122 私の悩みである


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。本当に燃やさなくてもよくない?


 海外のニュース番組で私が「マスクのジャンヌ・ダルク」と話題になったのは短期間。でも、せめて「マスク」じゃなくて「日本」って言ってほしかったわ~。

 そんな騒ぎも落ち着き、普通に学校に通っていたけど、なんだか生徒に落ち着きがない。単純に私がかわいいからとか話題になったからだと思っていたけど、変なのだ。


 私が廊下を歩いているとソワソワするし、通り過ぎると大量について来るから意味がわからない。

 エマに相談してみたら「みんな踊りたいんじゃね?」とか笑いながら言うので試しにスキップしてみたら、全員スキップ。適当に踊るとマネして踊った……


「マジか……」

「ノリよすぎ!?」


 噓から出た誠。生徒はあの一体感が忘れられず、私が歩くと期待して待っていたのだ。

 撮影してないと言っても聞いてくれない。いや、失言だった。隠し撮りしてると思ってキョロキョロしてる。だからこいつらは、私が歩く度に期待の眼差しを向けるようになっちゃった。


「この4年間で、ストレスでも溜まってたのかな?」

「かもな~。ララの知り合いで、精神科医とかスクールカウンセラーとかいないのか? ララちゃんネルの新しい切り口になるかも??」

「論文でも発表する気なの??」


 エマの案は、固すぎるので却下。両親の人脈にもそんな人はいなかったもん。校長先生は「予算が……」とか言って役立たず。


 こうして私は、たまに生徒を引き連れて踊るようになったのであった。


 でも、ララちゃんネルに使えるかもと、めちゃくちゃ難しいダンスをしてグダグダになったところを隠し撮りしてやったとさ。

 ただし、それを乗り越えた強者が「ララたん親衛隊」と名乗り、隊員を増やして教育していたけど、照れて私にはぜんぜん近付いて来ないのであった……なんのためにやってるんだろ?



 集団ダンスのせいで私はなんだか過ごしづらくなったが、そろそろジュマルの最後の大会が始まる。私はしれっと三者協議に参加したけど、つまみ出された。自分たちでやるんだって。

 伝え聞いたところ、3年生はめっちゃ燃えてるらしい。今年でジュマルが卒業だから、この夏は3競技全てで優勝させようと画策してるんだとか。

 そんな面白そうなことをしているなら私も一枚噛みたいと、決起集会にコソコソ潜り込んだところ……


「俺たちでジュマルを甲子園に連れて行くぞ~!」

「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」


 とかやってたから、すぐに撤退した。それは好いたマネージャーに言う言葉だろ。ジュマルを男共で取り合ってるようにしか見えなかったよ。



「はぁ~……なんだかな~」

「どったの??」


 教室に帰って私が机に突っ伏していたら、エマが久し振りに心配してくれた。


「部活でね……」

「ジュマル絡みかよ。そんじゃな~」

「聞いてよ~~~」


 エマはジュマル絡みの愚痴には付き合ってくれないで逃げやがる。だけど生足に絡み付いたら、なんとか座ってくれた。

 周りの目が気になったらしい。「羨ましい」ってヨダレ垂らしている女子の目が……


「別に愚痴とかじゃなくて、これなんだけど……」

「これ? ……ジュマルってマネージャーじゃないよな??」

「でしょ?」


 さっきの隠し撮り動画を見せてみたら、エマは不思議を通り越して気持ち悪そうにしてた。そっちのはないらしいけど、そっちってどっちだろ??


「まぁなんだ。お兄さんが大量に増えるかもな。いや、お姉さんか?」

「え?? 男のクセに、みんなお兄ちゃんと付き合いたがってるの!?」

「バカッ!? 繊細なことを大声で言うな!!」


 このあと私は、エマにLGBTのことを懇々と説明されるのであった……バカにしてたのはエマのほうだと思うんだけど……



 それから夏大会の予選が始まり、破竹の勢いで勝利する野球部、サッカー部、バスケ部。ジュマル抜きで地区大会を勝ち抜き、県大会はピンポイント起用。

 もちろん大事な試合で日程が重なることはあったが、ジュマルがいなくても辛くも勝利をもぎ取っている。


 学校もテレビも連日の大騒ぎ。ジュマルフィーバーが起こり、会場は予選だというのにどこも満員御礼だ。

 ジュマルが来てないと聞いた会場では、観客はいつもうちの高校を応援してくれる。負けたら次に期待できないもんね。


 そんな騒ぎなのに、主役であるジュマルはどことなく元気がない。チームメートや両親も「いつも通り」と言っていたから私の気のせいかもしれないけど、気になるので聞いてみる。


「最近、なんかあった?」

「なんかって??」

「嫌なこととか。誰かとケンカしたとか?」

「ないで」

「そっか~……何か嫌なこととか不安なことがあったら、いつでも私に言ってね。私はお兄ちゃんの一番の味方だからね」

「わかってるって」


 ジュマルはいつも笑顔で答えてくれているから大丈夫だと思うけど、なんだか私は日に日に不安が募っていた。


「おお~い。またNGって、何回撮り直すんだよ」

「ゴメ~ン。次こそはちゃんとやるから」


 そのせいで、ララちゃんネルの撮影に身が入らないのでNG連発だ。エマも怒りを通り越して呆れちゃった。


「またジュマルのこと考えてたんだろ?」

「いや、別に……」

「今回だけ聞いてやる。それでスッキリしろ」

「う、うん……」


 私はポツリポツリと不安を口にしたが、エマにもジュマルは普通に見えているみたいだ。


「それはララが寂しくなってるだけじゃないか?」

「どういうこと??」

「だって、この夏が終わったら野球のドラフトがあるだろ? どこに行くかわこんねぇけど、卒業後は社会人だ。ジュマルがララから巣立つから寂しいんじゃね?」

「私は親鳥か!?」

「そうだよ。みんなそう思ってんぞ」


 私だって保護者だとは自覚してるんだから、無理してツッコんだのは処理してほしかったよ。


「そっか~。そういうことか~……」

「どうしても寂しいなら、関西の球団に行けるように裏で手を回したらどうだ?」

「そこまでは……でも、心配だし、手は打っとこっかな? 行きたい球団を邪魔したら、野球はやらないとか言ってみたり??」

「親鳥は卒業できそうにねぇな……」


 愚痴を聞いてもらってスッキリした私は、エマの冷ややかなツッコミは無視して、本当にジュマルを関西に釘付けできるように奔走ほんそうするのであったとさ。


 これから大事件が立て続けに起こるとも知らずに……

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