120 グッバイ!である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。うぅ~……緊張して来た~!
「ララ。そろそろだぞ。いけっか?」
ここは高校の屋上。アイドルみたいな服装で縦に長い帽子を被った私に、時計を見ていたエマが声を掛けた。
「もちのロンだよ!」
「それ、カメラが回ってる時にやるなよ??」
「たはは」
私がバッチグーと親指を立てて前に出したら、エマに「昭和感がエグイ」って目を向けられた。だって、マスク付けてたら笑顔とか伝わらないでしょ?
「先輩方もよろしくお願いします!」
「オッケー」
「任せて~」
「ララさんのため頑張るッス!」
屋上からのカメラ担当の
「一発勝負の撮影ですんで、緊張感持って行きましょう!」
「「「「お~!」」」」
エマが気合いを入れたら、各々スタンバイ。私は拡声器を持ってグラウンドが見える位置に移動する。
結菜ちゃんと愛莉ちゃんも私サイドに移動して、グラウンドを撮影するカメラをチェックしてスイッチを押した。
大翔君は大きめのスピーカーを背負ってスイッチオン。ブルーなんとかってのが付いてて、コードも繋いでないのにスマホの音を出せるんだって。
最後のエマは右手にカメラ、左手にスマホ、右耳にはワイヤレスのイヤホンってのを付けて、電話の先で配信を担当している私の父親と連絡を取ってる。有給取ってまでやらなくていいのに……
「オールオッケー! 撮影始めるよ。5秒前~!」
エマの合図で、私はスタート。
「は~い。美人すぎるJKチューバー、ララだお。ララちゃんネル始まったよ~。パチパチパチパチ~」
いつもの挨拶をしたら簡単な説明。
「今日はなんと、生放送で放送中だお。そしてここは、学校の屋上で~す。パチパチパチパチ~。今日は何をするかというと、ドッキリ企画! 私が踊りながら生徒に近付いたら、どんな反応をするか……というより、一緒に踊ってついて来てくれるかを検証します。てか、誰もついて来ないよ~。鬼Pの鬼~!」
私がカメラに向かって文句を言うと、最近ではいつも黙っていたエマが喋る。
「誰が鬼だ。そんなに言うなら、罰ゲーム付け加えるぞ。ゼロ人だったら、次回は水着な」
「え~! コンプライアンス引っ掛かってバンされちゃうよ~。てか、鬼Pも連帯責任でしょ!」
反撃で、カメラを奪い取った私はエマに向けた。
「バッ……撮るなよ! 放送事故になんだろ」
「アレアレ~? 鬼って聞いてたのにギャルが出て来ましたね~。今度から、ギャルPって呼んであげてね~? アハハハ」
「返せよ!」
この寸劇は、予定調和。今回は企画も企画なので私だけに責任を負わせたくないと、エマも顔出しすることになっていたから台本通りだ。
「てか、お昼休みしか時間がないのに、こんなことしてていいのか??」
「あっ! ヤバイ! 急がなきゃ!?」
カメラをエマに返したら、私はグラウンドに拡声器を向け、音を最大にして叫ぶ。
『ラ~ラちゃんネ~ル。は~じめ~るよ~~~! ミュージックゥゥ、スタート!!』
この声で、大翔君が背負っているスピーカーからララちゃんネルのテーマ曲が流れる。その音に合わせて私はスキップ。両手を上下して軽やかに踊る。
「さあさあ。これだけ簡単なダンスなんだから、みんなも余裕でしょ~? まずは3年生の教室に突撃だ~~~!!」
私が踊りながら進むと、エマと大翔君がついて歩き、エマが場繋ぎ。詳細なルール説明をしている。
そのルールとは、私が「口で誘ってはダメ」で「ワンツースリーフォー」と言うことだけは許される。これは最初から知っていることだけど、振り向いて苦情を入れる演技。
そんなことをしていたら、3年生のフロアに到着。廊下にいる3年生は「
サクラは仕込んでくれなかったの。エマの鬼~~~!!
