121 大炎上である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。マスクはみんなで拾って捨てました。


 ララちゃんネルの生放送終了直後から、大炎上。ネットの中では「またパンデミックになる」だとか「あの高校は隔離しろ」だとか「扇動した美少女を捕まえろ」だとか大騒ぎになっていた。

 翌日にはテレビに飛び火して、高齢の医者やコメンテーターが「自殺行為」だとか「高齢者を殺す気か」だとか「絶対にマネするな」とか一日中やっていた。


 もちろんララちゃんネルの製作者である私は、炎上どころか火あぶりの刑。恐ろしい数の苦情や誹謗中傷が来ていたらしいけど、見てない。


 こうなることは目に見えていたから、ララちゃんネル終了間際に「高飛びします! ドロンッ!!」とか言って、学校サボって広瀬家はエマ家族と共に有馬温泉に来てる。情報も全て遮断しているので、気分も晴れ晴れだ。

 エマ家族は高級旅館に申し訳なさそうにしていたけど、全て私とエマが稼いだお金で来ているので、ちょっと早い親孝行ってことで納得していただいた。

 ジュマルはいつも通り、食っちゃ寝してる。大変なことになってるのわかってないみたい。

 

 学校にも様々な誹謗中傷やマスコミが来ているだろうけど、企画書を提出した時点で電話線を抜くようにアドバイスをしておいたので、業務には支障はないだろう。

 母親が「手紙を渡しておいたから、マスコミも逃げ帰ってるんじゃない?」とか言ってたけど何したんだろ? 教えてよ~。



 3日間、がっつりリフレッシュしたら、私たちは戦場へと戻る。念の為、エマ家族も我が家で一泊だ。

 だがしかし、その3日間で潮目が大きく変わっていた。


「アレ? 私たちのニュースやってないね」

「本当……ちょっと事務所の子に聞いてみるわ」

「僕も同僚に聞いてみるよ」


 エマ家族には私が対応して、母親と父親は電話。エマは慣れたモノだけど、両親はうちの金持ちっぷりにビビってソファーに座らず床に正座してる。親子だね~。ジュマルは人が多いから、自室に逃げてった。

 粗茶と温泉で買って来た茶菓子を出したら、私もスマホをオン。3日もオフにしていたから壊れてなくてよかった。え? そんなことで壊れないんだ。


「んん~?」

「ララ。なんかあったか??」

「いや、ララちゃんネルみたいな動画がやたら上がってるんだけど~?」

「マジで? うわっ! パクられまくってる」


 真っ先に動画サイトを確認してみたら、ララちゃんネルは見付からず、サムネイルが円陣を組む制服姿の集団の羅列になっていた。

 遅れて自分のスマホを見たエマも、この事態には怒りの表情になっている。この企画、めっちゃ頑張って捻り出してたもんね。


「『マスク、グッバイ!』とかタイトル付いてるけど……」

「ララのセリフだよな? それまでパクったのかよ~」


 動画を見てみても、踊ってマスクを投げる動画ばかり。なんならララちゃんネルよりデキのいい動画もあったので、私たちはプンプンだ。アレは絶対、サクラ使ってるよ!

 私たちが怒っていたら電話を終えた両親がやって来て、ここ3日間の、事の顛末を説明してくれる。


「なんかね。ララちゃんネルみたいな動画がいっぱい作られているらしいの」

「それのおかげで、ララたちはおとがめなしみたいになってるんだって」


 どうやら1日目にはネットが炎上して、2日目はテレビで炎上。配信初日から私たちの動画をマネした大学生、高校生、中学生が動画をアップして、このマスクグッバイ運動が日本中の学校に広まったそうだ。


「それで現在は、大人の中でも同じことをする人がいっぱい現れて、テレビでも若者代表のコメンテーターが戦ってるみたいなの」

「まぁララたちは政府の指標を守って行動していたからな。批判するほうがおかしいんだよ。世論もそっちに流れているみたいだな」


 私たちのやったことは意味があった! 女子高生が作った、たった1本の動画で日本を動かしたんだ!!


「えっと~……じゃあ、私たちもマスク取ろっか??」

「「……だな」」

「「……だね」」


 でも、私たちは批判にビビって家の中でまでマスクをしていたので、喜ぶに喜べないのであったとさ。



 それから毎日成り行きを見ていたら、マスクグッバイ運動は芸能界にも波及。芸人が荒々しく「やってられるか~!」とテレビの中で大暴れ。アクリル板も破壊していたけど、台本通りだろ?

 俳優陣やスポーツ界もその流れに乗って、撮影現場や動画サイト、スタジアム等でマスクを投げ捨てていたけど、もっと早くやってよね~。私たちより先にやるべきでしょ。臆病者め。

 テレビの中でまだマスクをしているのは、政治家とニュース番組だけ。あんたらが決めたり不安をあおっていたんだから、政策通りやれよ。なんで一番最後なんだよ。


 1週間ほど経ってから、エマと一緒に恐る恐るララちゃんネルのコメントを見たら、感謝の言葉ばかりだった。

 外す勇気を持てたって声が多かったけど、私とエマは登下校でマスクしてるの。勇気なくてゴメンね。顔出ししたから、安全のためにマスクは外せないのよ。


 一部には批判の声はあるけど、若者らしき声に片っ端から叩かれていた。聞いた話だと、テレビで私たちのことを批判した人は、4日目から消えたらしい。謝罪もなく逃げやがったな。

 だが、両親が全部録画していたらしく、全員名誉毀損で訴えたみたい……なんか不正のリーク記事が山ほど出てるし……地獄まで追いかけるつもりだよ……



「あ~あ。ウチらの動画、パクリ動画に埋もれて再生回数ぜんぜん伸びなかったな~」


 諸々が解決して、今日はうちで企画会議をしようとエマを呼んだけど、愚痴ばっかりだ。


「これはこれでよかったんじゃない? 学校や親に迷惑かからなかったんだから。それにマスクを外すことに一役買ったし」

「そうだけどよ~。ウチの会心のネタだったんだぞ~」

「まぁまぁ。また面白いネタ考えようよ。ギャルPの化粧動画なんてどう? プププ」

「おまっ!? ぜってぇやらねぇからな!!」


 せっかくエマの初動画を復活してあげようと思ったのに、かたくなに拒否された。コメントでも出演してくれって多かったのに、もったいないな~。

 そんな感じで2人でああだこうだやってたら、私たちのマスクグッバイ動画が再浮上した。


「なんで今頃??」

「これじゃないか? 海外の記事」

「はい? 私がジャンヌ・ダルク??」

「プププ。マスクのジャンヌ・ダルクだって」


 海外では「やっと日本人もマスクを外した」と話題になっており、その立役者として私の動画が使われていたのだ。


「ララが燃えてる~!」

「火あぶりはもうされたって~~~」

「あはははははは」


 こうしてララちゃんネルは、海外のニュース番組にオモチャにされるのであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る