教えてほしくなったら言うんだよ。おやすみ。お兄ちゃん」


 何故かジュマルの返事がなくなったので、私は自分の部屋に向かうのであった……

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