116 ララちゃんネルである


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。自分の企画じゃないと、ノラないのよね~。


 エマたちの企画会議を経て、今日は動画撮影の初日。私はエマにナチュラルメイクをしてもらって、カメラの前でスタンバイ。エマのキューで、拍手をしながら喋る。


「は~い。『ララちゃんネル』第1回が始まったよ~。パチパチパチパチ~」


 番組タイトルは、私の名前と「ちゃん」と「チャンネル」を掛け合わせた駄洒落。満場一致で決まっていた。もう顔も名前も世間に知れ渡っているから、両親も顔出しは止めてくれなかったよ。


「あの伝説の『お兄ちゃんと一緒』の妹ちゃんが、こんな美少女でビックリした? そうなの私、超美少女だったの~……って、カンペ読まされてます。恥ずかしい!!」

「カーット!!」


 『お兄ちゃんと一緒』から見に来た人のための動画は撮り直し。エマに説教されてから続きを撮る。


「今日は初回ということで、このララちゃんネルで何をするのかと注意事項だけを説明しますね。まず何をするかというと、私がイロイロな企画に挑戦します! パチパチパチパチ~。お兄ちゃんほど派手じゃないけど、私も歌とかダンスは得意なんだよ~? 次回はダンスする動画を配信しますので、楽しみに待っててね。パチパチパチパチ~」


 ここは無難にこなして、カンペが捲られたら次のセリフ。


「注意事項なんだけど、動画や画像の転用、誹謗中傷、殺害予告、住所の特定とかは絶対にやめてください。『お兄ちゃんと一緒』でやった人のこと覚えていますよね? うちの両親、限度を知らないから、徹底的に追い込むから絶対にやめてくださ~~~い!! では、次回の配信を楽しんでくださいね。バイバ~イ」

「カーット! そんなこと言われたら楽しめねぇよ!!」


 私が台本から外れたことを言って締めたからには、またエマの説教。無難なテイク2をやらされて、次回の動画に取り掛かるのであった。



「は~い。ララちゃんネル始まったよ~。パチパチパチパチ~。今日は予告通り、私がダンスに挑戦するよ。パチパチパチパチ~」


 オープニングをこなしたら、台本通りエマがタブレットを私に渡して動画を見る。


「え……これやるの? 難しすぎない?? えっと~……ちょっと練習してみます……これは無理だよ~」


 見せられた動画はアイドル動画ではなく、ダンスグループの動画だったので私も自信なし。ちなみにやることは当日まで秘密となっていて、練習風景は早送りで流すらしい。このほうが面白い映像になるんだとか。ホントに~?

 とりあえず動画を見ながら汗を流していたら、部活で忙しいはずのジュマルが帰って来た。最初は何をしているのかと遠巻きに見ていたけど、どんどん近付いて来て、しまいには私の目の前まで来て寝転んだ。


 なのでエマが怒って追い払おうとしていたけど、テコでも動かず。やっと動いたと思ったら、私の後ろで走り回ってやがる。エマも追い回してるな。

 そんな中、私は黙々と練習。なんとか通しで踊れるようになったので、ジュマルには必死にお願いしてカメラに映らない位置に移動してもらい、本番だ。


「ハァハァ……ちょっと間違えた~! もう一回やらせて? え~! 一回だけなの~」


 けっこう上手く踊れたけど、ぶっつけ本番を売りにするみたいなので、テイク2はダメだって。エマにキレ気味に拒否されたので、私はカンペを読んで締める。


「もうちょっと練習したら完璧に踊れたのに、鬼監督がダメって言うの~。だからこれで我慢してね。次回はカラオケに挑戦します! まったね~」

「カーット! 誰が鬼監督だ! それになんで毎回グチって終わろうとするんだよ!!」


 私がグチっているのは、不満があるからに決まってる。そのせいでまたまた説教されて、テイク2を撮らされる私であった。それならダンスのテイク2も撮らせてよ~。



 今日の撮影を終えたら、編集担当の父親に申し送り。自分たちでやると言ったのに、これだけは父親がやるときかなかったから任せるしかない。

 完成した映像は、コンプライアンス担当の母親に送られ、許可が出たら動画サイトにアップされる。


 私たちでポチッとしたかったが、これはこれでドキドキ感が楽しめる。友達に宣伝して、配信の一日遅れで家に集まり、どれぐらいの人が見ているのかと私たちはノートパソコンの前に座った。


「この瞬間がドキドキだよね~?」

「ああ……ま、どうせ友達と家族しか見てないだろうな。だから、少なくてもヘコムなよ?」

「だね……でも、エマの動画よりは多いはずよ。私、友達多いもん」

「てめえ! それは言うなよ~~~」

「アハハハハ」


 エマをイジって緊張をほぐしたら、結果はっぴょ~~~う!!


「準備はいい? いっくよ~??」

「こい!!」


 私より真剣なエマは祈りながらノートパソコンを見詰め、私がポチッとしたら目を見開いた。


「な、何人だこれ??」

「一、十、百、千、万で……」

「10万!? 10万再生もある!?」

「やった~~~!!」


 初回の配信で、まさかの10万超え。あまり期待していなかった私も、思わず飛び跳ねて喜んだ。エマも嬉しかったのか、抱きついて来て同じように飛び跳ねてる。

 しばらく喜び、ダンス動画の再生回数も確認したら、倍もあったので喜びも倍。友達と何かをやるって楽しいね。

 私に足りなかったのは、こういうことかも? ジュマル狙いの女子や私狙いの男子ばかりに見えて、あまり深い関係になれなかったから、エマ様々だ。



 充分喜んだら、次に繋がる反省会。2人で動画を確認すると、開いた口が閉じなくなった……


「鬼説教の鬼Pって、ウチのことか……」

「え……NGシーンばっかり使われてる……」


 そう。父親がまたやりやがったのだ。私がグチってエマが説教するシーンをコミカルに編集したり、ジュマルが映り込んでいるのに説明も無しに早送りで使っていたのだ。

 ちなみに鬼Pの「P」はプロデューサーではなく、私がエマの名前を呼んだから、父親が編集で「ピー」って音を足した「P」だってさ。


「コ、コメントは……」

「ララちゃんと鬼Pのやり取り、草生える……だって」

「「思ってたのと違~~~う!!」」


 こうしてララちゃんネルは私たちの意図した放送にならず、修正もできないまま始まったのであったとさ。

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