まず最初の獲物は、ジュマルのクラス。ジュマルは邪魔になりそうだから、
最初にここを選んだ理由は、私と喋ったことのある人が多いから。一番何も聞かずに踊ってくれそうだからだ。
しかし、私が踊りながら入ったら、全員ギョッとした顔。アイドルみたいな格好をしてたらそうなるよね。
でも、ルールがあるから喋れない。近くの女子グループの目の前まで行ったら、そこで踊り続ける。
「えっと……ララちゃん何してるの? さっきも叫んでたよね??」
仕込みもいないのだから、この反応が普通。踊ってくれるわけもない。
「ワンツースリーフォー!」
「え? なになに? ファイブ??」
クイズじゃないの。踊って~~~。
「ワンツースリーフォー!」
「あ、踊るの? 恥ずかしいな~……」
「ワンツースリーフォー!」
「もう~」
「ワンツースリーフォー!」
「「「「「私たちも~~~??」」」」」
1人が踊ってくれたらその仲間も加入。やったね!
そのまま後ろに加えてクラス中の男女の前で同じことをしたら、全員ゲットだぜ!
これだけついて来てくれたら、あとは楽勝。何事かと廊下に出て来ている生徒や他のクラスに残っている生徒の前でも「ワンツースリーフォー!」とダンス隊に加え、2年生の教室に向かう。
2年生のフロアに着くと、「キャーキャー」お出迎え。私は2年生のアイドルだもん。ただ、「キャーキャー」言ってなかなか隊列に加わってくれないので、ここでも「ワンツースリーフォー!」と目の前で踊ったら理解してくれた。
我ながら凄いな私! 全員ついて来てるよ!!
次は1年生のフロア。新入生だからこのノリについて来れないと心配していたけど、2年生や3年生が「来い来い。踊れ踊れ。ララちゃんネルのララだお」と通訳してくれたから、思ったよりすぐに隊列に加わってくれた。
後ろではエマが「反則だ~!」とか叫んでいたけど、演技だよ? みんなもブーイングやめてあげて。
全校生徒とは言えないけど、7割近い生徒がダンス隊に加われば、グラウンドに出てトラックを一周。屋上で撮影している結菜ちゃんと愛莉ちゃんはさぞかし驚いていることだろう。
もう半周したら私は中央に移動して、ついて来ていた生徒を身振り手振りで追い返したら、踊りながら隣の人と一定の距離を取り、綺麗な円を作ってくれた。
ここで初めて私は拡声器を使って喋る。
『みんな~! ダンスは楽しい~~~??』
「「「「「わあああああ!」」」」」
『みんなのおかげで、ララちゃんネルの生放送、大成功だよ! ありがと~~~う!!』
「「「「「わあああああ!!」」」」」
『それじゃあ、次のワンツースリーフォーで止まるよ? せ~の! ワンツースリーフォー!! キメッ!!』
「「「「「わあああああ」」」」」
『拍手~。パチパチパチパチ~。ありがとね~』
万雷の拍手のなか、今回の企画の説明をした私は、大事な話があると静かにさせる。
『いまマスクしてる私が言うのもなんだけど、なんでみんなはいまだにマスクなんてしてるの? 政府はもういらないって言ってるよね??』
急な政治的なネタに、ザワザワしていた声も無くなった。
『まぁ自己判断とか言われたら周りが気になって取れないよね~? だったらみんなで取らない? 3年間、私たち子供は必死に我慢したよね? もういいじゃん! この学校の中だけでも自由にしようよ! マスクなんて引きちぎれ~~~!!』
私が勢いよくマスクを取って掲げると、数秒の静寂の後、誰かが「そうだそうだ!」と叫んだ。それに釣られて次々とマスクを外し、ブンブンと振り回して私の問いの答えとした。
『私たちは自由だ! マスク、グッバイ! マスクなんて投げ捨てろ~~~!!』
「「「「「わああああああ!!」」」」」
こうして私たちは飛び交うマスクを見て喜び、自由を噛み締めるのであった……
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