106 犬養咲茉である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。器物損壊は大目に見てもらいました。
ジュマルが野球部の部室のドアを壊してしまったので、私は職員室に謝りに行き、弁償するついでに野球部に必要な物も買うと言ったら、無罪放免。
ジュマルが抜けたら大損害だから元々
放課後は、野球部に顔を出して謝罪行脚。しばらく部室を使えなくなったし空き教室に引っ越ししないといけないから、1人1人に頭を下げて回った。
こちらもジュマル抜きでは甲子園の土を踏めないので、すぐに許してくれた。そのジュマルはというと、大勢の新入生相手に嬉しそうにに喋ってる。お前がやったんだよ。
翌日にはクッキーを焼いて配っておいたから、野球部は元気いっぱい。部室のことも忘れてるな。
「てかさ~……いつもそんなことしてんの?」
ジュマルが器物損壊に至った原因とも言える犬養
「まぁ……そうかな?」
「んなの親にやらせたらよくない?」
「親か~……」
「なに? 毒親とか??」
「紙一重だね。過保護だからやりすぎることもあるの。私がやったほうがてっとり早いし、丸く収まるのよ」
「ふ~ん……でも、あんたが犠牲になる必要ないと思う。そんなにアニキばかりに時間使ってたら、やりたいことやれないだろ」
エマの発言に、私は顔がニヤけた。
「へ~。優しいとこあるんだ~」
「あん?」
「犬養さんって不良なのにと思ってね~」
「バッ……ヤンキーじゃねぇし。ただのギャルだし」
「え? 違うかったの??」
「見てわかるだろ」
「わかんないよ~。みんなも不良だと思ってるよ~」
「あっ! だから誰も声かけて来なかったのか!?」
エマ、高校デビューは失敗。詳しく話を聞いてみたら、ギャルになりたくて校則の緩いこの高校に猛勉強して入ったんだって。でも、そのぶっきら棒な喋り方と格好じゃ不良にしか見えないわ~。
ちなみに私を睨んでいた理由は、1人になるのを待っていただけらしい。あんなに機嫌悪そうにされたら、わかるわけないわ~。
エマの誤解を解こうとしてあげたけど、もういいとのこと。それならば私は特に何もせず、ギャル道の話を毎日教えてもらっていたら、しだいに誤解が解けた。みんなもギャルには興味があったみたい。
そんなことをしていたら、私とエマはファーストネームで呼ぶ関係にまで仲が良くなった。私はギャルじゃないよ? ウマが合うだけ。
今日の放課後はジュマルの練習を見に行くと言ったら、エマがついて来た。
「またアニキの心配してんの?」
「ううん。いちおうマネージャーだから、たまに顔出すようにしてるの」
「マネージャーって、あそこで体操服を着てるヤツを言うんじゃね?」
エマの指差す先には、野球部のマネージャーを続けている
「まぁそうとも言うけど、私はお兄ちゃんのマネージメントをしてるみたいな? スケジュール調整とかを主にやってるんだけど……」
「うん。高校生がやることじゃないわ~」
「だよね~?」
私の役割を言語化してみたら、普通に職業だったので自分でも呆れちゃった。
「前にも言ったけど、ララはやりたいことないの?」
「やりたいことね~……オファーはいっぱいあるんだけど、定まらないの」
「オファー??」
「うちの親、社長と弁護士だから、社長と弁護士でしょ? お兄ちゃんについてスポーツエージェントってのもある。警察とか芸能界からも来たよ。お嫁さんに至っては、星の数ほど」
「聞いてて同じJKとは思えないわ~。あと、しれっとモテエピソード入れただろ?」
「あ、バレた? アハハハ」
エマの睨みは笑いでごまかし、逆に質問。
「エマはやりたいことあるの?」
「ウチ? ウチは漠然とだけどね」
「なになに~?」
「海外を回るような仕事をしたいんだ」
「てことは~……傭兵とか??」
「物騒だな。普通にキャビンアテンダントとかだよ」
「あ、そっち? てっきり……」
「だからヤンキーじゃねぇし!」
エマをからかっていたら、ジュマルがグラブを投げ捨てて走って来て、間に割って入った。
「どうしたの?」
「ケンカしてたやろ?」
「ちょっとふざけてただけよ」
「ふ~ん……」
「てか、ちょうど時間だね。サッカー部行こっか?」
「おう!」
「近いって。腕組むな」
ジュマルはまったく言うことを聞かずにエマを見ているので、私は大声で結菜ちゃんたちにあとのことを任せ、ジュマルを引っ張ってサッカーグラウンドに連れて行く。
そこでしばらくジュマルのウォーミングアップに付き合ってから、送り出した。
「ジュマルってシスコンなのか?」
「なんで??」
「ララにべったりだったじゃん。アレは嫉妬だね。ララもひょっとして……」
「なに~? さっきの仕返し~??」
「それもあるけど事実だよ」
「ないない。私はもっと王子様のような彼氏がほしいの~」
「ジュマルより王子様みたいな顔のヤツ、めったにいないぞ」
「アレ? エマもお兄ちゃん狙い? それならそう言ってよ~」
「ちがっ……ウチはカズチカ、一筋だし!」
エマは焦って否定するので、本当にジュマルを狙っているのかと思ったら、スマホで意中の人の写真を見せられた。
「プロレスラー?」
「まぁ……ララはどんなの好きなんだ?」
「私はこの人」
「韓流スター?」
「うん……なんか不毛なことしてるね」
「だな……似てる人いたら、紹介しあおう」
お互い推しメンを紹介しあったけど、どちらも出会えそうにないので、遠い目になる私たちであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます